第129話:一抹の不安

「いやぁ、やっぱり獲物が減ってるねぇ」

「そうですよねぇ」


 オーリたちと獲物を探して砂船を丸一日走らせて、見つけたのは中型モンスター三匹だけ。

 まぁこのサイズでも渓谷の村だけで見れば数日分にはなるけれど。

 早いとこ家畜を手に入れないとなぁ。


 いっそモンスターを飼う?

 とも思ったけど、俺たちが獲物として狩ってるヤツは肉食モンスターが多い。

 肉が欲しいのに肉を餌をして与えなきゃいけないって、飼育する意味がまったくないじゃん。

 それに、渓谷の周辺の土地は土が硬くなり始めている。水分を含んできたからな。

 小型のモンスターや草食モンスターは、中型や大型モンスターから逃れるために砂の中に生息している奴らが多いから、結局今の土壌事情だと飼うのは困難だ。


 緑化の弊害がこんな形で出てくるとはなぁ。

 緑化したらいいことだらけだと思ったのに。


「なかなかうまくいかないもんだなぁ」

「まぁそう気を落とすんじゃないよ、ユタカくん。砂漠が緑化すれば、確実に以前より食料事情はよくなるはずだ。今はその過程だから困難な状況になることもあるだろうが、将来のことを、子供たちのことを考えれば、砂漠より絶対によくなるはずだから」

「そう言ってもらえると、ちょっと安心するよ。ま、どっちにしろ後戻りはもうできないしね」


 そろそろ町に行く時期だし、牧場の柵も本腰入れて完成させないとな。

 小屋は建てずに、日陰作りにもなるからツリーハウスを植えることにしてある。

 二階はいらないから、平屋仕様で幹をできるだけ太く……って、どのくらい太くなるんだろうな。

 まぁ何本は植えてやる必要があるだろう。


 家畜の件はこの前の時にゼブラ氏に話してあるから、大工を呼び寄せるついでに子豚と仔牛を連れて来てくれることにはなっている。

 砂漠の村、あとドリュー族の集落でも、同じように家畜を飼育する準備ができているはずだ。


 まずは俺が成長促進で頭数を増やす。

 そして村と集落に連れていく。


 さすがに俺も家畜の飼育なんて初めてだし、こっちの人たちも同じく初めてだ。

 うまくいくかちょっと心配だけど、なんだってやってみなきゃな。


「それじゃ、村へ帰るか」

「そうしよう」


 風の向きを変えて、渓谷の村へと引き返した。


 その五日後――


「じゃ、町に行ってくるよ」

「気を付けて~」

「ユタカくんたちが戻ってくるまでに、牧場の方は仕上げておくよ」

「頼んだよ、ダッツ」

『オ出カケ~』


 前回、留守番をさせて不貞腐れたから、今回はアスたちも連れていくことになった。

 水の大神殿の中には入れないが、外から見るだけならできる。

 

 湖に沈んだ神殿。

 見た目的には神秘的だし、綺麗なんだよなぁ。

 あぁいうの、観光客とか呼べたりすればなぁ。


「なぁマリウス」

「はい、なんでしょうユタカ様?」

「この世界の人たちって、旅行とか行ったりするのか?」

「旅行ですか? うぅん、そういうのは貴族や一部の富裕層だけですね」


 やっぱりそうなのかぁ。

 けど。


「貴族か。たっぷりお金を落としてくれれば、町も潤ったりするんじゃないかな」

「え? 砂漠に貴族を呼ぶんですか? それはちょっと、難しいんじゃないですかねぇ」

「水の大神殿とか、観光スポットにならないか?」

「確かにあの光景は神秘的で美しいとは思いますが、でもそれだけですとちょっと」


 他に観光スポットがなきゃダメか。

 海だってサンゴ礁あるし、綺麗だけど……いや、でも荒らされたらクラーケンが怒るだろうし。


「それに、貴族が宿泊できるような豪華な宿もありませんから」

「あー……確かになぁ」

「ツリーハウスじゃダメなの?」

「え? ツリーハウス? いやいや、豪華のごの字すらないだろ、シェリル」

「うぅん。ステキだと思うのになぁ。私たちが以前暮らしてた天幕なんかより、すっごく豪華じゃない」


 あぁ、そっか。シェリルたちの基準だと、ツリーハウスも豪華なのか。


 日頃から豪華な暮らしに慣れてるお貴族様だと、ツリーハウスなんて犬小屋に見えるんじゃないかなぁ。


『ついたぞ』

「フレイに連れて来て貰うと、あっという間だな。ありがとう」

『我も水の大神殿を見てこよう』

「お、興味あるんだ?」

『我とて美しいと言われる景色なら、興味もあるというもの』

『オジチャン先ニ見ルノズルゥーイ。ボクモ行クゥ』


 途端、ぱぁっとフレイの表情が明るくなる。

 尻尾の先も揺れてるな。


「じゃ、アスはおじちゃんと行くか? ユユたちはどうする」

『ぼくも行くぅ』

「ルルも行くそうです」

「リリもよ」

「じゃフレイ、ワームたちが落ちないように面倒みてやってくれよ」

『うむ、任されよう』


 ふんすっと鼻を鳴らすフレイ。そのフレイの背中にアスたちはよじのぼり、そして空へと舞い上がった。

 

 ……。


「もう冒険者って、迷宮に潜ってたりするのかな?」

「さぁ、どうでしょう?」

「お店や休憩所を橋の上に作るって言ってましたし、まだなんじゃないでしょうか?」

「でも屋台っていうのは、簡単に作れそうよ? 休憩所だって天幕があればいいんだし。でもそれがどうしたの?」


 火竜が迷宮前に現れたら、どうなるんだろう……。

 今更ながら、ちょっと不安になった。


 ま、まぁ、大丈夫だよな。



*****************************

都会の方では昨日あたりから、ぼちぼち書店様に並び始めているようです。

うちは地方なので、発売日から数日遅れですが・・・

お見かけした際には、お手に取っていただけると泣いて喜びます。

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