第128話:どんどん木材

 水の大精霊アクアディーネから町の住民たちへ、これまで偽神官たちが巻き上げていた金品が返された。

 神官たちを胡散臭がっていた住民たちは結構多くて、大精霊によって罰が与えられたってだけで喜ぶ人は多かった。

 そのうえで金品が戻ってくるのだから、みんな、大精霊に感謝するのは当然だ。


 その勢いで港建設の話を町長がし、港があれば外国からの船が直で砂漠に来る。そうなると内陸の品が今より少し安く手に入る。

 そんな話をすれば、これまた当然、誰も反対はしない。

 それに仕事を持てる人も出るから、万々歳だ。


「ってことで、港造りに必要な木材は俺が用意することになったんだ」

『冒険シテル!』

『ずるい!』

「ずるくないずるくないっ」


 渓谷の村に戻ってくると、留守番をしていたアスたちに怒られた。

 本当なら日帰りの予定だったのに、結局町で二泊してきたし。


「そもそも、お前たちが迷宮に入れるわけないだろう」

『ドウシテ』


 ぷぅーっと頬を膨らませるアスに、両手を広げて見せる。


「階段の幅、こんぐらいだから」


 塔の螺旋階段は、それほど広くはない。

 恰幅のいい人間ならひとり、普通の人でも二人並ぶともうキツキツだ。


「アスくん。残念ながら最近成長している君の体では、あの階段は使えない!」

『ガーン!!』

「ユユもだ。細長いお前の体だと、あの螺旋階段は危なすぎる。それに階段を下りた先は水の壁に覆われた場所なんだぞ。もし全身濡れたりしたら……」

『ぷるぷる』


 それ以前に、モンスター退治を生業にしている冒険者がひしめく迷宮に連れて行けるわけがない。

 普通のモンスターと間違えられたら大変だ。


「港造りの見学はさせてやるからさ」

『ホント!?』

『絶対!?』

「絶対、本当だ。でだ、手伝って欲しいんだけどなぁ」

『『任セテ(せて)!』』






「じゃ、アスとユユとルルとシェリルは、俺がスキル使った種をどんどん植えていってくれ。野菜みたいに隣の種と近すぎるとダメだからな」

『成長シタ時ノコトヲ考エルンダネ』

「その通り! アス賢いぞ」

『エッヘン』

『さすが童だ』


 いつ、どこから来たあんた!

 大量の木を成長させるためには広いスペースが必要だ。

 それで渓谷の外に来たんだけど、いつのまにかフレイが来ていた。


「アスくん、ちょっと」

『ナニナニィ?』

「ごにょごにょ」

『ウンウン』

「ごにょにょ。な?」

『ウン、ワカッタァ。優シイオジチャーン』


 フレイの尻尾がぴくっとして、先っぽが犬のほうにふりふりしはじめる。


『どうした、童よ』

『ウン、アノネ。ボク頑張ッテ木ヲ植エルノ』

『うむ、お手伝いか、偉いぞ』

『エヘヘ。アノネソレデネ、オジチャン、ボク・・ガ蒔いた木ヲネ、大キクナッタラ抜イテ欲シインダ』 

『童が植えた木を、我が』


 今、フレイの脳内で何かが再生されているはずだ。

 鼻が伸びてるぞ。


『ボクトオジチャンノ力デ、ユタカオ兄チャンヲ助ケルノ。ボクトオジチャンノ力デ!』

『わ、童と我の……お、ぉおぉおお。任せておくのだ!!!』


 アスが振り向いて、グッと親指を立ててウィンクする。

 チョロいな。


「よぉし、それじゃやるか。ルーシェ、、リリ。それからフレイは伐採担当」

「任せて」「はい」『童と我の力、みせてくれよう』

「じゃ――"成長促進"」


 両手いっぱいに掴んだ種にスキルを付与する。

 三十分後に、木材として一番適した時期まで成長と指定して。

 付与した種はシェリルたちが持っていって、あちこちに蒔く。


 シェリルは一粒ずつ丁寧に。

 アスには竹筒に種を入れてやって、小さな穴から直接種を地面に落としていっている。

 時々土の精霊が出て来て何かしているのは、近すぎる種を離してやっているんだろうな。

 ユユは水滴を浮かべ、その中に種を入れて等間隔になるよう飛ばしている。

 精霊魔法を美味く活用しているようだ。

 そういう点ではルルも同じ。

 種をいきなり地面に全部ぶちまけたかと思ったら、種が土に包まれて小さな団子に。

 そして発射される土団子。


『モウ終ワリ?』

「いや、まだまだいくぞ。"成長促進"!」


 手で持てる量の方に限界があるんだよぉ。

 この分だと種の在庫が足りなくなる。


「悪い。種集めもしてくれるか? 種用に成長させるからさ」


 十分後に種が出来るまで一気に成長し、その後は種が実って落ちるまで繰り返し成長――としてスキルを付与。

 成長させているのは水に強い檜と松だ。


 成長させて、伐採or引っこ抜いて貰って、インベントリに入れていく。

 木材、どのくらい必要なのかさっぱり予想がつかないから、どんどん溜め込んでいく。


「百本程度じゃ全然足りないよなぁ」

『建物も建てるのだろう。まったく足りぬな』

「だよなぁ」


 そんなわけで、午前中は畑仕事を、午後から木の成長を続けて五日間。


「樫が千二百本とちょっと、松が千五百弱。足りるかなぁ」

「どうかしらね?」

「ゼブラさんとこの大工さんがいらっしゃったら、確認してみないとですね」

「だよな。大工が来るまでに結構あるし、まだまだ成長させるか」


 引き続き、木材成長は続く。


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