ハート型のチョコレート
スミンズ
ハート型のチョコレート
例えばの話。
幼馴染に恋をしたとする。
今まで、なんだかんだでくだらなく遊んだり、一緒にご飯を食べたりする仲だったことを前提として……。
手作りチョコレートをバレンタインデーにあげたとしたら。幼馴染はどう思うだろうか?
やっぱり義理チョコだと思うのだろうか。
もしくは本命であることを茶化してくるのだろうか。
……もしくは、照れてくれるのだろうか?
私はそんなことを思いながら、ボウルに入った生チョコレートを丹念にミキサーにかける。雑念すべてをゴチャゴチャにするかのように、丁寧に、しつこいほど。
その生チョコレートをありがちなハート型の容器に入れると、素早くそれを冷凍庫にいれる。私はふうっと溜息をついた。
例えばの話。
このチョコレートをなにかの間違いで幼馴染にプレゼントしてしまったとする。
そして、プレゼントを受け取った幼馴染の反応に、私は対応することができるのだろうか?
喜べるのだろうか?
悲しめるのだろうか?
それとも、全くの虚無なのだろうか?
そもそも、なんでバレンタインデーなんてあるんだろう。私は根本に対して、多少の懐疑感を抱く。
こんな厄介なスペシャルデイを作ったやつはきっと愉快犯だ。
うん、男の子だってそう思っているはずだ。女の子からもらえたとか、もらえないとか。そんなので競い合う光景を、中学の1年生のときも2年生のときも見かけていた。
ただ、確実に言えるのは、貰えない者はバレンタインデーなどただの厄日でしかない。勝者と敗者が明確にわかってしまうなんて、これまでにないほどの厄災だ。
それは、女子だってだって同じだと思う。
自信を持って、与えることができるものがいる。
勇気を持って、与える覚悟をしたものもいる。
けど、自信がない、もしくは勇気がないから、与えることを断念したものもいるし。
……そもそも、バレンタインデーなどに興味のないものもいる。
私は思う。バレンタインデーなんて、無視してしまえればいいのにと。けれども、そこにポンと置かれたものを無視するほど、私の心は強くない。
だから、バレンタインデーを楽しもうだなんていう気持ちも発生しない。なんでこんなにも苦痛を感じないといけないんだろう。
それはきっと、私の心が弱いからだ。
私は現実を見る。未だにシンクに転がっている先ほどのボウルを、洗剤を染み込ませたスポンジで擦る。なかなかに落ちない。
それがなんだか、消したいのに消せない私の気持ちになんだかリンクする。ふふっと笑う。
例えばの話。
凍らせた心を、そのまま忘れてしまえたら。
けども……。
私はボウルについたチョコレートを擦りながら、「いつかは綺麗に消えていくよ」とハート型のチョコレートを思い浮かべた。
ハート型のチョコレート スミンズ @sakou
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