第47話 ブラックバードの戦線復帰
法国に到着したばかりというのに、俺達がゆっくりしている時間はなかった。ビルス枢機卿の下に伝令兵がきて、文書を渡した。文書を読んだビルス枢機卿はマリーさんと俺に言った。
「ブラックバードが観測された。もう、復帰したらしい」
『俺がこうやって動いていますからねえ』
補修用に追加されたナノマシンはだいぶ馴染んでいる。それなら同様に修理されているはずのブラックバードも動けるだろう。今のところ、人類軍にブラックバードに対応できる騎体は俺しかいない。
「再侵攻は時間の問題だ。コール。ここで休みたいところだと思うが、急いで要塞に戻るぞ」
『俺だけ飛んで帰った方が早いんじゃないかなあ』
俺はマリーさんの方を見て言った。マリーさんも同じ意見なのか頷いた。俺が飛べば巡航速度でもそれこそ半日もかからずに要塞にたどり着くだろう。
「私が神聖力を供給すれば可能でしょう」
「エリザベス卿、ご意見はないかな?」
「コールからも話を聞きたいところでしたが――要塞が手薄なのは間違いありません。ビルス枢機卿、しかとご説明をお願いいたしますよ」
つまり、反対意見はないということだ。
『では、法国観光はまた今度ってことで』
「君は面白いなあ」
エリザベス卿が笑った。
俺は降着状態になって、背中のランドセルにマリーさんに入って貰う。そしてガウォーク形態に変形して、2人に別れの挨拶をする。
「お2人とも、要塞でお帰りをお待ちしております」
「では、戻ります。要塞は私達が死守します」
ビルス枢機卿とエリザベス卿は敬礼で俺達を見送り、俺は緩く上昇し、飛行を始めるとあっという間に法国の城壁を飛び越えた。
行く手には山脈が見えている。高度は上げない。3メートルくらいで地面効果を期待しながら幹線道路の上を飛ぶ。省エネだ。輸送部隊が見えたら高度を上げ、また下げるの繰り返しだ。応戦用に物資は幾らあっても足りないだろう。
「なあ、コールよ、話せないとは思うが、神聖王とはどんな話をしたんだ?」
『俺の魂を神聖王が引き取ると、ナニができてそれだけでエッチできるそうですよ!』
俺は核心をぼかして応えた。確かにこの世界の秘密という核心は隠したが、ある意味これが核心と言えなくもないな。
「そ、そうなのか。それは男と女を兼ねられるということか」
『ただ、概念がどうとか言っていたなあ。長くはいられなさそう』
「よくわからないな」
『あまり込み入った話もできずに、戻ってきましたからね。細かいところはビルス姉さんから話があると思いますよ』
他の男の復活だの、デーモン族の研究だのの話は、ビルス姉さんに任せたい。
「そうか。そうだな。だが、素直に要塞に戻れると言うことは、お前を秘匿する気はないということだな」
『あ、そうですね』
たぶん、ゲージを満たすためだ。ゲージを満たすためには『愛』を感じられるイベントが必要になるのだ。たぶん。それは激動の戦場でも生じるだろうが、法国で秘匿されたままではゲージが増えることはないに違いない。
「また供に戦えることを嬉しく思うぞ」
『俺もです。けど残念なことが一つ』
「そんなに私に抜いて欲しかったのか?」
俺は苦笑しつつ、うつ伏せになっているマリーさんのおっぱいの感触を背中に感じながら、そうですと応える。マリーさんからの供給のお陰で、巡航している分にはエネルギーについては何の問題もない。そして俺も効率よくスラスターを使う術を学びつつあったから、少しは最大速度も上がっているに違いない。自律機構も可変翼の使い方を学びつつある。可変翼って、もともと従神の身体にあった機構ではないことを改めて思う。俺が自分の世界から持ち込んだ概念なのだ。だから上手く飛べなかったのだ。
2時間ほどの飛行で要塞の管制圏に入った。当たり前だが、陸路より圧倒的に速い。管制からの情報によると、どうやら後方までブラックバードが強行偵察に来ているらしい。このまま邀撃に行こうか迷ったが、マリーさんは俺に2時間も神聖力の供給を続けていて疲弊し始めていたし、俺には他の考えもあった。なのでその作戦も含めてマリーさんと相談した上で、まずは要塞に戻るのを先決とした。
俺の遙か頭上の高高度を悠々と飛び去っていくブラックバードを見つつ、チクショウ、今に見てろよと内心言葉にし、俺は要塞の着陸ポートに降り立った。
ミーア大将閣下自らお出迎えくださり、恐悦至極だった。
「どうだった。法国は?」
「送れてビルス枢機卿が戻られます。ご報告はその折りにあるかと思います。我々からお話しできることはあまりありません」
マリーさんが俺のランドセルから這い出て降り立ち、俺に代わって応えてくれた。
「しかし、コールはブラックバードの攻略法を思いついたようです。私も検討しましたが、特に反対する理由はありません。許可をいただきたい」
そしてマリーさんはミーア大将閣下に圧縮記憶を渡した。
「なるほど。可能性はあるな。よかろう。メリッサに制作を取りかからせよう」
マリーさんと俺は頷いた。まずは怪鳥退治である。そうしなければ人類軍はろくに動けない。
この作戦が俺の正念場になりそうだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます