404 NOT FORGET

はきりチューナー理

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異国にふらっと訪れることは良いことだ。もちろん言葉の違いや文化の違いもある。

しかしそこが人生を豊かにする経験なのではないだろうか。

ノルドバへの飛行船の中でそう考えていた。

この小説に記しながら旅を続けようと思う。

そうこうしているうちにノルドバの空港に着いてしまった。

天井はガラス張りだった。

空港に降りるとまず荷物の検査機があり、その奥には入国審査官がいた。

そこで入国許可証を見せると入国スタンプを押してくれた。

それから荷物を預かってくれる所があったのでそこに預けた。

次に口を開けるよう指示され細長い紙を舌につけられた。

これは紙舌検査と言い病原体を感知する検査らしい。

少々苦かったが仕方ない。

それからパスポートをチェックされて、ようやく入国できたのだ。

さてこれからどうするかだが、あらかじめ借りておいた部屋がある。

安い集合住宅だ。数年前に政府が建てたものだそうだ。

近くには巨大な石像や工場、出店(でみせ)などもあり、異国を感じる。

私はその部屋に荷物を置きシルクハットを脱いだ。

確かノルドバではシルクハットの着用が初入国者の礼儀だそうだ。

話を戻すとその部屋は2階に分かれた狭い部屋で、シャワーやキッチンの他植木鉢や

テレビ、本棚など古い部屋にしては充実していた。

机にトランクを置く。中には歯ブラシや櫛、ノルドバ語の練習ワークブックなどが入っている。

早速それを手に取りノルドバ語の文法を勉強した。

えっと、まず例文をノルドバ語で書いてみよう。

例文には「私は幸せです」と書いてあった。

ノルドバ語で「ik vid hup」だ。

主語、vidという万能動詞、名詞の順番だ。

幸せも名詞だそうだ。主語は男性はik、女性はiwなので間違えてはいけない。

ただローマ字読みすればokだ。

名詞は覚えるしかないだろう。

その次に簡単な文を覚える。

例えば、

「これが欲しいです」は「ik vid tity」で、

「いくらですか?」は「tity akuri」だ。

こんな感じである。

今日はもう疲れたので寝る事にした。

先程のシャワーで体を洗う。

やはり慣れないと落ち着かないなと思った。

そして歯磨きをして就寝した。

慣れないベッドに慣れない言葉。

そんな状況でもすぐに眠りにつく事ができた。

翌朝起床し、とりあえず顔を洗い口をゆすぐことにした。

水道の水はとても冷たく気持ちよかった。

タオルを使い水気を取る。

窓の外を見るがまだ外は暗い。

空を見上げると月が見える。

満月から少し欠けていた。

しばらくすると少しずつ明るくなってきた。

雲一つ無い青空が広がっている。

窓から身を乗り出し下を見下ろすと人々が歩いているのが見えた。

朝市が行われているようだ。

市場は賑わっているようで活気づいている。

人々の表情からは笑顔が見え隠れしているように思えた。

私もつられて笑ってしまう。

しかしいつまでもここにいるわけにもいかない。

私は身支度を整え外に出ることにした。

まずは両替所を探すことにする。

地図を見ながら探す。

幸いすぐに見つかったので中に入る事にした。

中には換金機があり、

お金を機械に入れれば紙幣が出てくる仕組みになっている。

持っていた金をすべて換金した。

357800ソゼンになった。

これで当分生活できるはずだ。

ちなみにこの国の通貨単位はソゼンと言うらしい。

私は一旦部屋に戻り朝食を食べることにした。

近くの屋台でパンを買い、ハムを挟んだサンドイッチのようなものにしてみる。

食べてみると独特の風味のパンだ。小麦のようだがどこか違い、粘性のあるパンのようだ。

あっという間に完食してしまった。お腹も膨れたところで街に出ることにしよう。

ノルドバ語で書かれた看板を頼りに街の中央に向かっていく。

どうやらここは大きな広場の様だ。

中央に大きな噴水があり、人がたくさん集まっていた。

おそらく待ち合わせの場所に使われているのであろう。

まぁ、いいかと思いその場を後にする。

出店が多く並んでいる通りに出た。

果物屋や魚を売る店などがある。どれも珍しいものだ。

ついフラフラと歩きたくなるが、目的は観光ではないのだ。

私はノルドバ語の辞書を買うために本屋の立ち並ぶ場所に向かった。

その道すがらに色々なものを見つけた。

食べ物や工芸品などの店がある。興味は尽きないが後でじっくり見るとしよう。

そうこうするうちに目的地にたどり着いた。

小さな書店だ。あまり繁盛していないのか客の姿は少ない。

私はノルドバ語の勉強のための本を探し始めた。

1時間程で本を選び終えた。

選んだのは初心者用のテキストと文法書だ。

値段も高くなかったのでこれくらいが妥当だと判断した。

本を買ってしまうと他に用事も無くなったのでまた部屋に戻る事にする。

さっきのパンが余っていたので昼ごはんに食べることにした。

部屋に入り早速パンを食べ始める。

美味しいわけではないが空腹は満たせるだろう。

そしてこれからどうするか考える。

せっかくなので何か見て回ることにする。

私は地図を片手に散歩する事にした。

まずは近くにあった工場に向かう。

入ることはできないので窓から覗いた。

中では機械音が響き渡っている。

ベルトコンベアーに乗せられたものが流れてくる。

流れてきたものは小さなオブジェだった。

プラスチック?製で簡素な人の形だ。

円柱の上に球体が乗ったような見た目に抽象化されている。

それをベルトコンベアから取り出して組み立てている。

欠けている部分があるものは炉のような場所に放り込まれ再利用されていた。

しばらく見ていると完成品は別の箱に入れられていく。

恐らく倉庫に送られて保管されるのだろう。

その後、しばらく作業風景を見て回った。

次は近くにある市場に行ってみようと思う。

市場は先程の広場とは反対方向にある。

歩いて15分ほどの距離だ。

市場には様々なものが売られていた。

野菜や果物、雑貨など様々だ。

そろそろこの生活に慣れるためノルドバの物でも買うか。

雑貨でも買ってみようと思い、商品を眺める。

するとあるものが目に入った。

それは先程見たオブジェだった。

よく見てみると細部が違うものの基本的なデザインは同じだった。

他にもいくつかあったが、一番最初に目に付いたものをとりあえず購入した。

細かく彫刻が施されているものだ。

意外とお手頃価格だったのは助かった。

その後も色々と買い漁ってしまった。

結局、日用品や食料品までかなりの量を購入してしまった。

荷物が重いので宿に帰ることにする。

帰り道は行きとは違いゆっくりと歩いた。

辺りは夕暮れ時になり、街灯がつき始めていた。

集合住宅の窓には明かりがともっている。

なんだかノスタルジックな気分になった。

私はしばらく街並みを楽しみながら帰った。

部屋に着き、まずは戦利品の確認をする。

テーブルの上に置いてあるのは買い物袋だけだ。

まずは中身を確認することにする。

まずは雑貨類だ。

鍋や食器、石鹸やタオルなどの生活必需品だ。

次に食料だが、これはそのまま食べられるものが多かった。

パンやハム、チーズ、干し肉、果物などが主に入っており、調味料なども揃っている。

最後に食材を冷蔵庫に入れ、一息つく。

これで生活基盤は整ったと言えるだろう。

そろそろ夕食の時間だ。

窓枠の外には中央広場が見える。

ふとこの光景を肴にして酒が飲みたくなった。

ノルドバ固有の酒でポドランペというものがある。

甘い香りのする果実酒を蒸留して作られるもので、 アルコール度数は20度ほどもあるらしい。

私はその晩、一人で飲むことにした。グラスに氷を入れ、そこに瓶の口をつける。

トクトクっと音を立てて注がれていった。

部屋の電気を消してみると広場の明かりとグラスの氷が乱反射して見えた。

とても幻想的な雰囲気だ。

私は一気にあおると喉が焼けるような感覚に襲われた。

しかしそんなところが癖になるかもしれない。

私は苦痛というものはある種の快楽信号だと考えている。

苦痛をも快楽に変換できる人間は面白い生物だとも思っている。

そんなことを考えつつ夜は更けていく。

私は二杯目を注いだ。

今度はゆっくり味わうように飲んだ。

やがて酔いが回ってきたのか頭がボーッとしてくる。

思考が鈍くなり、何も考えられなくなってきた。

そういえば、と昼間に買ったものを思い出す。

あのオブジェだ。

私は2階のベッドの横にある机に置いたそれを手に取った。

近くで見ると細かい装飾がよく分かる。

なんとなく見つめていると心が落ち着く気がした。

私はしばらくその芸術作品を鑑賞していた。

気がつくと眠ってしまっていたようだ。

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