第10話

ジャックが次に目が覚めた時、そこは見知らぬ天井だった。上半身を起こし辺りを見回すとどうやらここは医務室のような場所で自分はベッドの上に寝かされていたらしいという事を理解する事ができたのだが何故自分がここにいるのか分からなかったのでとりあえず誰か呼ぼうとしたその時だ。


「起きろ、起きろって言ってるだろうが!」


不意に横から声を掛けられる。それは聞き覚えのある声だった為にすぐに誰なのか分かった。声のした方を見るとそこに居たのはマリィ・ラスタリアだった。彼女はジャックの顔を見るや否や安堵の表情を浮かべると同時に抱きついてきたのだが突然の事に驚きを隠せなかった彼は思わず固まってしまう。


「ジェイド!本調子ではないのに魔力の消耗しやがって!そのうえ、ぶっ倒れるとは何たる不覚!貴様、本当に腕が鈍ったなあ!?」


彼女はそう言うと今度は不機嫌そうに頬を膨らませながらそっぽを向いてしまった。ジャックはそんな彼女を見ながら苦笑しつつ、


「なんだ…もう先に起きてたんですね」


「当たり前だ!戦士たるもの、強くなくてはならん」


ふふん、と自慢げに彼女が行ったところで


「ところで…俺が起きるまで何があったん…何があったんだ?」


口調をごまかしつつジャックは彼女に問うた。するとマリィは不機嫌そうな顔をしながらも話し始めたのだがその内容を聞いた瞬間、彼は絶句した。


どうやら自分はラグナとの戦いで魔力を使い果たしてしまい気を失ってしまったらしいという事を知ったからだ。しかしそれで何故自分が生きているのか疑問に思ったので聞いてみる事にしたのだがその答えは意外なものだったのである。なんでもあの後すぐに駆けつけたヤードが自身とマリィを回収し助けてくれたらしくそのまま医務室に担ぎ込まれたようだった。


「全く、貴様は本当に馬鹿だな。もう少し冷静になったらどうだ?そんなんじゃいつか死んでしまうぞ」


「悪かったよ……でもあの時はああするしかなかったんだ……」


ジャックがそう言うと彼女は小さくため息をつくとそれ以上は何も言わなくなってしまった。どうやら呆れられてしまったらしいという事を理解した彼は思わず項垂れるしか無かったのだ。


「しかし…帝国魔導士連合組合直属の天帝魔導師連合軍団セレスティアルウィザードエンパイアアーミーが、何故我々に攻撃を仕掛けてきたんだ…?」


マリィは腕を組みながら、そういって見せる。ジャックにとっても疑問である。帝国魔導士連合組合とは、その名の通り帝国に所属する魔法士達の組合だ。新米魔導士のライセンス付与に携わっているれっきとした国営の組織だし、天帝魔導師連合軍団に関しては早々隣国の大戦などが無い限り滅多に動くことのない戦闘に長けたプロフェッショナル達の集まりだ。しかも今回は、理由を明かさずにこちらを攻撃してきたわけだ。


それが何故なのかという疑問が湧いてくるわけだが今は考えても答えが出ないので、ジャックはとりあえず保留にしておく事にした。。それよりもまずはこの怪我を治す事が先決だと思ったからだ。そこでふと彼は思い出した事があったのでそれを口に出す。


「ところで、ラグナ・ビューディに似た、女は何だったんだ?」


「ああ…あいつか、アイツはロッカ・ビューディ。ラグナの野郎の双子の妹さね」


マリィはベッドに腰掛けながらそう答えてくれた。それを聞いたジャックは思わず目を見開いたのだがすぐに冷静になると、そのまま静かに目を閉じたのだ。


(なんか、厄介なことに巻き込まれてそうだなぁ…)


まさかこの予想が、本当に当たるなどジャックは知る由もなかった─。

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