第8話 3日目 松山城と湯築城

12時10分、松山駅着。

ここから路面電車で大街道まで行き、ロープウェイ通りへ。

ロープウェイ東雲口駅では、坊ちゃんの登場人物に扮した係員が券売機まで案内してくれる。

頂上までの往復は520円、松山城天守閣の観覧券を付けると1040円だ。


エスカレーターで移動して3階のリフト・ロープウェイ乗り場まで移動。

ロープウェイは10分毎の出発のためリフトを選択。

風はあるが日が昇ってきたおかげで意外と寒くない。

解放感もあって眺めも良く、これはリフトで正解だったと思った所でロープウェイに追い抜かれてしまう。

到着はせいぜい1分程度の差なのだが、なんか悔しい。


頂上にある長者ヶ平駅から、さらに歩いて天守を目指す。

けっこうな距離を歩かされるが、休みどころが充実しており、何より景色が良いのでさほど苦にはならない。

下から見た石垣の迫力には圧倒される。


姫路城、和歌山城と並んで日本三大連立式平山城に数えられる松山城は、山の四方に配された大小の天守閣が渡櫓で連結された造りになっている

そのためどの方向から敵が来ても迎撃が可能だ。

頂上からは四方を見渡すことができるため、攻め手は奇襲もできず、出血覚悟の力攻めで落とす以外に無い。

城というより近代的な要塞にイメージは近いかもしれない。


戸無門をくぐり本丸への道を進む。

経路は全て高所にある櫓から狙撃可能になっていて、門の前は全て十字砲火が可能な造りだ。

おまけに多重に通路が折れ曲がっているため、攻め手は方向感覚を失い逃げるのさえ難儀するに違いない。

これで門を固く閉じられていたら、兵はいくら命があっても足りないだろう。


ようやく本丸広場に到着すると、足はもうヘトヘトだ。

ただ歩くだけでもこれなのだ、本当にえげつない城である。

城山から松山の街並みを見て一服し、今度は天守閣を目指す。


日本でも貴重な現存12天守の一つである松山城は、敵の侵入を拒むため階段も急勾配だ

そのため入り口で貸してもらえるスリッパも、グリップが強いものになっている。

靴下で上がることもできるが、床もつるつるで滑るので、大人しくスリッパを履くのが無難だ。


天守の中は鉄砲狭間に石落とし、甲冑や掛け軸などが展示されている。

面白いのはVRコーナーで、上空から見た松山城の様子などを仮想体験できる。

最上階は展望台で、どの方向も絶景だ。

これから向かう道後温泉も見える。

本館は保存修理中とのことだが、新しい施設もできたと聞いているので楽しみだ。


松山城からリフトに乗って山を下りる。

道後温泉へ行くためにまずは路面電車の大街道駅へ向かうが、その前に寄り道。

訪問したのは日露戦争の英雄、秋山兄弟が幼少期を過ごした『秋山兄弟生誕地』だ。


300円払って入場すると、右手に兄の好古。

日本の騎兵を育てた彼らしく、騎馬に乗った姿だ。


左手には日本海海戦を勝利に導いた名参謀、弟の真之。

意識してそう造ったのか、鏡台の銅像は見つめ合うように置かれている。


『坂の上の雲』でも書かれていたように秋山兄弟の生家は下級武士で、家は小さく質素なものだ。

特に変わった所があるわけでもない。


見るべきところは小説では語られなかった、晩年の秋山兄弟についての資料だろう。

特に兄の好古が陸軍を辞めた後の、北予中学校の校長だった頃のものは面白い。

県大会で優勝した陸上部と共に撮影した写真はまさに好々爺といった風体で、陸軍時代の厳つい顔はすっかり消えている。

また老齢を理由に校長を辞任した時、引継ぎで書いた文書には実直な人柄が浮かび出ていた。

展示物の中には、好古が校長として授与した卒業証書もある

校長の名前に『従二位勲一等功二級』と書かれていた証書をもらった生徒は、さぞ畏まったことだろう。


大街道駅まで歩き、そこから路面電車に乗って道後温泉方面へ。

終点の一つ手前、道後公園駅で下車して湯築城へ向かう。


ここは伊予国の有力豪族であった河野氏の居城があった場所だ。

『信長の野望』など戦国時代を題材としたゲームではパッとしない存在だが、鎌倉時代から室町時代までは瀬戸内海最大規模の水軍を背景に大きな勢力を築いていた名族である。

しかし戦国時代になると、家督争いや近隣の有力国人の台頭により衰退。

戦国大名への脱皮が出来ないまま、豊臣秀吉の四国征伐をもって滅亡した。


駅方面から入って右手には湯築城資料館、100名城のスタンプはここに設置されている。

正面がかつての城跡だ。

松山城に比べるとさすがに劣るが、堀幅は広く手前には土塁もある。

小高い丘を登ると展望台があって、地元の子供たちが遊んでいた。


庭園を眺めながら北に進み、道後温泉を目指す。

内堀に沿って造られた小道を歩いていると、犬の散歩をする方や家族連れがいた。

こうした歴史のある地区が人々の生活の中に溶け込んでいるのを見ると、ほっこりする。

松山市民が何代にもわたって努力してきた成果が、この公園にはあると思った。

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