第2話 人称別の表現の練習
主人公:男性(A)
場所:音楽堂のホワイエ
状況:若手の登竜門であるコンクールの決勝発表前
流れ:ライバルに強い対抗心を持つ主人公(A)が決勝の結果発表前に感情が昂っている。
入れる要素:主人公(A)にはライバル(B)がいて、強い対抗心があること。今まで主人公は常に二番手であること。結果発表前に今度こそはと意気込んでいること。
1)一人称:心理・思考中心。語り・独白に近い?
〇〇音楽堂。音楽家ならば誰もが憧れるこの場所で開催されるコンクール。若手の登竜門であるそれで、今日こそ。今日こそあいつに勝つんだ。いや、勝たないといけない。
この数年、いつも俺の前にはあいつがいた。年に数回、全国コンクールや国際コンクールで顔を合わせるだけで話したこともほとんどない。
だが、スコアを勉強するとき。作曲家の当時の手記を読み終わったとき。指揮棒を振りきり、最後の一音が吸い込まれるように宙に消えたとき。その時々でふとした瞬間、トロフィーを持つあいつの顔が、いやあいつの作り出す音色が俺の紡ぎ出したい音をかき消していく。
それを振り切り、この一年、自分の中の理想の音を追い求めてきた。こうして決勝にも選出されるほどには俺の音楽は審査員からも評価されている。だから、大丈夫だ。自信をもつんだ。
そう自分に言い聞かせているうちに、ざわめきが耳に飛び込んできた。黒いスーツに身を包んだ男性が、手元にボードを持ってマイクの前に立つ。目の前を遮る記者たちの群れ越しに、じっとその男性を見つめる。
いよいよだ。気持ちが昂る。頬が熱い。何とか落ち着かせようと、意識して深く息を吸い込んでゆっくりと細く長く吐く。気づけば、指先は冷え、かすかに震えていた。ぐっと強く握り込んで小さな恐怖をねじ伏せた。
【所感1】
意外と書きやすいかもしれない。ただし周囲を状況などの描写は視点の持ち主の性格や語彙力に依存しそう。心理描写や思考は一番細かく描写できるか。
2)一人称:周辺の状況等もいくらか客観的に説明あり
〇〇音楽堂。
普段であれば多くの観客が演奏会の開演前の期待や終演後の興奮に囁き合いながら空気を震わせるホワイエ。その場所に今集まる者たちが口にするのは様々な番号と名前だった。
それらは若手の登竜門であるコンクールの決勝に名を連ねた者たちのもので、そこに俺も含まれていた。
今日こそ。今日こそあいつに勝つんだ。いや、勝たないといけない。
全国コンクールや国際コンクールの舞台で俺の名前はいつも上から2番目にあった。一番上で輝くのはBの文字。祝福のために数度、言葉を交わしたことがあるだけの男の名前だ。
その男の作り出す音色が、この数年、俺を苛んでいた。スコアの勉強中や作曲家の当時の手記の読了後、指揮棒を振りきって最後の一音が吸い込まれるように宙に消えた時でさえ。俺の紡ぎ出したい音はかき消されていく。
それを振り切るように、この一年、自分の中の理想の音を追い求めてきた。その努力の結果は、こうして決勝に残っていることが物語っている。
だから、大丈夫だ。自信をもつんだ。
そう自分に言い聞かせていると、ホワイエの奥からざわめきが漣のように広がった。黒いスーツに身を包んだ男性が、手元にボードを持ってマイクの前に立つ。その周辺を記者らしき人々が取り囲む中、俺を含めたファイナリストたちは少し離れた場所から男性を見つめていた。
いよいよだ。
気持ちが昂り頬は熱をもつ。それを落ち着かせようと、意識的に深く息を吸い込んでゆっくりと細く長く吐く。いつの間にか冷えていた指先がかすかに震える。強く握り込んで小さな恐怖をねじ伏せた。
【所感2】
意外と書きやすかった。周囲を状況などの描写も1)と比べれば視点の持ち主の性格や語彙力に依存しないか。思考や感情も直接的に割と描写ができそう。
3)三人称一元視点? ※基本的に2)の文を俺→Aに変更・一部に主語Aを追加
〇〇音楽堂。
普段であれば多くの観客が演奏会の開演前の期待や終演後の興奮に囁き合いながら空気を震わせるホワイエ。その場所に今集まる者たちが口にするのは様々な番号と名前だった。
それは若手の登竜門であるコンクールの決勝に名を連ねた者たちのもので、そこにAも含まれていた。
今日こそ。今日こそあいつに勝つんだ。いや、勝たないといけない。
全国コンクールや国際コンクールの舞台でAの名前はいつも上から2番目にあった。一番上で輝くのはBの文字。Aにとって、祝福のために数度、言葉を交わしたことがあるだけの男の名前だ。
その男の作り出す音色が、この数年、Aを苛んでいた。スコアの勉強中や作曲家の当時の手記の読了後、指揮棒を振りきって最後の一音が吸い込まれるように宙に消えた時でさえ。Aの紡ぎ出したい音はかき消されていく。
それを振り切るように、この一年、Aは自分の中の理想の音を追い求めてきた。その努力の結果は、こうして決勝に残っていることが物語っている。
だから、大丈夫だ。自信をもつんだ。
そうAが自身に言い聞かせていると、ホワイエの奥からざわめきが漣のように広がった。黒いスーツに身を包んだ男性が、手元にボードを持ってマイクの前に立つ。その周辺を記者らしき人々が取り囲む中、Aを含めたファイナリストたちは少し離れた場所から男性を見つめていた。
いよいよだ。
昂る気持ちと熱い頬を落ち着かせようと、Aは意識的に深く息を吸い込んでゆっくりと細く長く吐く。冷えた指先がかすかに震える。強く握り込んで小さな恐怖をねじ伏せた。
【所感3】
俺→Aに変更という書き方をしたため2)との違いがほぼない。これで果たして三人称一元視点のメリットを得られているのか不明。俺→Aに替えるといった技術的な問題ではないらしいので、修正するとしたらどのように?要検討。
これまで避けてきたが、「いよいよだ」・恐怖のように地の文で思考・心情・感情をそのまま書いてもいいような気がしてきた。
4)【失敗】三人称一元視点? ※3)より地の文での心理、思考?描写少なめで第三者のセリフから表現しようとした。
〇〇音楽堂。
普段であれば多くの観客が演奏会の開演前の期待や終演後の興奮に囁き合いながら空気を震わせるホワイエ。その場所で今囁かれるのは様々な番号と名前だった。
それは若手の登竜門であるコンクールの決勝に名を連ねた者たちのもので、そこにAも含まれていた。
「……やっぱりBさんじゃないか? ここ数年、国内外で優勝や賞をもらっているし、今回も素晴らしかった」
「確かに。……あぁ、でもほらAさんもいるだろう? 確かこの前は△△コンクールで二位に入っていたし、個人的には今回の演奏は以前聴いた時よりも曲の緩急の付け方や音の強弱の調和が取れていたと思う」
「特に今回は随分と気合いを入れているらしいな。あれじゃないか、△△コンクールの時もそうだったが、Bさんと出場が重なる時はいつも……」
(略)
部屋の奥からざわめきが漣のように広がり、人の波が動いた。人々の視線の先には、マイクの前に立つ手元にボードを持った黒いスーツの男性。その周辺を記者らしき人々が取り囲む中、Aを含めたファイナリストたちは少し離れた場所から男性を見つめていた。
落ち着かせるように、Aは深く息を吸い込んでゆっくりと細く長く吐く。かすかに震える指先は握り拳で隠された。
【所感4】
失敗。Aの内心や思考の描写が難しい/できないのと第三者のセリフでの描写が冗長に感じられる。そもそも、Aの内心を描写できるのが三人称一元視点のはずなので、何か根本的に設定を間違えたというか理解できていないと思われる。
5)三人称一元視点? ※3)より地の文での心理、思考?描写少なめ
〇〇音楽堂。
常であれば開演前の期待や終演後の興奮の声で満たされるホワイエ。
現在、その空間で囁かれるのはいくつかの番号と名前だった。若手の登竜門として名高いコンクールのファイナリストたちのものだ。
人々が顔を寄せ合って口にするのは各々の思う優勝候補者の予想や講評。そのざわめきの中にAは立っていた。上から2番目。ここ数年の国内外のコンクールでのAの定位置だ。それを理由に今回もダメだろうと声を潜めながらつぶやかれた言葉がAを襲う。ぐっとAは奥歯をかんだ。
Aの脳裏にBの顔がよぎる。優勝を祝う言葉を伝るために数回だけ会話を交わしたその男こそが、ここ数年に渡ってAを苛む音を作り出していた。
スコアの勉強中や作曲家の当時の手記の読了後、指揮棒を振りきって最後の一音が吸い込まれるように宙に消えた時でさえ。Aの紡ぎ出したい音はかき消されていく。
隙間なく書き込まれたスコアをAはそっと撫でた。次々と思い浮かぶのは、擦り切れ、手あかがついた本。指揮台の上から見た演奏者の笑顔と背中を叩く拍手の音。ファイナリストとして読み上げられたAの名前。
強張っていたAの口元がふと緩む。その直後、ホワイエの奥からざわめきが漣のように広がり、人の波が動いた。人々の視線の先には、マイクの前に立つ黒いスーツの男性。その周辺を記者らしき人々が取り囲む中、Aを含めたファイナリストたちは少し離れた場所からボードを持つその男性を見つめていた。
高まる鼓動と熱を持った頬を落ち着かせるように、Aは深く息を吸い込んでゆっくりと細く長く吐く。かすかに震える指先は握り拳で隠された。
【所感5】
3)よりも直接的な思考等の描写を抑えて外部から観測可能(そうな)動きで表現してみた。心理描写が少なすぎて三人称一元視点のメリットを得られているのか不明。修正するとしたらどのように?要検討。
心情を表現するのに、3)では思考だけでよかったところをスコア等の具体的な道具や出来事をひっぱってこないといけないので、1)~4)と全く同じ状況の描写とはいえないか。
「〜は〜している」「〜が〜した」の言い回しが連続しないようにしたい。
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