第3話 地上探査
宇宙人の受精卵が成長して、18歳になっていた。地上で暮らす準備は、資金面でも十分だった。まずは、地上での広大な土地の確保と建物新設だった。大統領は、世界を知るデイトレーダーの西島勝人そしてジビエ料理店オーナーの渡会秀俊が首相だった。工場や農場では、従業員が自給自足できるぐらいの生活必需品を作っていた。販売する目的はなかった。教育は、個々人の興味で大学レベルまで上がっている。
「火星を住める星にするより、地球の氷期でも住めるようにした方がいい。それに、系外惑星を探しても行き着くには、地球のどんな高精度の技術を用いても無理だよね」
「ハンターの沢村修二の話は、勉強になる。氷期に入れば我々にもハンターが必要だ。みんなに募集をかけよう。5人は必要かな」
「ジビエ料理店では、アルバイトが殺到したから競争率が上がるね」
「農家の松本一輝も、地球の食糧研究には良い勉強になる」
「若いから、好奇心旺盛だね」
「ジビエ料理店は、地球を知る良い社交の場であり、憩いの場だね」
「任務を忘れそうだ。みんな楽しんでいるよ」
「日本の法律では、ハンターがジビエ肉を飲食店へ直接的に販売することは禁止されていて、近くの食肉加工施設へ運び込み、買い取ってもらう必要があるらしいね。狩猟から施設に届けるまでのタイムリミットはわずか2時間と定められていて、廃棄されるケースも多いらしいよ」
「有害鳥獣問題とジビエの利用増加を解決するエコシステム作りをしている団体があるみたいだね。飲食店とハンターの間で直接的に営業や受注、発注、決済などが行える仕組みを上手く機能させ、食肉加工施設も加工と処理だけに集中させ、利益を上げ易くしているようだね」
「農産物が荒らされるので害虫駆除など、必要不可欠なものが経済になることは大事だよ。氷期では、飼育はせずに、ハンターが食肉調達員だからね」
「みんなで地球を研究し、有意義に活用しょう」
日本では、地質学を学ぶ臼杵知花と気象学を学ぶ神崎香里そして海洋学を学ぶ榎本美鈴の三人が日頃から氷期について話し合ってきた。知花は、美味しいジビエ料理店に二人を誘った。
「ようやく、両親が財産を自由に氷期の生き残りのために使うことを了承してくれたわ」
臼井知花が嬉しそうに言った。
「私たち三人でやり抜きましょう」
榎本美鈴が決意を語った。
「氷期がいつか来ることは認めていても、3万年から5万年先だろうと高を括っている現状からは脱していないわね」
神崎香里が情けなさそうに言った。
「いいえ、近いうちにくるわ」
美鈴が力強く言った。
「温暖化が氷期を早めるのよ」
知花が真顔で言った。
「そうよ、氷河が融解して、ヤンガードリアスが起こったわ」
美鈴が真剣に言った。
「寒の戻りというか、急速に寒冷化するのよ」
香里が声を荒げた。
「現在の気候システムでは、暖流のメキシコ湾流がグリーンランド沖まで到達することによって北米や北欧が比較的温暖な気候で、そのような暖流が停止すると、これらの地域は急速に寒冷化するのよ。
メキシコ湾流の停止は大規模な淡水の流入によって引き起こされ、氷床が温暖化とともに減少し、内陸部に巨大な淡水湖が形成され、この湖から大量に淡水が大西洋に流入し、それによって一時的に北米や北欧を中心として急速に寒冷化したイベントがヤンガードリアスとされているわ」
美鈴がまたも憂いた。
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