第7話

そして次の日、目を覚ますと昨日まで感じていた腕の痛みはすっかり消えており、

昨晩彼が言った通り、左腕全体にジェイドの黒魔導士としての象徴である龍の刻印が刻まれていたことに驚きを隠せないでいた。


(マジだったのかよ)


ジャックは心の中で呟くと自分の左腕をまじまじと見つめる。それはまさに本物の龍のようで、思わず見惚れてしまう程だった。しかし同時に不安もあったのだ。本当に自分は彼と同じことが出来るようになったのかという疑問である。もしそれが本当ならば、今まで出来なかったことが出来るようになるということだが……果たして本当にそうなのか?そう思い悩んでいた時だ。不意に部屋の扉が開かれたかと思うとそこにはジェイドの姿があったのである。しかも彼は何故かニヤニヤしており気味が悪かったのでジャックは思わず眉を顰めたのだった。

そしてそのままジェイドは部屋へと入ってくるなり口を開いた。


『発現成功~♪こんなサービス、滅多にしないんだからねっ』


気色悪いウィンクを浮かべながら、ジェイドはジャックに近寄る。


「あの、なんなんですかホント。」

そう答えるとジェイドは満足そうに微笑んだ後、突然ジャックの腕を掴んだのだ。そしてそのまま刻印を撫でるように触れる。その瞬間ビリッとした感覚に襲われたがすぐに収まったのでほっと胸を撫で下ろす。するとジェイドはニヤリと笑みを浮かべた。その笑みは正に悪魔そのもので思わず背筋がゾクリとした。そして次の瞬間には彼は耳元でこう囁いたのだった。


『…存分、暴れてみれば?だって今日、”ジェイド・フェルニール”としての初仕事なんでしょ?』


そう、今日はジャック・フェンダニルが訓練を抜け、やっとジェイド・フェルニール本人として行動を行う初任務の日だった。その依頼とは酷く単純なもので、ギルドの古参幹部と一緒に皇国内にある森をパトロールするという、これ魔導士じゃなくても充分できるだろ、と言わんばかりの仕事を頼まれたのである。


「にしても、シンプル過ぎませんかね…?」


『いやいやぁ~、森を侮っちゃいけないよ!もしかしたらとんでもないものと遭遇するかもしれないんだよ?例えば…』


何か、ジェイドが言いかけたところで扉の外からノックがした。それに応対すると、

聞き慣れた声が聞こえてくる。


「ジェイド、時間だ。もう出発するぞ」


声の主はヤードだった。慌ててジャックが、外に出ようとして後ろを振り向いた頃にはもうジェイドは姿を消してしまっていた。全く、神出鬼没な男には困ったものだと肩を下しながらドアノブに手を掛ける。



『マリィには気を付けてね♪』


どこかで、ジェイドの声が聞こえた気がしたが、ジャックはあえて聞こえないふりをしていた。

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