左腕に封印されし黒歴史と、私を形成する黒歴史

たっきゅん

左腕ニ封印サレシ黒歴史、そして青春の元黒歴史を 解放っ!

 カクヨム誕生祭2024の一環で〝黒歴史放出祭〟という企画が行われる。人生そのものが黒歴史に思える私だが、その中でも飛び切りの〝深淵に封印した黒歴史〟をここで解放しようと思う。厨二病という言葉があるがこれは恐ろしい病だ。


「昔話をしよう。ゆとり教育開始世代の小学生から中学生への変化、その一つにシャーペンの解放がある。まぁ、これは私たちの地域だけの話だったかもしれないがそれを確かめる術はないので世代全体の話としよう。インターネットがまだ普及しきっていない時代では自分たちの周辺が世界の全てだったからな」


 シャーペンの解放、言い換えれば小学時代は鉛筆以外の授業での使用を禁じられていたわけだ。小学生にはまだ早いと。今にして思えば、低学年の子どもらもいる小学校では誤飲などのリスクがあったからなのかもしれない。そう考えると〝シャーペンを使える=大人〟の認識で問題はなかった。


「だが、このシャーペンの解放が私の厨二病という闇を、中学二年生という思春期に解放してしまったのだ。それは左腕に刻まれ、黒歴史となっているので私は封印していたのだが、せっかくの企画なので聞いて欲しい」


 別段何ともない日常、そして授業と休み時間。学校生活は別に孤独だったわけではない。仲のいい友達もおり、部活動は……柄にもなくバスケットボール部に所属していた。体験入部から体育会系の中でもトップクラスに過酷な練習には参加し、退部者が多い中で生き残り、そしてスタメンとして試合に出ることなく中学生活が終わるのだが、この話は黒歴史の最後に書こうと思う。


「さて、そんなごく普通の中学生だった私はシャーペンという大人の筆記用具を手にしたのだが……。シャーペンは何に使うものだと思う? そう尋ねた場合はノートに絵や文字を書くための物と答えるだろう」


 普通はそう答えるし、私もそう答える。だが厨二病というのは恐ろしく、に手をしてしまったのだ。それを見つけたのは偶然で、そこに文字を書いたら少し後に痕が浮かびあがってきた。


「そして、私は龍や炎、剣といった中学二年生が好きそうな絵をに書き込んでいったのだ。するとどうなるか……」


 予想できる人はほとんどいないだろう。もうこれ自体が黒歴史であり、消し去りたい記憶となっているはずだ。しかし、私の話には続きがある。


「教師に呼び出される。なんでこんなことをしたのかを問われるのだ。中学二年生の私には全く理解できなかった。ただ〝かっこいいから〟とだけ答えるともうやらないようにと注意を受けた」


 さすがに次にやったら親を呼ぶと言われたら私もやめるしかない。そして大人になってわかったのだ。この行為は自傷行為に該当し、何かしら問題を抱えていると受け止められていたことに。


「厨二病に魅入られし子供たちよ、シャーペンの先で腕に何かを刻むのはやめるように。その行為はシャレにならんぞ」


 私から言えるのはそれだけだ。そしてこの〝左腕に刻まれた黒歴史〟は再び再封印しよう。やってはいけない深淵の儀式だからな。


「以上が私の黒歴史だが、せっかくの放出祭だ。黒歴史を極めすぎて伝説の白歴史となった話もしておこうか。前途記載したバスケットボール部の話には続きがある。どう考えても中学3年間を部活に捧げてずっと補欠で試合出場なしという文字にするだけで辛いような黒歴史だが、高校に入学し黒歴史が昇華された」


 そもそもバスケットボール部に入部した理由は某国民的漫画の影響であり、体験入部時点で希望者が多かったのに対し、練習に大半が付いていけなかったのはそのような文系の人が数多くいたからである。ええ、バスケがしたいです。というアレで私も例に漏れずその一人です。


「そんな中学の部活動から一転、高校に入り私は電子機械を扱う文系部に入部した。しかし、廃部の危機であった……オワタ。3年生の卒業で部活動存続の最低人数を3人割っているらしく、3人以上が入部しないと廃部となる。そのような状況下で奇跡的に私を含めた3人が入部し、部活動は危機を免れたのだが……。翌年もギリギリで危機を乗り越えたような状況で3年生へと進学する」


 漫画やドラマのような展開だが実話である。なお、2年生時点で入学初日に私の席の上下左右で殴り合いをして流血事件を起こした二人がこの部に後から揃ったという「先生、バスケがしたいです」的な展開もリアルに起こっていたのも追記しておこう。


「さて、ここで情報を追記するとその二人と、サッカー部からの転部者、そして私は生徒会の役員に就任した。そして、私は部長となった。……どうしてこうなった。いや、分かりきっている。だた乗せられたのだ。中学時代のバスケットボール部の部長はラグビー部の部長となり、バスケットボールを続けた人もその部で活躍、女子バスケットボール部の部長も同様。出身中学から少ない人数しか来ていないのに周りが目立っているのだ。部活動関係者が濃すぎる……私もだが」


 こうして黒歴史だったはずの中学時代のバスケットボール部が、人との繋がりによって一目を置かれる白歴史へと変貌を遂げた。高校最後となった体育の授業では自由に時間を使っていいということでバスケットボールでの試合を行った。何の因果か私はスリーポイントシュートを決めてしまい伝説になったことも追記しておく。なお、ディフェンスがその後は付いてボロボロだったが皆に感動と笑いを届けられたので中学時代の部活動も悪くなかったなと、学生時代最後に思うことができた。


「黒歴史で思い出したが、学校には伝統の行事と呼ばれるものがある。私の通っていた高校では生徒会が文化祭の開会式で余興をするというものがあった。当代の生徒会長は某MMORPGネットゲームで盟主を務めるような人材で、ネットのコネを使ってとんでもムービーを作り、私たちは環境問題への演劇を行った。……私の役は〝木〟であったが、当演劇における戦隊ヒーローの武器であり、廃棄される業務用冷蔵庫と扇子を持って戦った。割と本気で。本気の劇はバカ受けし、伝統が始まって初となる生徒会が表彰される事態となった」


 そして後に知るのだが、その時に顧問だった先生が出し物は自由だったはずのものを〝生徒会による演劇は伝統〟と書き換えたようだ。5年後、生徒会に入った弟が言っていたので間違いない。これが伝統と呼ばれるものの正体か……、黒歴史の発生源になるという普通は経験しえないことを私たちは成し遂げたようだ。


「最後に、部長となった私の功績を記しておこう。廃部寸前の部活から学校で運動系、文科系を含めて一、二位を争う人気の部活へと変貌を遂げていた。要因は新入生への部活動説明会で私が〝第二種電気工事士〟という国家資格を部活動で取れると免状と共にアピールした結果、大反響を呼んで新入生が殺到したこと。そして、サッカー部の練習が厳しくなりほぼ全ての在校生が大量転部し、多くが私の部活に転部してきたためである」


 前途のように私は生徒会を兼任しており、部活動は1年以上幽霊部長であった。……なのに卒業アルバムは大勢の部員に囲まれて中心にいるという謎の黒歴史のような白歴史とも言える伝説へとなったことを記して私の学生生活を締めくくろうと思う。


「いかがだったであろうか。これがノンフィクションの実話とか信じられないだろう。だが、現実にあったことであり私の名は5年後まで伝わっていたというのも確認できている。弟が全く知らない学年でクラスの人に「弟くん、頑張って!」と声を掛けられるくらいには……。すまん、許せ弟。―――黒歴史と思っていた過去も、いつかは笑い話に変わる。さすがに、私のケースは特殊すぎてフィクションに分類されるくらいありえないと思うが、頑張っても報われなかった黒歴史だとしても、そこで培われたものは私たちの確かな歴史だ。私が言いたいのは、最初に書いた自傷のような黒歴史なんかよりも、頑張った黒歴史の方がずっと面白いだろ。だから頑張れ! 報われなくても、笑われても、必死で生きれば黒い色もいつかは自分の色に変わった自分だけの自慢できる歴史になるから」




 ―――この思いが読んだ方に届くのを願っている。


...end

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