第7話 3日目 伊予鉄道横河原線と西条市

朝7時、松山市内大手町駅。

いかにも城下町といった駅のそばには、線路が平面で交差するダイヤモンドクロスがある。

全国で唯一、鉄道線と路面電車の軌道線が垂直交差しているスポットだ


ここから伊予鉄道に乗って高浜駅へと向かう。

車両基地のある古町駅を過ぎてから高架区間に入り、電車は松山港線に沿って港へ。

だいたい20分で終点の高浜駅に到着した。


伊予灘を正面に臨む高浜駅は、昭和の雰囲気バッチリといった趣のある駅舎だ。

駅が設置されたのは明治25年で、現在の場所に移転されたのは明治38年。

自然環境に恵まれた高浜港の将来性を見抜いて、当時の伊予鉄道の社長が三津から路線を延長したのだ。

昭和までは大変に栄えていて、駅の入り口にある売店にはその面影が残っている。

また駅の正面には、興居島(ごごしま)行のフェリーターミナルが見えた。


興居島は高浜港から2キロ離れた場所にあり、全島が松山市に属している。

起伏にとんだ地形をしていて、大規模なみかん畑や松山市を一望できる丘など景色も良く、1周22キロと手ごろなためサイクリングでは人気だ。


駅に戻ると、北側には松山観光港への連絡バスが止まっていた。


平成10年に設立された松山観光港からは、広島、呉、小倉などへのフェリーが出ている。

広島との間を1時間で繋ぐスーパージェットもあり、これを使えば広島観光をして日帰りで松山に戻ることも可能だろう。

かつての賑わいこそ失ったとはいえ、交通の拠点としての高浜駅はまだまだ現役のようだ。


7時59分、折り返しの電車がやってきた。

今度は反対側の終着点である横河原駅へと向かう。

松山市駅ではビルの中を通り、住宅街の中を走ってから石手川へ。

いよ立花駅を過ぎてからは線形がほぼ真っすぐになり、松山市から東温市へと入る。


東温市は平成16年に重信町と川内町が合併して発足した新しい市だ。

人口は33600人、愛媛県の市ででは唯一、海に面していない。

主な産業は農業だが、松山市のベッドタウンとなっていて勤め人も多い。

また市内に愛媛大学医学部と附属病院があるため人口当たりの病床数が多く、宝島社が発行する『田舎暮らしの本2018年2月号』では、住みたい田舎ランキングで四国エリア2位に選ばれている。


横河原駅には1時間ほどで到着した。

建物は綺麗だが小ぢんまりとしている。

シンプルイズベストを形にするとこうなるといった感じの駅だ。


駅から北へ向かって歩き、若宮社と書かれた石碑の横を抜けて県道松山川内線へ出る。

ここにある横河原のバス停から新居浜特急線で西条市を目指す予定だ。

時間は9時ちょうど、バスの時刻まであと30分はある。

横河原駅周辺は見るものも特になく、駅前の喫茶店も定休日。

ベンチに座っているのも寒いので、仕方なくブラブラと周囲を散策した。


駅の東側にある通りを歩く。

商店街は朝から準備を始めている店もあり、活気があるように見えた。

スマホで調べると、駅前で2か月に1回「横河原で朝ごはんを」をテーマに商工会が朝市を開催しているとのことだ。

特定の政治家を応援して補助金を受け取るだけの利権団体化している商工会が多い中、きちんと地域活動に力を入れているのは立派なものだ。

このような地域こそ成功して欲しいと切に思う。


新居浜特急線は、定刻よりやや遅れてやってきた。

路線バスはリクライニングシートを備えた大型のもの。

西条市まで1時間ほどの山越えになるので、これは腰が助かる。

乗客は10人ほどで、若い女性が多いように感じた。


田園地帯を横目に高度を徐々に上げて、バスは桜三里の峠道へ。

名前のとおり、国道沿いに桜が植えられている。

愛媛県でも有名な桜スポットの一つで、春はさぞ煌びやかなことだろう。


峠を越えて下り勾配になると、西条市の市境を示す看板が見えてきた。

人口は10万人、愛媛県の東予地方にあり商工業が盛んだ。

隣接する新居浜市を含めた工業地帯は四国でもトップクラスで、今治造船やルネサスエレクトロニクスなどが工場を置いている。


旧丹原町を抜けて旧小松町にさしかかると、車窓にJR予讃線が見えて来る。

10時18分、小松総合支所前のバス停で下車。

ここはファミリーマートの駐車場に併設されていて、待合所はイートインスペースと併用だ。

国道を東へ歩き、伊予小松駅を目指す。


途中、四国八十八箇所六十二番礼所、宝寿寺の看板を見かけたので寄り道。

広い境内や目を引く建物があるわけではないが、小さくまとまった趣のある寺だ。

ネットで調べると、四国八十八か所巡りの寺院でつくる「四国八十八ヶ所霊場会」とトラブルがあり、一時期は退会していたとのこと。

祈りの世界でも運営するのが人間である以上、世俗的な対立は避けられないようだ。


小松総合支所前のバス停から10分ほどで、伊予小松駅へ到着。

駅前は少し寂しいが、無人駅のわりに駅舎は綺麗で掃除が行き届いている。

ここは特急が止まらないため、10時38分の電車に乗って今治方面へ向かう。


10時44分、壬生川駅に到着。

新選組ファンなのでつい「みぶ」と読みたくなるが、「にゅうがわ」が正しい呼び方だ。

次の特急が来るまで40分あるので、駅の周辺を散策。


特急停車駅だけあり駅前は広く、立派なバスターミナルとタクシー乗り場もある。

駅の隣にはパン屋が営業していて、イートインスペースも見えた。

線路を挟んだ向かいにある公園までは『ぽんぽこ橋』というエレベーター付きの陸橋がかかっている。

橋には可愛らしいタヌキのイラストが多数飾られていた。


壬生川駅の周辺は、宝永2年(1705年)の風水害や虫害によって、大変な飢饉にみまわれていた。

それを救ったのが、駅から10分離れた『大気味神社』に住んでいた喜左衛門という名の大タヌキ。

喜左衛門の伝承は多く、人間に変身して日露戦争に出征し、妖術を駆使して日本軍の勝利に貢献したという話もある。

そんな大狸は今も地域の人に愛され、『たぬきまんじゅう』として地元のお土産にもなっているというわけだ。


11時22分、特急いしづちがホームへとやってくる。

自由席に乗り込み松山駅へと戻る。

これで愛媛の行きたいところはほぼ回った、後は松山市をたっぷりと堪能したい。

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