第41話 神聖王にぶっちゃける。否、ぶっちゃけられる
アニス神聖王とビルス枢機卿の2人だけになってからどれくらい経っただろう。それほど長い時間ではなかったはずだ。
ビルス枢機卿が神殿から出てきて、俺を呼んだ。
『従神コール。神聖王からお話があるそうだ。ついてきてくれ』
そうくるだろうと想像はしていた。俺はマリーさんとエリザベス卿の顔を見た。マリーさんは頷いて、俺の太もものあたりをバンと叩いた。エリザベス卿は心配そうに言った。
「君がショックを受ける話かもしれない。気を確かにな」
『ありがとうございます』
2人に送り出され、俺は再び神殿の奥の女神像の前に出る。祭壇の前に神聖王が降り立つ。
この広い神殿の中に、神聖王とビルス枢機卿そして俺1騎しかいない。中はしんと静まり返っている。
「従神コール、今までビルス枢機卿を守ってくれたことを感謝する」
ビルス姉さんは神聖王にそう言われてほのかに頬を赤く染めた。
『いやあんまり守っては。守ったと言うよりは力添えをしたというのが事実に近いと思いますよ』
「物言いがおかしいでしょう?」
ビルス枢機卿がクスクスと笑い、神聖王もつられて笑った。
「本当だ」
確かに2人は恋人同士なのだろう。そういう雰囲気がある。
「記憶がないのが残念だな。君がいたという異世界の話をいっぱい聞きたかったのにな」
『ふっと普通に思い出すんですけど、長続きしないんですよね。個人的なことはほとんど思い出せないし。あ、しのぶ姉ちゃんのことは除きます』
「しのぶ姉ちゃん?」
ビルス枢機卿が怪訝そうに聞く。そう。彼女にも話をしていなかったのだ。今、このときを想定して、話さずにいた。
『俺と同じ転生者です。そして俺は彼女のことを元いた世界でも知っていました。デーモン族はそういう、人間に異世界の人間の魂を呼ぶ実験をしていると言っていました。この世界のデーモン族であると同時に俺の世界から来た転生者で女神の器でもあると』
「いつ、そんな人物と会ったんだ?」
ビルス枢機卿が険しい顔をして俺に聞く。
『申し訳ない。ただ、これは陛下に直接お話をしたかったんです。話をしたのは、雪山でデーモン族の魔法戦士と一緒に落ちたときです」
「あのときか。あの魔法戦士か!」
「女神の器というのは、たぶん、陛下とビルス姉さんもそうなんでしょう。その人物に異世界の魂を下ろすというのは、何の意味があるのか。そしてデーモン族は何を目指しているのか。ヒト族も同じ実験をすべきだと言っていました』
「デーモン族は女性に男性機能をもたせようと実験を続けている。そのために輪廻システムも改造し、男性機能をもった者を誕生させた。だが、生殖能力はなく、一代限りの上、その個人の輪廻も途絶える」
今度はアニス神聖王が険しい顔をした。俺に向けた険しさでないので、今度はまあ良い。俺は素直に感想を述べた。
『そりゃヒト族と相容れないわ』
ということはデーモン族にはふたなりさんがいるってことだ。業が深いな。いやしかしだ。従神に動物の魂が入るとその魂に沿って可変するのだから、人間はどうなんだろう。失敗して蛇だの昆虫だのの魂が入った身体はそう変形するのか――本当にデーモン族なんだな。そう数は多くないんだろうけど、相対したとき驚かないようにしよう。
「女神の器に異世界の魂を定着させる実験の成否の鍵は、術者の魂のキャパシティだろう。従神のボディに魂を下ろせるように、女神の器になる人材ならば、対象が人でもそれが可能と言うことだ。デーモン族はお前と同じように男の魂を持った者を誕生させようとしているのかもしれない。それならば生殖能力も得られるし、一代限りではないということだろう。こちらではそのような研究はしていないから、想像だが」
ビルス枢機卿がアニス神聖王を見た。
「なるほど。試していることに道理はあるな。しかしそんなことができたら――」
「ということは私に男の魂を入れられれば、男性機能がついて、あなたとエッチすることも可能ってことですね! ディルド要らず!!」
急にアニス神聖王がはっちゃけて、俺の緊張感はどこかに消えてしまった。こんな人だったとは夢にも思わなかった。
「アニス……今はそういう話では……」
「でもでも、このコールくんの魂を私に移して、ビルスとあんなことやこんなことや~~きゃー!! 想像するだけでちょっともうよだれが……」
『こんな女性が聖職者のトップで大丈夫なんですか?』
「これでも優秀なんだよ。私よりずっと適性が高いんだ」
ビルス枢機卿もハアとため息をついた。
「やだなあ。本当にはしませんよ。想像、想像だけです。でも、コールくん、試してみたいと思わない? 男の子なんでしょ? こんな美女とくんずほぐれつとかしてみたくない? たぶん、できちゃうよ!」
『こんな美女って――ビルス姉さんですよねえ。そりゃ、もちろん』
「じゃ、じゃ、やってみようよ!」
「アニス! そんな話じゃなかっただろう!」
「しゅん……」
アニス神聖王はつんつんと両の人差し指をついた。古典的だなあ。
『それはありがたいお話なんですが、俺、初めての子は約束がありまして――』
「それは残念。どんな子?」
「エリカという私直属の部下です」
「あ、あの子? あの子、だってまだ1○歳じゃない! 犯罪よ、犯罪」
この世界でもエリカ嬢とやらかすとどうやら犯罪認定らしい。
「あ、でも話に聞くコアは見てみたいかな」
「それも後だろ! 話しただろ!」
「別にいいじゃない~ コアを撫でるくらい~~ 私ならきっとエネルギー弾も耐えるよ~~簡単~~」
つ、ついに脱童貞可能な人材に出会えた。超美人で神聖王でどうもエッチ好きらしいこの女性。しかしビルスがアニスをにらみつける。
「こ、この浮気者。目の前でそんなことを言うか!」
「やーねー、愛情確認だってば。実際はやらないし、コア、大きいんでしょ、私のじゃあ、ムリムリ。裂けちゃう」
ビルスは大きく頷く。よく知っているのだろうから説得力がある。
「その話はもういい。本題に移ろう。さあ、アニス。やるぞ」
「わかってますって。任せなさいって!」
アニス神聖王はどんと胸を叩き、ぼよよんと揺れる。見事なものだ。
『なにするの?』
俺の質問に2人はハモって答えた。
「女神に会いに行く!」
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