第13話
それからというもの、ジェイド・フェルニールの姿をしたジャックは今まで以上に警戒されるようになったのだ。特にマリィには目を光らせられていた為迂闊な行動が取れなくなったのである。その為、ギルド内では常に誰かと一緒にいるように心掛けるようになったのだ。しかしそれでも隙を見ては逃げ出そうとするのでその度にマリィに鎖で縛られる謎プレイをさせられて、酷くジャックは困惑気味にあった。誰かに助けを求めたとしても、真実を知るのはヤード、マリィしかいないため周りの人間たちは
「おう、ジェイドまたセクハラかましたのか?」
と茶化すだけであり、味方と言える存在がいない事を思い知らされたジャックは深く絶望するしかなかったのである。そんな様子をヤードは静かに見守っているだけだったのだが不意に視線が合うなりすぐに逸らされてしまうのだ。嫌でも察する、自分のよく似た伝説の黒魔導士はラグナも言っていたがとんでもなく女にだらしない最低の糞野郎だということを。そんなやつと、似ていると言われることが屈辱に感じてしまうくらいにジャックは深いため息を着いた。
「はぁ……、早く帰りたい」
そう呟くと彼は再び深いため息をつくのであった。
「ジェイド・フェルニールは、今どこにいるんだ?ジャック・フェンダニル」
「……さぁ?」
そんなやり取りをした後二人は同時にため息をついた後、それぞれ自分の持ち場に戻ることにしたそれからというもの、マリィは毎日のようにジャックに仕事を押し付けるようになったのだ。しかもそれはどれも厄介なものばかりでとてもじゃないが一人でこなせるようなものではなかったのだがそれでも彼女は容赦なく押し付けてきたのである。
「あの!マリィさんってその…ジェイド・フェルニールに何かされたんですか?」
ある時、ジャックは思い切って本人に直接聞いてみる事にしたのだ。しかし彼女は目を丸くさせて驚いている様子だったのでやはり触れられたくない話題だったのだろうと思い謝罪しようとした時だった。マリィは小さくため息をつくと静かに語り始めたのである。それはまるで誰かに聞いてもらいたいというような雰囲気を醸し出しておりその空気を感じ取ったのかジャックは黙って耳を傾けることにした。すると彼女の口から飛び出した言葉は意外なものだったのである─。
「いや、そんなに変わったことはされとらん。だが、私の命の恩人ではある」
そしてある日、偶然通りかかったジェイドに腕を見込まれギルドに連れてこられたらしかった。最初は抵抗したものの、彼の圧倒的な力の前には為す術もなくされるがままにされていたという。そしてマリィの魔力が開花した時に彼女はようやく自分の存在意義を見出したのかそれ以降、ずっとジェイドの側にいるようになったらしいのだ。しかしある日突然彼は姿を消してしまいそれ以来消息不明のままなのだそうだ─。からなのか、マリィにとってジェイドは特別な存在であり同時に憧れの存在でもあったのだという事をジャックは知る事になったのである。だからこそ彼が生きていると知って嬉しかった反面複雑な感情を抱いたのだろう。
「だから、ジェイドを見つけたら一発ぶん殴る」
「やめましょうよ!?」
鬼の形相で拳を振り上げようとしていたマリィを見て慌ててジャックは止めに入った。流石に流血沙汰は避けたいようだ─。そんなやり取りをした後、二人は仕事に戻る事にしたのだがそこでふとある事に気づいたジャックはある疑問を投げかけたのである。それはなぜ自分なのかという事だ。何故自分なんかが代わりにならなければならなかったのか理由が知りたかったのだ。すると彼女はこう答えたのである─。
「…確かに見た目は同じだが中身は全然違うしな」
マリィはそう言って苦笑する。
「にしても、本物もお前みたいには…ハ…」
「何ですか?」
「は、破廉恥なことをしなければ良い漢、なのに」
そう言ってマリィは顔を真っ赤にして俯いてしまったのだ。その様子を見たジャックは一体何を思い出したんだ?と不思議に思いつつ首を傾げたものの深く聞くことはせずそのまま仕事に戻ったのである─。
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