第5話

「…やぁ、君がジャック・フェンダニルだね?」


首をあげると、目の前にはジャックがもう少し成長したような姿をした高身長で端正な顔立ちをした長い黒髪の男が、穏やかな笑みを浮かべてこちらを見つめていた。

ジャックは一瞬で察する。ジェイド・フェルニールご本人様登場……だ。間違いない、自分と瓜二つの彼がそこにいた。なぜ、生きているのなら皆の前に出てこないんだ、と思ったジャックは顔を顰める。


「…ジェイド・フェルニールさんですか」


「そうだよ~!でも、君にはその名で呼ばれたく無いな。」


「はあ?何言ってんだお前……」



そう言うとジェイドはジャックの頬に触れて瞳を真っ直ぐ見つめてきたので慌てて顔を逸らす。そして彼はこう続けたのだ。


「…ジャック・フェンダニルは死んだ」


そう告げられると、ジャックはカッとなってジェイドの胸ぐらを掴み上げる。


「それってどういうことですか、意味が解らない…」


「そのままの意味だよ。ジャック・フェンダニルという魔導士は死んだんだ。」


「死ん……だ……?」


その言葉を聞いた途端、胸が苦しくなりまるで鎖で締め付けられるような痛みに襲われる。ジャックはその場に崩れ落ちると頭を抱えて蹲ったのだった。その様子をジェイドは静かに見下ろすと口を開く。そしてこう言ったのだ。


「そう!君は、俺になったんだ」


冷たく、放たれた言葉の刃にジャックは思わず息を呑む。一体何を言っているんだ、この男は……と考えながら彼はジェイドを見上げるとまたにこやかな笑みに戻っていた。


「まあぶっちゃけ?俺がいると最強すぎて仕事多忙になっちゃうから…自分失踪したことにして似た君に役職押し付けたっつーのが正しいかな!」


「は…?それ、本当だとしたら最悪すぎでしょ」


ジャックがそう言うとジェイドは笑いながら立ち上がると、ぽんっと肩を叩かれる。そして耳元でこう囁かれたのだった。


「まあ、これからよろしくね?ジェイド・フェルニールくん?」


◆◆◆


(ああ……本当にもう勘弁してくれ……)

ジャックは心の中でそう叫ぶと深い溜息をつく。あれからというものの、毎日毎日グロウにしごかれていて正直死にそうだと思ったからだ。しかしそれはまだいい方で、問題はあのジェイド・フェルニールだ。彼は、ジャックの姿を見る度に声を掛けてくるのだ。そして今日もまた、大会議室でグロウに扱かれている最中もジェイドは話しかけてきた。しかしどうやら、流石!伝説の黒魔導士だということもあって自身を人から認識させなくする魔術を展開させて、他の人からは見えないようにふるまっているから質が悪い。


ある日のこと、いつものように訓練をしていると突然背後から声を掛けられたのだった。振り向くとそこにはジェイドが立っていてジャックは顔を顰める。

するとジェイドはニコニコ笑いながら口を開いた。

どうやら彼は暇らしく、こうしてジャックにちょっかいをかけに来るらしいのだ。正直迷惑でしかないのだが、それを口にすれば更に面倒になるので仕方なく声を聴く。


「ね~、そんなにキッツイなら俺が修行してあげよっか?グロウよりかは、マシだと思うけど?」


「は?余計なことするな、邪魔くさい」


「え~……?でもさぁ~」


「あ”?」


ジャックが凄むとジェイドは怯んで口を噤み黙り込む。そしてそのままジャックの方へと歩み寄るとその肩に手を置いたのだった。それに思わず反応してビクつくジャックだったが気にせず彼は口を開いた。


「それにしても君って面白いね!だってさ、グロウの修行を耐えれるなんて凄いことだよ!」


「……別に好きで耐えてるわけじゃねーよ」


そう呟くと、ジェイドはクスクスと笑い始める。

その態度にムッとして睨みつけると彼は肩を竦めてみせた。そしてさらにこう続ける。


「まあこの調子じゃ、いずれ俺を追い抜くのも時間の問題かもね」


その言葉にジャックは思わず目を見開いたがすぐに視線を逸らすと舌打ちをしたのだった。しかしそんな反応すら面白いのか、ジェイドはずっと笑っていた。


(ああもう!ほんと最悪だ……)


ジャックは心の中でそう叫びながら、ひたすらジェイドを無視することに専念したのだった。



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