第2話 常連客はいない

第2話



 さくらは、「はい、聞きたいです」とにゃんじろうの猫の顔のことを聞いてみた。


「実は、この街に来る前は東京にいたのですにゃあ。東京のとある研究所にいました……」


「研究所ですか」と、さくらは意外に思った。おでんと無関係なのだから。


 さらに、聞いてみた。

「どのような研究をなさっていたのですか」



「それは……」


「それは?」


 少し店主はためらったが、

「猫の研究なのですにゃあ」


「ねこ?」


「猫と言っても遺伝子のことで、『蚤に強い品種』などを遺伝子操作で品種改良をするというものですにゃあ」


「それは、良いですね。蚤取りとかしなくて済みますからね」


 しばらく、にゃんじろうは目を閉じ考えていた。


 さくらは、大根のおでんを口にした。

「お、美味しい」


「ありがとうございますにゃあ」


 そして、こうも思った。

――なぜ、こんなに美味しいのに流行っていないのだろうかと。


 にゃんじろうは続けた。


「猫を見て気が付いたのです。すごい運動神経だと。自分より高いところへも軽くジャンプしますにゃあ」


「たしかに」


「猫の遺伝子を取り込むことが出来れば、国体どころかオリンピックにも……」


「やったのですね」


「そう、上手くは行きませんでした。その末路がこの姿なのです」と、にゃんじろうはうなだれた。


「その後は、おでん屋を始めたということですね」


「はい、猫は人間と違い、肉食なのですにゃああああ」


 そして、おでん屋は真っ赤に染まった。



 猫のおでん屋。


 味は美味いが常連客はいない。

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