第127話:残念な狩場(一部メンバーに限り)

「はぁ~……」

「ちょっとがっかりね」

「そうですねぇ」


 神殿の地下ダンジョンがどんなものか。

 生息するモンスターの強さは?

 罠はあるのか?


 などなど、冒険者に一般開放する前の調査ってことで、俺たちは三組に分かれて一時間ほど探索した。

 その結果――


「食肉にならないモンスターばっかりだった」

「砂漠のモンスターが減って来てるようだし、ここで狩りができればと思ったんだけどなぁ」

「肉もですが、倒したモンスターが煙になって消えてしまっては、たとえ美味しいお肉を出すモンスターがいても、お肉は取れそうにありませんね」

『ちょっとちょっとあんたたち、モンスターをなんだと思ってるのよ』

「「食料」」


 俺たち三人がそう答えると、アクアディーネは何故かこめかみを抑えていた。

 精霊でも頭痛とかあるのか?


 他の二組の冒険者グループも戻って来て、お互い遭遇したモンスターの情報を話す。

 俺たちは体長一メートル超えのダンゴムシとゲジゲジ、人の頭ほどもある目玉に触手がうにょうにょしたやつと戦った。

 強いかどうかは、ちょっとわからない。


 他の冒険者たちもほぼ同じ内容だ。追加でスケルトンがいたぐらいか。やっぱり食用にならないな。


「罠はなかったわ」

「こちらもだ」

『わたしも一階をざっと見てやったが、罠のようなものは感じられなかったな』

「風の大精霊様のお墨付きなら安心だ。迷宮の作り的に見ても、罠はないのかもしれない」


 ギルドマスター曰く、人工的な構造に見えるダンジョンには罠が設置されていることもあるらしい。

 罠があるだけで難易度が上がる。罠を見破れなきゃダメだからだ。


「といってもな、罠は誰かが解除すりゃあ数時間は再発動しねぇ」

「だが罠の存在に気づけなければ、解除されているのかいないのかもわからないからね。結局、難易度が高くなることに変わりはないんだよ」


 と冒険者がフォローする。

 罠の存在に気づける仲間がいるかどうかが鍵、のようだ。


 はぁ、それにしてもガッカリだ。

 肉が手に入ればなぁって期待したのに。


 ま、ここは本腰入れて牧場運営をしろってことだな。






「なぁアクアディーネ。こいつらずっとこのままなのか?」


 神殿の中はジンの力で空気の通路が出来たが、ダンジョンまで続く道以外は水に浸かったまま。

 そしてその中では半魚人に姿を変えた元神官たちが、お祈りポーズで必死に何かを訴えかけてくる。

 

『あたりまえじゃない。え、ユタカあんた、かわいそうだとか思ってる? ねぇ、思ってる?』

「いや、ぜんぜん。たださ、狩りに来る冒険者がこれみて、やる気なくしたりしないかなって思って」

「むしろ水棲モンスターだと思われて、狩られるんじゃない?」


 とシェリルがいうと、半魚人たちはギョっとなって逃げて行った。

 魚だけにギョ……ふふ。


『それはそれでいいんじゃないのぉ? ほら、あいつら町の人間たちからいろいろ受け取ってたし、懐は肥えてるはずよぉ。ドロップ品いっぱいかもぉ』

「それ本当っすか大精霊様っ」

「確かに神殿じゃ、雨を降らせるために住民の献身的な~とか言って、寄付を募ってたもんなぁ」


 え、ここの連中、そんなこともしてたのか?


「自分たちを神官だの言ってたが、実際、神に仕えていた訳でもないしな」

「神聖魔法が使えない神官なんて、とんでもありません。罰を受けて当然です」


 と、まさに法衣を着た神官さんが憤慨して言う。


『この神殿には、何百年とかけて町の住民から徴収した金品がたんまりあるはずよ。ま、ぜーんぶ水の底だけど。あっはっはっは』

「もったいないだろ!」

『えぇー、ユタカも金の亡者だったのぉ?』

「いや、沈めたままなのはもったいないってこと。な、こういう使い方はどうだ?」


 地上に出た俺たちは、橋の上で食事をしながら話の続きをした。


「まず、この神殿はこれまで通り『水の大神殿』にしないか?」

『ちょ、ちょっと!』

「まぁまぁ、アクアディーネ。見てみろよ。湖に沈んだこの姿は、まさに水の大神殿に相応しいだろ? そのうえで、これまで町の住民が寄付したものは、大精霊であるアクアディーネ、お前のものだ」

『いらないわよ、そんなもの』

「だろ? だからアクアディーネから、一部を町の復興のために使って欲しいって言って返すんだ」


 町の復興の中には、港の建設も含めるってことで。

 残りの金品――まぁ具体的にどのくらいあるのか分からないけど、それは定期的にダンジョンのお宝として置く。


「そうすれば冒険者のやる気も出るってものだろう?」

「なるほど。それはいい案だ」

「いや、やるならこっそりやった方がいいだろう。じゃねえと、神殿に盗人が入るだろうからな。それに住民だって納得しねぇのが出てくるだろう」


 自分たちのご先祖が寄付したものだから、自分たちに全て返せ――と。

 まぁそう言われてしまったら、拒否すれば住民と揉めることになるかもしれない。


『でも冒険者には来てもらったほうがいいのよね』

「そうなのですか、アクア様」

『そうよ、ルーシェちゃん。迷宮はね、定期的に中のモンスターを駆除しないと、いつかスタンピード――普段は決して外に出る事のないモンスターたちが、一気に溢れ出てしまう現象なんだけど、それが起きてしまうのよ』

『ダンジョンのモンスターからは、魔瘴ってのが出てるの。その魔瘴が溜まると、スタンピードが起きるんだよ』

『モンスターは倒されると、周辺のわずかな魔瘴と共に消えてなくなる。故にモンスターを倒し続けなければならぬのだ』


 ダンジョンってそんな風になってたんだ。


『昔はね、この辺りで暮らしていた人間が少なく、加えて戦える者もあまりいなかったの。それで魔瘴が溜まる一方だったから、スタンピードが起きても外に出られないように物理的に塞いだってわけ』

「そんなことがあったとは、知らなかったぜ。ま、そういうことなら、じゃんじゃん冒険者を送り出すぜ」


 これで冒険者離れも解消されるだろう。


 お宝のことはここにいるメンバーだけの内緒にして、町へ返す分だけが全部ってことにする。

 それをアクアディーネから町長へってことにして、アクアディーネ株が爆上がりすることだろう。


 とりあえず収穫はあった。

 肉がなかったのは非常に残念ではあるけれど。



*********************

書籍発売前に体調崩すとは・・・

鼻詰まりはまだ解消されていませんが、熱は完全に下がったので

執筆再開です!

週末にはグラストNOVELS様より書籍の発売です。

都会の方だと水曜、木曜あたりから並び始めるのかな?

いや、並ぶのか?

ドキムネドキムネ

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