第126話:冒険へ
塔から中央の礼拝堂みたいな広い部屋に来た。
半魚人がいた。
全員が身構える。
よく見たらこいつら、町長の家で見た神官と同じ服を――
『こちらに見えますのが、アタシを長年閉じ込めていた神官どもでございます』
「「え?」」
人間、じゃないのか?
『水が大好きな彼らに相応しい姿にしてあげたの』
にっこにこのアクアディーネさんですけど、怖いことぽろっと言ってません?
『呪いだよ呪い』
『大精霊の怒りに触れた者は、ああして姿が変えられる。ちなみにわたしを怒らせた場合、パーピィになる』
『ボクを怒らせるとワーウルフになるよ、カッコいいでしょ?』
「大精霊怒らせると、人間辞めなきゃいけないのか」
「じ、じゃあ海にいた半魚人って……」
シェリル! それは言ってはいけないことだっ。
『あ、違うわよ。海の半魚人は種族。ちなみに彼らは淡水では長く生きられないわ。この者らは逆に淡水専門で、海水では生きられないから。で、クラちゃんを怒らせると、クラゲになるのよぉ。おっもしろいでしょう』
面白くありません。
なにかを懇願しているように見える半魚人たちから視線を背け、奥にある地下へと続く階段を下りていく。
かなり長い。
俺が通っていた高校は四階建てだったけど、その階段よりもっと長い段数を下りた気がする。
そして到着したのが、
『ここにずっといたの……ずっと』
巨大な水晶が鎮座する部屋だ。この水晶に閉じ込められていたらしい。
なんでも力が極限まで弱まったおかげで、封印の隙間から出られたんだとか。
出られたのはいいことだけど、力が弱くなっていたことはいいことではない。ヘタをすれば消滅していたかもしれないのだから。
『で、迷宮はもっと下だから、さくさく行くわよぉ』
「まだ下りるのか!?」
「これ、帰りは階段を上るんですよね」
「ぜーったい帰りの方がしんどいわよ」
エレベーターとかないんですか?
更に倍以上の階段を下りて、やぁっと到着。
『この神殿はね、あいつらは水の大神殿だとか言ってるけど、元々はこの迷宮からモンスターを外に出さないために建てられたものなのよ』
「そ、そうですかい。はぁ……はぁ……」
『だらしないわねぇ。冒険者ギルドの偉い人でしょー。体鍛えなさいよ』
「き、鍛えてはいるんです、けどねぇ」
こっちも日頃から畑仕事だ山登りだので体力には自信ある方なんだけど、さすがに疲れた。
まじエレベーター欲しい。エスカレーターでもいい。
神殿の最下層はただの洞窟。
ここまで石煉瓦が続く螺旋階段だっただけに、がらっと様変わりした感じだ。
螺旋階段を下りた正面の壁に大きな扉がある。
「この向こうか」
『そう。何百年もずっと閉ざされていたから、空気がこもってるかもしれないわね。ね、ジンくん』
『扉を開けてもすぐに入らぬことだ。空気を循環させてやるゆえ、しばらく待つがいい』
もしかして開けてすぐ入ったら、窒息死するとか?
こわっ。
冒険者数人がかりで観音開きの扉を開け、しばらくその場で待った。
扉の向こうは下り階段。
ダンジョンって言ったら地下だよな。ここも地下だけど。
三十分ほどして
『空気の入れ替えが終わった。入っても構わぬぞ』
とジンが教えてくれた。
そう言われても、ちょっと怖いな。
「どんなモンスターがいるのでしょう」
「食用になるのかしら?」
「え、ふ、二人とも――」
まったく気にした素振りもみせず、ルーシェとシェリルが階段へと向かった。
「もしかしなくても、これ俺らが最初に足を踏み入れた冒険者だよな?」
「おおぉぉ、なんか緊張してきた!」
「お宝があるといいなぁ」
冒険者のみなさんも!
ビビってるの俺だけ?
「どうしたのユタカ」
「行きましょう」
「……あ、うん。いこか」
「では僕が明かりを」
マリウスが魔法の明かりを生み出す。
おぉ、魔法使いっぽいことしてる!
「ここが迷宮の一階?」
『ううん。この通路をもう少し進んだ先からよ。ここはまだ同一次元だから』
「どういつじげん?」
「迷宮というのは、別の次元に存在する世界なのです。同一次元ということは、僕らが普段生きている次元と同じってことですね。ですから空気の循環も必要になるんでしょう」
迷宮の階層ごとにMOが生成されるみたいなものか。
百メートルほど進むと、その先にまた下り階段があった。
この先からが迷宮らしい。
『階段の下にすぐモンスターがいるね。でもそんなに強くないから、ここにいる人間たちなら大丈夫』
「へっ。ベヒモス様のお墨付きをもらっふぐっ」
『ベヒモスくん。くんにして、くん』
「……ベ、ベヒモスくん」
冒険者にまで頭突きしてやがる。
我先にと迷宮に突撃していく冒険者たち。
いったいどんなモンスターが出るのか。
「じゃ、俺たちも行くか」
「はいっ」
「ふふ、久々に腕がなるわ」
「僕が魔術師であること、たっぷりお見せしますよ!」
なんか冒険っぽくなってきた。
ワクワクするなぁ。
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