0025_矛盾表現の原因や効果

■ユウコ

テレビとか名言とかで、矛盾した表現ってよく使われますよね。

無駄にこそ価値があるとか、何もしないをしようとか。

あれって、なんでなの?

論理的には意味不明なんだよね?




■キズナ

うーん……まあその方が、面白いからかなぁ。




■ユウコ

面白い?




■キズナ

論理的な言説はね、情報を緻密に処理しないといけないから、労力が掛かるんだぁ。

そして人間は、労力の掛かるものは避ける傾向にあるんだぁ。

だから、論理的に丁寧に説明を展開したところで、誰も理解しようとしてくれなくて、伝わらないまま終わっちゃう、って云う可能性が高いんだよねぇ。




■ユウコ

あー、大変よく判ります。




■キズナ

だからこそ、端的に意味合いを把握できたり、印象的で興味を引くようなフレーズを用いた方が、好都合だって判断になるんだよぉ。




■ユウコ

うむ、確かに。




■キズナ

論理は厳密で正しいものだってされてるんだけど、だからこそ大変で避けられがちなんだよねぇ。

であれば、簡単で主観的に好印象つまり面白い言説が、そうした大変な論理を棄却してくれるんだったら、論理を拒否するのに好都合なんだよねぇ。

とすると、矛盾した表現って云うのは、論理に反する面白いものだし、そうして論理を棄却できるなら好都合だ、ってことで歓迎される場合もあるみたいなんだぁ。




■ユウコ

成程なあ……。




■キズナ

まあ、人間の心理がそうなっているのかは判らないけど、例えばそんな事なんじゃないかなぁ。

端的に云えば、面白く判り易いから重宝されているだけで、そこには正しさと云う観点は伴っていないんだぁ。

だから、正しさを求めようとすれば、そんな印象的な表現の方じゃなくて、厳密な論証であるべきなんだよねぇ。




■キズナ

だから数学とかでは、言葉っていう曖昧な表現方法ではなくて、数式っていう厳密な表現を用いるんだよねぇ。

計算とかもし易いから、混乱しにくいんだよぉ。

と云っても、色色説明をしないといけないから論文とかはやっぱり言語で書かれるんだけどねぇ。




■ユウコ

う、うーん。

でもやっぱり、数式とか苦手……。




■キズナ

まあねぇ。

例えばね、数学書とか科学書ってね、数式を一つ入れる度に売上が半減する、なんて云われたりするみたいなんだけど、それってまあそういう事なんだよねぇ。

基本的に、難しいのは厭なんだよぉ。




■ユウコ

そうだなあ。




■キズナ

でもね、実はそれって慣れの問題であって、慣れちゃえば数式は普通に意味を取れるし、寧ろ厳密で判り易いものなんだぁ。

外国語と同じようなものだねぇ。

最初は難しいけど、慣れちゃえば大丈夫なんだよぉ。




■キズナ

でもね、だからって、本を読む前にまず数式に慣れなきゃいけないんじゃ、本を読めるようになるまで大変だよねぇ。

だから、数式とか外国の本とかは、あまり読まれないんだぁ。




■ユウコ

私も、全然読まないなあ。

映画の原作の小説とか、海外のものでも、翻訳版を読むし……。




■キズナ

読めないもんね、外国語の本じゃぁ。

数式だらけの本も、やっぱり読めないねぇ。




■キズナ

まあ本当は、本を読む直前に学習しないで済むように、義務教育として色色教えてはいるんだけどねぇ。

ただそれでも限界はあるし、難しい数式は義務教育の範疇では無理があるしねぇ。

外国語の習得も、たとえ外国語会話の授業であっても、坐学では無理があるんだぁ。

かと云って義務教育でいちいち海外生活なんてしていられないしぃ。




■ユウコ

まあ、確かに……。




■キズナ

ただ、本当はね、数式っていうのは、自然現象とか事象とかを、明確で厳密で扱いやすく工夫した、便利で判り易いものなんだよねぇ。

折角便利なものがあるのに、難しいからやだって使わないのは、勿体無いは勿体無いんだぁ。




■ユウコ

うう、まあそうですけどお……。




■キズナ

うんうん、でもだからって何でも使いこなせるように訓練しろって云うのも無理があるし、できなくて良いことは別にできなくて良いんだしねぇ。

スタンス自体は人それぞれなんだしぃ。




■ユウコ

そうだよね。

パソコンの方が高性能でも、私はスマホで十分だからパソコン憶える必要ないし。




■キズナ

うんうん。

だからね、数学書とか専門書に対して、数式や専門用語を使うな、って云う指摘はナンセンスなんだけど、

数式や専門用語ばかりの本は読みたくないよ、って云うのは何も訝しくないんだぁ。

厭なら読まなくて良いし、読みたいなら頑張って読めば良いだけなんだぁ。




■ユウコ

うーん、売上も落ちるでしょうなあ。




■キズナ

そんな訳で、一般向けの解説書では、数式や専門用語を使わない説明が有意義って事になって、どんどん大雑把ででたらめな、印象的な表現ばかりが使われちゃうんだぁ。

そうして結局、啓蒙の効果は出ないまま、間違った言説ばかりが横行しちゃって、寧ろ本末転倒になっちゃったりもするんだぁ。




■キズナ

相対性理論を理解しているのは地球上に数人だけ、とかねぇ。

どういう意味で云っているのか判らないけど、まあ大雑把に云うとそんな訳はないんだ、程度にも依るけれどねぇ。

でも端的には、それくらい難しいよ、カッコいいよ、って演出しているだけなんだよねぇ。

だから鵜呑みにはしない方が良くて、ただの売り文句みたいなものなんだよぉ。




■ユウコ

成程なあ……。




■キズナ

だからね、もし正しさを大事にしたいなら、頑張って論理や数式や専門用語に慣れるべきで、そうでないなら正しさを扱おうとはしない方が良いんだぁ。

間違っちゃうのは問題ないんだけど、間違ってるかもしれない言説ってつまり正しさを扱ってないんだから、どれだけ云い張ったって、それは正しさじゃないんだよねぇ。




■キズナ

これってこうじゃないかな程度の言説は、正しさじゃないんだぁ。

だから、正しさを扱いたいなら、あまり印象的な表現を使わず数式や専門用語を使うべきなんだぁ。

何しろそれらは、正しさに迫る為に工夫された便利なものなんだから、使わない理由がないんだよねぇ。




■ユウコ

う、うむう。




■キズナ

例えて云うと、今日中に外国に行きたいなら飛行機を使うべきで、徒歩では海を渡れないし、今日中にと云うのは時間がなくて無理なんだぁ。

要するに、それを使わないと達成できないものは使わざるを得ないんだよねぇ。

数式とか専門用語はね、それを使わないと正しさには到達できないものなんだよぉ。




■ユウコ

それはどうしてー?




■キズナ

人間って、多くの情報を一遍に扱ったり憶えていたりする事ができないんだぁ。

それでも正しさとか自然現象って、多くの事柄が複雑に絡み合ってるから、ちゃんと処理できなきゃいけないんだよねぇ。

その困難を達成するにはどうしたら良いかって云うと、複数の情報を一つに纏めて、一度辺りの情報量を減らす、っていう工夫が必要って事なんだぁ。




■ユウコ

ああー……。




■キズナ

そんな風に、整理整頓してチャンク単位で情報を扱えば、人間でも複雑な情報処理ができるって事なんだぁ。

部屋の整理整頓と同じだねぇ。

医薬品は医療箱、書籍は書棚っていう風に整理しておけば、それらの配置を憶えておきさえすれば良くて、個個の物品の位置まで把握しておく必要がないんだねぇ。

だから全体像を把握できるし、必要に応じて深掘りしていく事で、詳細な情報に到れるんだよぉ。




■キズナ

情報を圧縮して保持しておいて、必要に応じて取り出していくんだよぉ。

そうすれば余計な情報は処理しなくて済むから、人間の脳でも達成できるんだぁ。

だから、専門用語っていう形でチャンクに纏めて、数式っていう厳密でシンプルに処理できる形式で計算とかをしていくのが必要なんだぁ。

そうしないと、情報そのままでは複雑過ぎて処理できないんだぁ。




■ユウコ

成程。




■キズナ

話を戻すけど、印象的なフレーズが重宝されるのは、人間は難しい事が苦手だからなんだぁ。

だから、人に何かを伝えたい時には有意義な方法なんだよぉ。

でも、もし正しさという難しさに挑むなら、印象的なフレーズには寧ろ気をつけなきゃいけないんだぁ。




■キズナ

何にせよ大事な態度は、どんな情報も鵜呑みにしないで、本質と正しさを意識するって事なんだぁ。

詐欺とかデマとかってのも、印象的だから騙されちゃうんだよねぇ。




■ユウコ

私なんか、特に気をつけないとだあ。



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