0006_才能がなくても挑んで良い

■シン

アマネさん、才能が無いからできないって云い分をどう思いますか?




■アマネ

何だね、壁から釘に。




■シン

端折るくらいなら云わなくて良いです。

それで、どう思いますか?




■アマネ

才能だとか、できないと云うのがどういう意味かに依るが……才能が無ければ、歴史に名を残す程の成果は出せないだろうとは思う。

才能と云うか、天才でなければできない、と云う感じだろうか。




■シン

でも、アマネさんはよく自分の事を無能だとか才能が無いなんて云いますよね。

それなのに、どうして哲学をやっているんですか?

才能が無いなら、成果は出せないんでしょう?




■アマネ

どうしても何も、やりたいからだが……。




■シン

成果が出ないのに?




■アマネ

成果が出ないのに。




■シン

はあ……。

厭になったりしないんですか?




■アマネ

そうだなあ。




■アマネ

君は、スポーツやテレビゲームや、何か好きな事、或いは楽しい事はあるかね?




■シン

ええまあ、ゲームで遊ぶ事もありますけど……。




■アマネ

中には難しい、巧く行かなくてイライラする、と云う事もあるだろう。

だがそれでも、基本的には楽しくて、いつまでもやってしまうのではないかな。




■シン

まあ……。




■アマネ

哲学でも研究でもそれと同じで、基本的には、楽しくてやっているのだよ。

思うような成果が出なくて苛立つ事もあるし、厭になって中断する事もそれはあるが、暫くしたらまたやり出す。

何故なら基本的に、好きだし楽しいからだな。




■アマネ

才能がなければ、天才でなければ、優れた成果は出せないだろうとは思う。

だがそもそも、才能があるかどうかと云うのは、優れた成果が出て初めて成果だと認識できるものだ。

その意味では、才能があるからやっているのではなく、やっていたら才能があると判明した、と云うのが流れなのだよ。

やる、と云うのがまず来ていて、評価はその後だ。




■アマネ

じゃあ、やると云う行為の原因は何かと云うと、やりたいから、なのだよ。




■アマネ

例えば宝くじを買うのは、当選したいからかもしれない。

そうすると、当選しなければがっかりするし、当選するかどうかをまず考えて、無理そうだから買わない、と云う判定なども適当だろう。




■アマネ

しかし、哲学に関して云えば、それは確かな智への愛であり、知りたいと云う衝動であるので、それに突き動かされているだけで、成果だとか打算的な何かはそもそも踏まえていないのだよ。

知りたいから挑まずにはおれないだけなのだよ。

成果が出るかどうかは不明だが、挑まねば成果は出ないのでな。




■アマネ

できるかどうかではなくやるのだ、なんて事が云われる場合もある。

この言葉をそのまま受け取るとちょっと意味不明ではある。

やれたのであればそれはできたと云う事だし、できないならやれないのだから。

できるかどうかは、やれる為に重要な要素だ。




■アマネ

だが恐らくこんな言葉の云わんとするところは、挑まねば成果は出ないと云うだけの事だろう。

先ず挑み、例えば成果が出ないと解ってから諦めれば良い、とかな。




■アマネ

そんな事ができるのは一部の天才だけだ、天才でないお前には無理だ、なんて言葉はその逆であろうな。

やってみて、できてから初めて天才かどうかが判明するのだから、事前にお前は天才でないと断言しているのが不当な訳だ。

別に良いじゃないか、苦労しようが無駄になろうが、やるだけやったって。

だって、やりたいのだから。

やってみて、無理だった時に諦めれば良いのだから、やる前から諦める必要がない。




■アマネ

要するに、自分に才能があるかどうかは、気にする必要がないし意味もないし、判るものでもない。

成果が出た後で初めて認識される結果論でしかないのだよ。

先取り的に自身の才能を自覚するのは不可能なのだから、とにかくやりたいだけやれば良いと云うだけだ。

才能があったらわーいだし、そうでなくてもやりたい事をやっているのだから楽しくて結構だろう。

それに、やりたくないならやらなくて良いのだし、とにかく好きにしたら良いのだよ。




■シン

じゃあ、自分には才能が無いからできないと云うのは云い訳だ、みたいな云い分はどうですか?




■アマネ

先ず、分析の結果そうだと判ったならそうなのであろう。




■アマネ

そして、そんな言葉を挑まない事の云い訳として利用しているのだとしても、まあ別に問題もないだろう。

当人がもう挑みたくないと云うのなら、別にやらなくて良いのだし。

成長の為にはやらねばならない事もあろうが、成長する必要がないならやる必要もない。




■アマネ

だから結局、当人次第なのだよ。

やりたいならやったら良い、疲れたら休憩すれば良い、厭になったら離れたら良い、再開したくなったらしたら良い。

他人がとやかく云う事ではないし、好きにしたら良い。




■アマネ

才能が無ければ成果は出ない。

だが、成果が出ないだけであって、別に挑んで良い。




■アマネ

私は、哲学をやりたいからやっているだけだ。

自分への絶望はあれど、それは哲学とは無関係だしな。




■シン

成程……。

でも、成果が出ないのはつらくないですか?




■アマネ

つらい事もあるが、つらくなったら休憩したり気分転換するし、問題から離れたりするし、特に問題はない。

そうしている内に、そろそろやっぱりやろうかな、と思ったりするので、そしたら再開するだけだ。

困難に対しては、まあ巧く自分を煽てながら、結局やりたいようにやっているだけなのだよ。

やはり基本的には、哲学が好きだからな。




■シン

成程……。



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