第16話「スローライフを送りたいのに魔王と聖騎士がつきまとってくるので弟子がキレてますが、日常です」


 目を覚ました三人は先ほどの出来事を理解できていないようで、私を質問攻めにしてくる。


 特に魔王は神族以外で自分より上の存在がいるという事が許せないらしく、なんとか戦いたいと脳筋発言を繰り返していた。


 ディランに至っては、創造主は神を作った上位の存在なので信仰の対象であると無理矢理消化したらしい。


 ユーリはただひたすらに私を心配してくる。




「・・・と、言うわけであなたたちが私に執着してくるのは私が転生者で調律者という役目を持っていたからなの。わかる?」




 その執着は勘違いだからさっさと散れ!と説明するが、なぜか全員が呆れ顔だ。




「お前、俺たちの事をなんだと思っている」


「そうですよミリヤム様。私の気持ちは私のものです。何かに影響されたわけではありませんよ」


「お師匠様は何があってもお師匠様です」




 だめだ、全然理解していない。




「お前の存在が特別なら余計にこんなところで油を売っている暇はないはずだ」




 魔王がずいっと私の前に近寄ってくる。




「お前の力が本物なら、その力や知識は魔族発展のために使え。特別に俺の妃になることを許してやるから、さっさと嫁いで来い」


「なにがどうしてそうなるの」




 魔王の突然の申し出に目玉が飛び出そうになる。


 何故妃。ちょっと前までは秘書として再雇用の話が出ていたくらいじゃないのか。


 妃ってことは結婚するってことだから、前より簡単には辞められないけど、いくらなんでも無理矢理すぎだろう。




「いやいや、妃ってぶっ飛び過ぎでしょう。魔王なんて選び放題なのですし、能力で決めるのじゃなくて、愛情とかそこらへんで決めてください。それにさっきも話した通り、私の影響力は以前よりかなり落ちているんですよ?」


「馬鹿か。お前以上のオンナがいないから言っているんだろうが」


「バカにバカ呼ばわりされたくありません。寝ごとは寝てから言ってください。そんなに困っているなら時々掃除くらいには行ってあげますから」


「・・・お前なぁ」




 いつもは勝気で強気な魔王が何故か疲れたように大きくため息を吐き、「これは長期戦だな」などと呟いている。


 そんなに秘書として永久就職させたいのだろうか。なんとかして後進を育てないと駄目だな。




「ミリヤム様。あなたは魔女などでなく、選ばれし聖女だったのです。私と共に神殿に向かい、腐った者どもを一掃し、私と共に革命を起こしましょう」


「無理に決まっているじゃない」




 魔王より唐突かつ過激な発想だなディラン。


 呼び方まで変わっているし。


 危険思想過ぎるだろう。




「聖女って、私は魔族よ?教会にしてみれば敵でしょうし、革命なんて柄じゃないし」


「血なまぐさいことは私にお任せください。ミリヤム様はこれまで通り、好きに過ごしてくだされば私がすべて片付けます」


「恐ろしすぎて了解できないにもほどがある」


「あなたを一生守ると決めましたから」




 絶対私よりいい主はいると思うんだけどな。ディランの目を覚まさせるのは骨が折れそうだ。




「お師匠様・・・」


「ユーリ」




 ユーリは私が育てた弟子であり弟のようなものだ。


 この世界で一番愛着がある存在かもしれない。


 でも、私が傍に居る事で良くない影響が起こるとも限らない。


 人間として独り立ちする年齢にはなっているので、いい潮時なのかもしれない。




「私はここを去ろうと思うの。あなたは村に残りなさい。私が教えたことを使えば一生生きていくには困らない筈よ」


「なっ!僕を捨てるですか??」


「ちがうわ。そんなんじゃない。あなたは人間で私は魔族よ、寿命が違いすぎる。元々大人になったら手放すつもりだったの。まさかこんなタイミングで話すことになるなんて考えてなかったけど。もうすぐ成人でしょう?少し早い親離れだと思って独立なさい」


「嫌です」




 駄々っ子のようにユーリが涙目ですがってくる。


 その様子に絆されそうになるが、心を鬼にして視線を逸らす。




「駄目です。このまま私といても良い事はないはずです。私は新天地で今度こそスローライフを満喫しますから、ユーリはユーリの人生を謳歌しなさい」


「嫌です!僕は一生、お師匠様の傍に居ます。お師匠様が大切なんです」


「ユーリ・・・」




 大事にしすぎた。親離れができなくなってしまった。ああ、でも可愛い。




「おい、俺の時と態度が違いすぎないか」


「私の時とも違いますね」


「・・・この子は私が育てたのよ、当たり前じゃない」


「ガキはガキってことか。そんなに大事なら俺の力で魔族の加護持ちにして寿命を延ばしてやるから、一緒に連れてきてもいいぞ。息子にするにはでかいが可愛がってやる」


「お前みたいな父親はいらないし、お師匠様は母親じゃない」


「いいえ、ユーリ殿。ミリヤム様が聖女ならば貴方もそれに連なる方として神殿でお迎えしますよ。神族に祈れば私同様加護持ちとして生きられるかもしれませんし」


「僕は加護なんて必要じゃありません。特別扱いはごめんです」




 二人の勧誘は失敗したらしい。


 というか、加護とかそんなに簡単にポンポンあたえていいものなのか。




「こいつは俺の妃になる」


「いいえ、聖女です」


「お師匠様はお師匠様です!」




 そして何故かまた、私を挟んで三人が険悪な空気を醸し出している。


 いい加減にしてほしい。




「また喧嘩するんだったら、私、いますぐどっかに行くけどいいかしら」




 ロゼとの邂逅で魔力とは違う強い力が身体を包んでいるのがわかるので、魔法が使いたい放題らしく、今なら何でもできる気がする。




「今度こそ、絶対に見つからないくらい遠くに行くことも可能だと思うけど」


「ま、まて、別に無理矢理とは考えていない。お前の気持ちが決まるまで待つつもりだ」


「そうですとも!急に生活を変えるのは大変でしょうし、もう少しここで暮らしながらお考えください」


「どこにもいかないでください!!」




 慌てた様子で三人が私を取り囲む。


 その剣幕に押され、私はとりあえず現状維持の生活を送ることを決めたのだった。














「今日の茶菓子はなんだ」


「王よ、今日はマドレーヌのようですよ」


「うまそうだな」




 何故かアルムスとティムズを伴った魔王が私の庭で優雅にティータイムを過ごしている。


 お前ら暇なのか。




「ミリヤム様。街からの納品依頼がきていたので、こちらにまとめておきますね」




 ディランはいつの間にか私の商売の交渉役としてあちこちとやりとりするようになった。


 影響が弱まったので販路が広がるはずもないのに、何故か相変わらず人気らしい。


 帝国まで私の名前を広げようという魂胆が見え隠れしているが、真面目に働いてくれるので咎めどころが難しい。




「お師匠様、今日の分ができました」




 ユーリはめきめきと実力を上げ、私の魔法なしでもたくさんのものを作り出すことができるようになってきた。


 実質、私は新商品を開発する時に少しだけ知恵と力を貸すだけで良くなってしまった。


 日々やっている事と言えば、お菓子を作ってお茶を入れるくらいだ。




 想像とかはなり違うが、私はたぶんスローライフを過ごしているん、だよね?




「お前たち、また来ているのか。お師匠様を困らせるな」


「ガキこそ、早く親離れしろ」


「そうですよ。ユーリ殿も魔王も早くミリヤム様を解放なさい」


「テメェに言われたくねぇ!!」




 今日も何故か私を挟んで言い争う三人に囲まれる生活はまだまだ続くらしい。


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