第11話

それから数日後、ようやく全快したジャックは、話を聞くためヤードを探していた。

ジェイド曰く、彼が実際にここに在籍していた頃に相棒バディを組んでいた相手だったと張本人から何気なく聞いていたからだ。そしてしばらく歩いているうちに、彼は中庭のベンチに腰掛けて本を読んでいるヤードの姿を見つける。


あまり気にしていなかったが、よくよく見てみると彼も本物のジェイドとはまた違ったカッコよさ、男前さを兼ね備えている男だな…という事にジャックは気がつく。

そんな彼の姿を見つけるなりジャックはすぐに声をかけた。するとヤードはこちらに気づいたようで顔を上げると小さく笑みを浮かべてみせたのだ。その笑みを見て思わずドキリとしたのだがすぐに気を取り直したジャックはそのまま彼の隣へと座った。


「ジェイド、どうかしたのか?」


「いや…別に」


それからしばらくの間、気まずく度し難い沈黙が続いたのだがそれを破ったのは意外にもヤードの方だった。


「なぁ、お前。本当はジェイドじゃないんだろ?」


いきなり核心を突かれてしまい動揺してしまうものの何とか平静を装って見せる事ができたのは我ながら大したものだと内心自画自賛しつつも、とりあえずは聞き返してみる。


「…な、何言ってんだよ?」


「まずそもそも、腕の刻印の位置が違う。おまけに、召喚術余裕だったあいつと違って一回の召喚だけで日和っちまうし」


「それは…」


「それに、ジェイドの野郎はそんなに自信なさげな態度はしてない」


そこまで言われてしまうと流石に言い逃れが出来ないと思い素直に認める事にした。いい、いずれこうした日が来るのは理解していた。はあ、と肩を下すとジャックはヤードの目を見つめる。


「そうだ…そうだよ。俺はジェイド・フェルニールじゃない。ジャック・フェンダニルだ」


「やっぱりね。そうだと思ってたよ」


拒否されるどころか、どこか安堵したような表情でヤードが返したのでジャックは想定外の反応に酷く動揺した。てっきり拒絶されるとばかり思っていたからだ。

だが、ヤードはそんなジャックの様子を見て小さく笑うとそのまま話を続けたのだ。どうやら彼は最初から気付いていたようだった。


「何で、分かっていたのに止めなかったんですか?」


「それはだな…」


ヤードは少し考える素振りを見せた後こう答えたのである。それは彼がジェイドと瓜二つだった事が原因らしい。見た目はかなり似ていたがそれでもやはり違うものはあるのだという。ちょっとした仕草や表情などが特にわかりやすいらしかった。でも、流石に最初ギルドに連れてこられたときは動揺して魔導書を落としたらしい。


「…どうしてですか?」


「この事を知ったら、あの人が悲しむ。それに、もうジェイドが居なくなったことで荒んだあの頃に戻りたくはない」


そう言ってヤードは目を伏せたのだった。その表情を見てジャックは何も言えなくなってしまった。きっと彼もまたジェイドだけではなく、同じギルドで過ごす仲間達を大切に思っている一人なのだという事が大いに伝わってきたからだ。だからこそ、真実を告げる事はしないのだろうと理解したのだった。


そして同時にジャックは自分の軽率な行動のせいで迷惑をかけてしまったのだという罪悪感に苛まれた。だがそれでも彼は決して自分を責める事はしなかったし寧ろ励ましの言葉をかけてくれたりもしたのでそれが余計に心を痛める。


「おい、どういうことだ」


突然背後から声を掛けられたジャックは、驚いて振り返る。そこには腕を組みながら仁王立ちしており明らかに不機嫌そうな表情を浮かべているマリィが立っていた。


「一体、どういう事?まさか、冗談じゃあるまいな」


彼女の背中にはすでに10も超える赤い魔法陣が展開されていた、後の展開を察したジャックは恐る恐る彼女に声を掛ける。


「あの、マリィさん?どうして怒ってらっしゃるんですか?」


「貴様が何を考えてこんな行動をしたのか問い詰める為に怒っているに決まっているだろう!」


そう怒鳴ると同時に、彼女の魔法陣から出現したマスケット銃から火の玉が次々と撃ち出され始めた。その数たるや凄まじいものでありジャックは瞬時に逃げ出すもののあっという間に追いつかれてしまうとそのまま捕まってしまったのである。そして強制的に正座させられるなり説教が始まった。


「私は嘘が嫌いだ!真実を話せ、偽物野郎ッ!」


恐るべしマリィ・ラスタリア最強の女戦士。ともいうべきか、彼女が銃剣をジャックの首元寸前に構えた状態でそう叫ぶ。ジャックは観念したのか、大きくため息をつくとゆっくりと口を開いた。

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