2

時計を見ると朝の9時頃だった。

昨日の酒が残っているのか少し頭痛がする。

水を飲みに行こうと一階に降りシンクへ向かう。

コップに水を注ぎ、飲んでみると冷たくて美味しかった。

窓の外では変わらずに工場からもくもくと煙が出てきている。

あの工場の中で黙々と作業をしている人がいるのだ。

私は彼らに敬意を払いたくなる。

私が良く考えることなのだが、私が見ていないところで本当に物事は起きているのだろうか。

勿論起きているだろう、莫迦なことを聞くなと思う人がいるかもしれない。

しかしアイスランドのジョージ・バークリーという哲学者は、

自分がいない森で木が倒れたら音はするのかと人々に投げかけたそうだ。

そして彼は存在するとは知覚されることと考えていたらしい。

つまりは観測者がいなければ世界は存在しないということだろう。

シュレディンガーの猫にも通ずる部分があるだろう。

観測するまでは生きている状態と死んでいる状態のどちらでもあるという考え方だ。

この考え方は量子力学において非常に重要な考えである。

この世界に絶対はない。だからこそ面白いのではないだろうか。

さて、とりあえずは朝食を食べようと思う。

今日は何をしよか。そうだ、散歩でもしよう。

まだこの街の地理は把握できていない。

散歩ついでに見回ってみるのもいいだろう。

私は身支度をして部屋を出た。

散歩というものは良いものだ。

歩いただけでポイントのように経験が溜まっていく。

経験というものは形こそないが見えないところで人生を救っている。

つまり、人生はゲームのように調整されているのだ。

私はこの世界をそういう風に捉えていた。

意識というフィルターで世界は自分通りに見える。

だから自分の認識したものが現実であり真実だ。

しかしその中にも幻影は混ざっているのだろう。

しばらく歩くと、中央広場に出た。

相変わらずの賑わいだ。

屋台も多く出ており、様々なものが売られている。

私は昨日買ったので暫くは関わらなくてもよいだろう。

そう思い、広場を抜けていった。この先は行ったことがない場所だ。

そこでは大量の鳩が石を運んできていた。

その鳩は薄い緑に着色されていて何かの企業の鳩だと思いつけてみた。

その先を進むと地面にめり込んだ形で工場があった。

天井は無くたくさんの部屋がありその中にはたくさんの作業員がいる。

彼らは皆一様に同じ作業服を着ている。

どうやらここで例のオブジェを作っているようだ。

まず男性が鳩から石を受け取る。

鳩はもう一度意思を取りに行く。

石を炉に投げ込み、それを溶かしたものを工場の方に運ぶ地下車に乗せていた。

なるほど、ここでは熱を使ってオブジェを作るのか。

私は思った。物を作るということは愚かなことだ。

実態のある物体はいつか消え去ってしまう。

この世界の全ては自分の脳内で処理される情報でしかない。

この世界での体験も所詮は偽物の感覚だ。

しかし、それでも人は物を作り上げようとする。

なぜなのか、それは分からない。

だが、そこにはきっと意味があるのだろう。

私はそんなことを考えながら工場を後にした。

工場を出てしばらくすると、 大きな建物が見えてきた。

看板には図書館と書かれている。

そういえば本を読んでいなかったと思い中に入ってみることにした。

中には本がたくさんあった。

小説もあれば哲学書もある。

私はその中から適当に選んで読むことにした。

選んだものはアルフレッド・ボスハールトの「精神」という本だった。

内容は簡単に言えば、人間の心について考察したもので、

人間というものは理性と感情が相反するものであるという話が書かれていた。

全てノルドバ語で書かれているので翻訳しながら読むことにした。

この本によると、人間は理性によって行動を決定するが、 同時に感情がそれに干渉して行動を左右するという。

例えば怒りを感じると衝動的に行動するが、 その時に冷静に考えると、その行為が正しいかどうか判断できる。

つまり、その時の怒りというのはただの錯覚に過ぎないのだ。

しかし、その時にはその感覚こそが本物だと思ってしまうため、 その行為をしてしまう。

そして後悔する。これが人間の心の在り方だという。確かにその説は一理あると思った。

この本を購入した。他にも面白そうなものがあれば借りていこうと思う。

外に出るともう昼間だった。そろそろ昼食の時間だ。

とりあえず部屋に戻った。

ポドランペを飲もうとしたが、真昼間から酒なんて飲んでいるところを見られたくなかったので、

代わりに紅茶を飲むことにする。茶葉をポットに入れお湯を注ぐ。

カップに注ぎ、ソファに座ってゆっくり飲む。やはり美味しい。

しばらく休憩した後、また街に出る。今度はどこへ行こうか。

特に決めていなかったが、気になるところがあったためそこへ行ってみる。

それはこの街の真ん中に位置する広場だ。ここは毎日のように露店が出ており、賑わっている。

今日も変わらず人がいっぱいだ。

ふと広場の中央を見てみると大きな噴水が設置されていた。

かなり大きいものだ。そしてこの噴水の中心には巨鳥像がある。

確か、神話に出てくる神獣をモチーフにしている。

この像はどこか神秘的な雰囲気を醸し出している。この広場のシンボルのような存在になっているらしい。

近くで見てみようと近づいた。しかし、あまりの大きさのため近くに行くまで全体像が見えない。

近くで見上げてみると首を痛めそうになるくらいの高さだ。

そんなことを考えているととあるものが目に入った。

なんと巨鳥像へ入れそうな扉がついているのだ。

興味が湧いた私は試しに入ってみることに決める。

ひょっとしたら町全体が見まわせるようになっているかもしれない。

そんな期待をしながら私は入っていった。

中はかなり暗かった。どうやら光を通さない材質でできているようだ。

そのため周りが見えないがなんとか壁に手をつけば歩ける程度の明るさだ。

巨鳥像の中の階段を昇って行った。そして最上階にたどり着く。

そこから外を見ると、ちょうどいい具合に街の全体を見ることができた。

街は中心に向かって高い建物があるような配置になっており、遠くの方までは見えなかった。

その代わりこの広場と港が見える。私が来た空港なども見えた。

私はこの景色が気に入った。だからこの国に住みたいと感じた。

さて、これからどうしようかと考えていると鐘の音が鳴り響いた。

時計台を見たところ午後3時を示していた。

そういえばもうそんな時間なのか。

ではそろそろ帰るとするかな。

巨鳥像を降り部屋に帰ってからシャワーを浴びる。

今日は近くのレストランに行ってみようと思っている。

どんな料理を出すのか少し楽しみである。

しかしまだそんな時間ではないので少し家で待つことにした。

暇だったので買った本をまた読むことにする。

私はこうやって何かに集中することが好きなのだと思う。

しばらく読み進めているとあっという間に時間が過ぎていった。

ふぅ、と息を吐き、窓の外を見る。すると夕焼けで空は真っ赤に染まっていた。

もうこんな時間になっていたのかと思い、本を閉じる。

そして家を出た。レストランはこの前見つけた所が良いだろうと思い向かう。

歩いているうちにだんだん辺りも暗くなってくる。すると周りの建物からは灯りがちらほらとつき始めた。

そうして目的の場所についた。そこは前回訪れた酒場とは違いこじんまりとしているもののとてもオシャレな雰囲気の店だった。

店内に入るとカウンター席がいくつかあった。客はあまりいない。

適当な場所に座りメニュー表を確認する。そこにはいろいろな種類の食べ物があった。

ポドランぺや紅茶と言った飲み物からステーキやワジロプスなどの食事類など様々だ。

どれにするか迷ったが無難にステーキを食べることにした。注文をして料理が出てくるのを待つ。

10分ほどで出されたものは中々にボリュームがあり、見た目も良いものだった。

肉を切り口の中に入れると旨味のある脂が口に広がり、 思わず顔が綻んでしまう。美味しい。

気がつくと完食していた。結構大きかったはずだが一瞬で食べてしまった。

満足感で一杯になりながら店を出る。外に出るとすっかり夜になってしまっていた。

しかし満腹なのですぐに眠ることはできそうだと思った。

そのまま家に帰り寝ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る