0024_自分の正義なんて無い

■シン

フィクション作品でよく、「これが俺の正義だ」とか、「正義は人それぞれ」みたいな云い分が出てくるんですけど、リメイさんの理論ではこれは間違いなんですか?




■リメイ

うん、そうだね。

正義は普遍的なものであって、「私の正義」なんてものはないよ。




■シン

でも人それぞれで、何が大事か、何を望むかって異なりますよね。




■リメイ

うん、でもそれは正義じゃなくて主義思想と云うものだよ。

主義思想は、勿論各人固有で多様だね。




■リメイ

でもそれはつまり、正義じゃない。

自己都合であって、他人には関係ないものなんだから、他人に影響するものじゃない。

例えば私は毎朝ジョギングをしているのだから、君もそうしなくてはならない、なんて云い分は成立しない訳だよ。




■シン

ジョギングの日課はその人のものであって、僕のものではないから、ですね。




■リメイ

そう。

自分がどうしたいか、自分がどうであるかは、人それぞれだよ。

それはつまり、人間は皆こうしなくてはいけない、と云うような普遍的規範ではない、と云う事。

正義と云うのが、人間皆が従うべき道理なのであれば、つまり主義思想は正義ではない訳だね。




■シン

ええと、正義は普遍なんだから、普遍でないなら正義でない、そして主義思想は普遍でないのだから、主義思想は正義でない、ですね。




■リメイ

そう。

対偶論法と三段論法、アマネに訓練されたかい?




■シン

ええ、一応。




■リメイ

じゃあ、主観が正義でないのは良いけれど、人間皆が従わなくてはならない普遍的な規範とは何だろうか、と云う事なのだけれど。

結論としては、秩序維持法則なんだ。

従わなくてはならないと云うより、自然法則だから逆らえる訳無いものなんだ。




■シン

でも、人は争ったりするんだから、逆らえているんじゃないんですか?




■リメイ

厳密に云うとね、「平和な社会でありたいなら、犯罪はしてはいけない」と云うのが正義的な法則であって、これに逆らう事ができない、と云う事なんだ。

「犯罪をしてはいけない」に逆らう事はできるよ。

ただそうして犯罪を為した場合、「平和な社会」の方も同時に崩れ去る、と云う事なんだ。

任意の結論は、仮定とセットで成立するものなんだよ。




■シン

ああ、これも対偶論法ですね。

「平和な社会は、犯罪のない社会」なんだから、「もし犯罪をしたなら、それは平和な社会ではない」と云う事になるんですね。




■リメイ

そう。

だから、「平和な社会でありたいなら、犯罪はしてはいけない」と云う法則には逆らえていないんだ。

もしこの法則に逆らえるとしたらそれは、「平和な社会でありながら、かつ、犯罪もして良い社会」と云うものが成立する、と云う事だよ。




■リメイ

論理式で表すと、

「A→¬B」の否定なので、「¬(A→¬B)」と云う事。

「P→Q」の真理値は、実は「¬P∨Q」と同じなので、これの否定である「¬(A→¬B)」は、「¬(¬A∨¬B)」で、「A∧B」と云う事。

だから、「平和且つ犯罪あり」になる訳だね。




■リメイ

ところで、平和な社会と云うのは例えば犯罪のない社会の事だね。

と云う事は、「平和且つ犯罪あり」と云うのは、「犯罪なし且つ犯罪あり」と云う事で、これは矛盾だよね。


依って、「平和な社会でありたいなら、犯罪はしてはいけない」と云う法則には逆らえないんだ。

これに逆らえると仮定すると矛盾が生じた訳だからね。




■シン

背理法ですか。




■リメイ

うん。

まあちょっと素朴に、古典論理の範囲での説明だけれどね。




■リメイ

そんな訳で、自然法則には逆らえないんだ。

だから、「平和な社会を維持したい」と云う前提下では、「人間は皆、犯罪をしてはいけない」と云う事が云える。

その論拠は、「何故なら犯罪のある社会は平和な社会でないから」と云う事だよ。

そして、その不可能的事実が正義なんだ。




■シン

成程……。




■リメイ

と云う訳で、人間皆が従わねばならない普遍事実や法則と云うのは客観範疇にあるものであって、

各人固有の主義思想ではあり得ないんだ。




■リメイ

簡単に纏めると、

普遍的なものは客観範疇にあり、正義は人間普遍のものだから、正義は客観範疇にある。

そして客観と主観は独立なのだから、主観と正義は独立で無関係、と云う事だね。




■リメイ

そしてこの事実から帰結されるのは、自身の主義思想に関して、それで他者を裁いたり、それを他者に強要してはいけない、と云う事。

そしてその「してはいけない」と云う普遍義務が、「正義」の現れの一つだと云う事なんだね。




■シン

聞いてみると、結構シンプルな話なんですね。




■リメイ

うん、何も難しい事はないよ。

主観を基準にしてしまうと途端に混乱してしまうと云うだけなんだ。

人間は普通、主観的にものを考えるから、そうして混乱し易いと云うだけの事なんだ。

その混乱の起源は、正義は主観でなく客観範疇にあるものだったから、なんだね。




■シン

そうすると……主観的にでなく客観的に考えるって、難しそうですね。




■リメイ

そこで、手っ取り早い訓練は、数学なんだ。

何故なら数学は全く客観的なものだし、客観的なもので主観が関与し得ないって事が素朴に判るだろうからね。

計算と云う客観的な法則に基いているものだから、客観思考の実例であって、訓練としては効果的だろうね。




■リメイ

重要なのは、数学的思考即ち客観思考は、数学でしか使わないものではないと云う事。

正義を考えるにも、計画を遂行するにも使えるスキルなのだから、数学固有と云う風に誤解せず、応用も想定して学習していけると良いね、と云うような事かな。




■シン

数学って、科学技術ばかりじゃなく、個人レベルでも結構便利なものなんですね。



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