第4話 2日目 宇和島市から宿毛市

朝4時45分、起床。

目覚ましより早く目が覚めたことに気が付き、歳を取ったのを感じる。

朝食は道の駅さんさんで購入したスイートポテト。

冷蔵庫に一晩置いたせいでしっとり感が失われていたが、さつまいもの甘みはしっかりと残っていてとても美味い。


パサついた口を紅茶で潤したら、すぐに着替えてホテルを出る。

朝の5時、路面電車はまだ走っていない。

乗る予定の特急宇和海は5時48分発、松山駅までは2キロある。

歩いても間に合うとは思うが、無理をせず松山三越の前に止まっているタクシーに乗車。

松山駅までは900円でした。


まだ暗い松山駅にはポツポツと人がいた。

南国愛媛とはいえ、冬の朝はさすがに寒い。

駅員さんに四国フリー切符を見せて入場し、自販機で暖かいお茶を買ったらすぐに電車に乗り込む。

特急の自由席には既に4~5人が乗っていた。

今日は土曜日、おそらくは自分と同じ観光客だろう。


発車ベルが鳴り、特急は定刻通りに松山駅を出発。

予讃線を南に進み、内子を経由して宇和島へと到達するルートだ。

電化区間は伊予市までのため、加速するとディーゼルエンジンの音が響く。

カーブは多いが揺れは少ないので、乗り心地は悪くない。


午前7時10分、宇和島駅に到着。

途中から乗ってきた高校生たちがぞろぞろと降りていく。

今日は土曜日、おそらくは部活へ行くのだろう。

宇和島駅は予讃線と予土線の2本の終着点を持つ珍しい駅だ。

ホテルを併設した駅舎は立派なもので、土産物を売るコンビニも併設されている。

正面はバスロータリーになっていて、バス停の前には学生が列を作っていた。


次の目的地である宿毛行きのバスは7時45分。

高知までは予土線でも行けるが、せっかく来たのだから四国の南端を味わいたいと思って選択したルートだ。

時間まで外を散歩しようとするが、寒さで断念。

コンビニで土産物を見て回り、山田屋まんじゅう(3個入り)を購入。

薄皮の中にたっぷりとあんこが入っているが、甘さは控えめ。

大きさは一口サイズで、軽くて食べやすいのも良い。

あの吉田茂が愛したというのも頷ける銘菓だ。


しばらく待合室に飾られたプラレールなどを見て時間を潰す。

先にトイレも済ませておく。

宿毛駅への到着時刻は9時39分、バスに乗るのは2時間近い。

途中で小便に行きたくなれば、楽しい旅は一変して地獄になるだろう。


バスは定刻よりも早くやってきた。

先に待っていたお婆さんの後に乗り込み、一人がけの座席に座る。

すると後からぞろぞろとお年寄りが入ってきて、座席の半分が埋まった。

過疎の路線と侮っていたが、思ったより利用者は多いようだ。


バスはゆっくりと宇和島市内を走る。

長距離路線だから幹線道路を行くのかと思いきや、通るのは狭い住宅街ばかり。

理由はすぐにわかった。

市立宇和島病院に到着すると同時に、同乗していたお年寄りがほぼ全員が降りたからだ。

おそらくこの路線は、宇和島から城辺、宿毛地域の方が、地域に数少ない総合病院に通院するのを想定したものなのだろう。

交通弱者を支える地域の足というわけだ。


バスの中が寂しくなると、瞬く間に山々が寄り添ってきて、木々の枝が覆いかぶさる切通しへと入っていく。

津島町へ入るとぼちぼち港町の景色が見えてきた。

小高い台地から海を見下ろせる絶景区間が続きテンションが上がる。

穏やかな湾の中では、真珠の養殖場や停泊する船舶も見えた。

このような車窓ばかりだと長丁場のバスも飽きずに済む。

自分しか乗っていないバスは、ノンストップでどんどん進み続ける。


愛南町に入ったあたりから景色には建物が増え、車窓も少し賑やかになる。

途中、城辺営業所で1人乗り込んできた。

一人で貸し切り状態は寂しかったので、少しホッとする。


9時39分、バスは定刻通りに宿毛駅に到着。

意外と言っては失礼だが、高架の立派な駅舎に驚く。

有人駅でみどりの窓口もあり、テナントで飲食店まで入っていた。


次の電車は10時37分発。

中村駅で特急に乗り換えて高知へ、さらにそこから阿波池田駅を経由して徳島へと向かう予定だ。

1時間ほど余裕があるため、駅の周りをぶらつく。

目に入るのは、駅舎から南側に見える公園に建てられた巨大な建造物。

津波に対して備えられた駅前公園津波避難タワーだ。


海抜17.5mのタワーはスロープで11m避難用フロアまで上がることができて、高齢者や車いすの方でも利用できる。

その先には仮設トイレが設置されていて、最大261人が収容できるとのこと。

完成したのは令和4年7月。

高知県は南海トラフ地震が起きた場合に被害が予想される地域の一つだ。

住民の防災意識の高さが伺える。


駅前散策を終えて今度は駅舎へと戻る。

北側の広場では、自転車を組み立てている男性のグループがいた。

これからサイクリングに行くのだろう。


駅舎の中もきれいなもので、待合室では地元のテレビも楽しめる。

階段を登って2階にあるホームもまだ新しい。

もっともこれはあまり良い事ではなく、平成17年に起きた事故が原因だ。

岡山発の特急南風が車止めへ突入、そのまま駅舎の壁を突き破って転落。

運転手は死亡、乗客10人が重軽傷を負うという痛ましい事故がこの駅ではあった。

現在は過走防止装置が設置され、安全対策が徹底されている。

事故は起きないに越したことは無いが、技術の進歩はこのような犠牲の上にあることは意識しておきたい。

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