3
翌朝目を覚ますと、雨が降っていた。
広場を見ると出店はすべてなくなっており、人が誰もいない。
まるでこの街が滅んだかのように感じられた。
部屋から出て様子を確認しようとしたが扉は開かなかった。
どうやらマンション側に自動施錠されている。
テレビを付けると慌ただしく原稿を読み上げるニュースキャスターが映った。
なんと病原体を持ったネズミが町中に逃走しているのだという。
入国前に受けた紙舌検査での病原体と同じものらしい。
病原体には様々なものがあるらしいが、
今回の場合は感染力が高く空気感染するそうでマンションからの外出は禁止されたようだ。
どうしたものか、と考えながらソファに座る。
しばらく待っているとチャイムが鳴った。開けてみるとそこにいたのは医者らしき人物で部屋に入るなり診察を始めた。
私の身体の隅から隅まで調べられ、最後に注射された。
ぼーっと外を見ていると黄色い防護服のようなものを着た作業員が広場に来て薬物と思われるものを撒いていく様子が目に映った。
(後日知ったことだが、降っていた雨も薬物の一種らしい。)
どうやらこの薬を撒いて病原体を殺すらしい。しばらく経つと広場は静寂に包まれた。
作業員達はどこかへ行ってしまったようで広場にいる人の姿はない。
再びテレビを付けると今度は緊急放送が始まる。
どうやら先ほど散布されたものについて説明しているようだった。
その説明によるとあの薬は細菌やウイルスに対して強力な効果を持つものだそうだ。
そしてそれを撒いた後に数時間経過すれば病原体の死滅が確認されているとのことだ。
それから2日間、何もない日々を過ごした。その間ずっと部屋に閉じ籠もっていたのだ。
特にすることもなかったので本を読んだりゲームをしたりしていた。
しかし暇なものは暇である。だからといって何かできるわけでもない。
私は仕方なく眠ったり、テレビを観たりした。
3日目の朝になった。昨日の深夜には雨は止んでいたらしく広場では出店の準備が行われていた。
どうやら営業を再開するようで、病原体は死んだと判断されたようである。
そのタイミングで私がやりたかったことを始めることにした。
それはあの工場でアルバイ卜をするということである。
旅行する前から興味があったのもあり、 ここでアルバイトができればお金がもらえるため良いのではないだろうかと考えたからだ。
そうと決まれば早速行動に移すことにした。
まずは工場の方に電話をかけて面接したいと伝える。そして次にいつ来るのか予定を聞く。
今日か明日ならいつでも大丈夫だとのことだった。そして今日行こうと決めた。
そして昼過ぎ頃に工場に向かうことにした。
工場につくと既に多くの作業員が集まっており忙しそうにしている。
私はその列の後ろに並び順番が来るのを待つことにし、しばらくしてから受付に行き名前を言った。
すると少し待っていてくれと言われたので待つ。すると別の人が出てきて奥へと案内される。
そこで簡単な質問をいくつか受け答えをした。
そして問題がなければ明日から出勤で構わないということだった。
こうして私は働くことになった。仕事内容は至って簡単で、ただ運ばれてきた素材を形にして好きに彫刻するだけだ。
最初は上手くいかないこともあったが慣れてくるにつれて作業効率も上がり3日ほどで完全に覚えることができた。
それに加えて給料も貰えるということだ。
私は毎日働いた。1週間経った今ではほぼ完璧と言えるレベルまで達することができた。
しかしそれでも満足はできないので、さらに技術を高めようと努力しているところであるが、
そろそろ私は別の国に行かなければ行けないのでそう長くはいられない。
残念なことではあるがそろそろ切り上げ時だろうと思っている。
退職届を出してから次の国に行くとしよう。
もともと予定としては一か月滞在して帰る予定だったのでもう行かなければならない。
私は工場から出て部屋に戻ることにした。
部屋はちょうど生活感が出始めた頃だった。
部屋の片付けを始めた。シーツを丁寧にたたみ、必要な荷物をトランクに入れる。
そうやって荷造りを進めているうちに時間はどんどん過ぎていきあっという間に出国の時間になってしまった。
管理人に鍵を渡して部屋を出る。
マンションの前には既にタクシーが待機していた。私を見つけるとこちらに向かって手を振ってくる。
運転手は初老の男で、行き先を告げると車は動き出す。
空港までの道はとても長い。景色を見ながらゆったりとした気分に浸っているとすぐに着いてしまった。
チケットを受け取り、搭乗口へと向かう。
飛行船に乗りシートベルトをして離陸を待つ。
窓の外を見ると、だんだん空高くまで昇っていき、そしてついに飛び立つ瞬間が来た。
徐々に地面から離れていく。窓から地上を見るとその光景に目を奪われた。雲海だ。
下を見ると一面真っ白な世界が広がっていた。とても神秘的な空間が広がっているのだ。
私が次に行く国はファンフェンス共和国といい、そこはかなり寒い地域らしい。
だからなのか自然がとても豊かで、美しい風景があると聞いていた。楽しみでならない。
期待を胸に抱きながら、目的地に到着するまでの間、私はずっと外の景色を眺めていた。
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