第12話
「ジェイド・フェルニールッ、ジェイド・フェルニールに思いっきり仕事押し付けられたんです!?」
「はあ!?」
「だから!俺、アイツに仕事押し付けられたんですよ!」
それを聞いたマリィは少しの間呆然としていたがすぐに我に返ったかと思うとハッとした表情でジャックの方を睨みつけた。それと同時についさっきまで穏やかな顔をしていたヤードの表情が一変する。それはまるで信じられないものを見るような眼差しだった。そして次の瞬間には、マリィの銃剣はジャックの首元ギリギリで止まっていたのだ。その様子を見た彼は小さくため息をつくと安心したようにほっと胸を撫で下ろす。どうやらヤードが制止してくれたお陰で命拾いしたようである。
「正確に言うと…俺…よくわかんないけどあの人に刻印刻まれて…」
あ、と何か合点がいったのかヤードがポンと手を打った。そして彼は、先に気づいていたジャックに刻まれた刻印の話をそのままマリィに話したのだ。それを聞いた彼女は複雑な表情を浮かべると頭をかかえてしまったのである。その様子を見たジャックは首を傾げるしかなかったのだがしばらくして顔を上げたマリィの表情は真剣そのものといった様子だった。それはまるでこれから戦うような気迫を感じさせる程であった。だからなのか自然と背筋が伸びてしまい緊張が走るのを感じたがそれも束の間であり次の瞬間にはいつもの彼女に戻っていたので思わず拍子抜けしてしまった。だがそれも束の間の事ですぐに次の質問を投げかけられる。
「貴様、今からでも遅くない。ジェイド・フェルニールではなく、ジャック・フェンダニルとして正式に入る気は?」
「いや、それは無いです。俺はあくまでジェイド・フェルニールとして生きていきます」
ジャックの答えを聞いたマリィは「そうか」と一言だけ呟くように言うとそれ以上は何も言ってこなかったのである。その様子を見た彼は内心ホッとしつつ一安心する事にしたのだった。だがしかしまた新たな問題が浮上した事を考えると頭が痛くなるばかりだったのだ。しかし今はそれよりも優先すべき事があると思いすぐに切り替えたジャックはそのまま立ち上がるとヤードの方へと向き直るなり頭を下げて謝罪の言葉を述べたのである。それに対してヤードも気にするなと返した。
「ともかく、これは由々しき事態!想定外、プラン外だ!」
わしゃわしゃと、頭を掻きながら苛々とした表情でマリィは叫ぶ。
「ジェイド・フェルニール本人見つけたら、マジでぶん殴ってやる」
そう吐き捨てるように呟くとマリィは杖を構え始めたのだ。それを見てジャックは慌てて止めに入る。しかし彼女は聞く耳を持たず再び魔法陣を展開し始めるのでジャックも慌てて魔力を練り上げる事にしたのだがその時であった─。
「それは困るなぁ~」
突如、頭上から声が響いてきたのだ。しかも聞き覚えのある声で、それはまるで自分を叱責しているかのようであった。思わず見上げるとそこには見知った顔があったのである─それも今、一番会いたくない男…
「…お前、いつの間に…!?」
そう、そこに居たのはジェイド・フェルニール本人だったのだ─。
ジェイドはジャックの姿を見つけるなりすぐに飛び降りてきたかと思うとそのまま彼の前に着地した。そしてそのまま彼の方へと歩み寄るといきなり胸ぐらを掴み上げたのだ。その様子を見ていたマリィが慌てて止めに入るものの聞く耳を持たないのか無視を決め込んだままである。そしてそのまま彼を睨みつけるとこう叫んだのである。
「簡単に姿、明かしちゃダメってわかんなかった?」
それはまるで今までに見たことない、彼が怒りに満ちた声だった。しかしどこか悲しげな表情にも見える気がしたのだが気のせいだろうか?そんな事を考えているうちにジェイドはジャックから手を離すとそのまま立ち去ってしまったのである。残された三人はただ呆然と立ち尽くしていたのだがやがて我に返ったマリィが慌てて後を追いかけていくのを見送りつつヤードは深いため息をつくほか無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます