第5話 2日目 電車で四国一周

宿毛駅から土佐くろしお鉄道に乗車。

四国フリーきっぷの利用が可能なのは若井駅からのため、そこまでの切符は事前に購入した。


中村駅までは内陸部を進む。

有岡駅のあたりは整備された田園風景が広がっていて、稲穂が実る時期はさぞ美しい車窓になるに違いない。


11時8分、中村駅で下車。

そのまま特急あしずりに乗り換える。

最初の停車駅である土佐入野を過ぎると、右手に太平洋が見えてきた。

冬の海は澄んでいてとても美しい。

砂浜も綺麗なもので、地元の方々の努力がよくわかる。


土佐佐賀駅を過ぎると、海とお別れして山の中へ。

窪川駅で停車中に、乗務員がJR四国の方に交代。

特急はトンネルの多い山地を軽やかに進み、高知市に入るまでは似たような景色が続く。

そのため気が付いたら眠っていて、起きた時は既に高知市内へと入っていた。


13時02分、高知駅に到着。

ホームからは路面電車と駅前広場。

そして坂本龍馬、武市半平太、中岡慎太郎の三志士像の背中が見えた。

駅の周りだけでも見学したかったが、次に乗る岡山行は13時13分発。

やむなくホーム反対側に停車する特急南風に乗り込み、座席を確保して出発を待つ。


高知駅を出発しJR土讃線を行く。

土佐山田駅を過ぎると車窓から街並みは消え、再び山間部へ。

曲がりくねった線形を、特急南風はスピードも落とさずスイスイと駆け上がっていく。

車体を傾けて遠心力を抑える、いわゆる振り子式車両の威力だ。

途中、鉄橋の上にプラットフォームがある土佐北川駅を通過。

今日は素通りだが、いつか必ず来てみたい。


吉野川の深い峡谷に沿いながら、特急南風は北へと進んで徳島県へ。

大歩危、小歩危のあたりは速度を落とすところもあり、岩がせり出した綺麗な車窓を拝むことができた。

沿線上の集落は山の頂付近まで畑や民家があり、よくぞこんな場所まで開拓したものだと感心する。


14時23分、阿波池田駅に到着。

ここで徳島行き特急剣山に乗り換える。

指定席はアンパンマンがラッピングされた列車だが、本日は暖房が故障しているとのこと。

そのため払い戻しを受けて自由席に来る親子連れが多く、列車はやや混雑した。


14時30分、阿波池田駅を出発。

国道と土讃線に並行して東へ向かう。

川沿いしか土地がない、山間部特有の事情というやつだ。


土讃線とは佃駅で分かれた後も、左手にはずっと吉野川。

徳島まではずっとこうなので、路線には『よしの川ブルーライン』という愛称がつけられている。

線形は良いのでスピードが出ているのだろう、国道192号線の車をどんどん抜いていく。

別に自分で運転している訳ではないが、少し気持ちがいい。

だが住宅街が近くなると、特急は幾分かスピードを緩める。

土地が少なく民家の側を走ることも多いため、騒音にはかなり気を使っているようだ。


長いこと並走してきた吉野川も、阿波山川駅を過ぎたあたりからは見えなくなる。

代わりに車窓には街並みが現れ、15時44分に徳島駅に到着。

阿波池田駅からは約1時間、宿毛駅からは約5時間の電車旅であった。


前述の松山駅に、坂本龍馬とアンパンマンで染められた高知駅、ウォーターフロントとして発展した高松駅と、四国の県庁所在地駅はどこも独特の顔がある。

ここ徳島駅は大きなバスターミナルにホテルの入った駅ビルと、まさに県の中心と言った面構えだ。


次の電車までは1時間ある。

徳島といえばラーメンだと思い、スマホで調べて駅ビル地下の『バル横丁』へ。

しかし目当ての店は17時まで休憩中とのこと。

今回の旅行2度目のがーんだ。


駅の外へ行って探してみるが、最寄りの徳島ラーメンの店はもう混んでいる。

ここで食べるのは時間的にちと厳しいと判断。

好きな甘味を買い込んで、電車の中で食べていくことに決めた。


最初に目を付けたのは、駅ビル1階にある『和田乃屋 徳島クレメントプラザ店』

販売している『滝の焼餅』は、薄く平べったい餅に餡を挟んだもので、徳島藩の祖である蜂須賀家政にも献上された伝統の菓子だ。

三種の餡が入った七個入りを注文すると、店頭のブースから焼きたてが出てくる。

アツアツでとても美味そうだ。

店内にはカウンターがあり、お茶をお供にイートインもできるとのこと。


続いて訪問したのは、同じく1階にある『御座候 徳島駅クレメントプラザ店』

ここで回転焼の赤あんと白あんを1つずつ購入。

『滝の焼餅』とあんこが被ってしまったが、好きなのだから仕方ない。

ちなみに私の地元での呼び方は「今川焼き」です。


最後は改札近くにあるセブンイレブンに入店。

セブンカフェでコーヒーのLサイズを購入。

店内は細長く、しかも右手側にL字型になっている構造で、先客とすれ違う時はちょっと大変だ。


旅のお供を片手に改札を通り、16時45分発の岡山行き特急うずしおに乗車。

電車の中でまずは『滝の焼餅』をいただく。

薄く焼かれた餅はパリパリとしていて、食感が良い。

餡子も後を引かない上品な甘みで、コーヒーで口をリセットしなくても、いくらでも食べられてしまう。

気が付くと7個をぺろりと平らげてしまった。


続いて回転焼にかじりつく。

こちらは薄皮の中にあんこがぎっしりだ。

口いっぱいに小豆の甘さが広がり、甘党にはたまらない、

2個も食べるとお腹いっぱいで、しばらく何もいらなくなる。


徐々に暗みがかかる高徳線の沿線を眺めながら西へ。

17時44分に高松駅へ到着、松山行の特急いしづちへと乗り換える。


このまま到着すれば四国一周は終了だ。

大好きな甘いものを食べて心は満たされている。

しかし徳島ラーメンを食べ損ねたモヤモヤが頭から離れない。

松山駅に到着する頃には腹もいい具合になっているはずだ。

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