第40話 神聖王謁見
法国と要塞の距離、陸路で3日は近すぎると思う。俺の世界の高速道路なら1日の距離だ。しかも空中戦力があるこの世界、余裕で爆撃対象になると思うのだが、有効な迎撃システムでもあるのだろうか。
しかしソウルと38度線ほどは近くない。あのお国は首都をあんなところにおいておいていいんだろうか。まあ、漢帝国の帯方郡が置かれてからずっとあそこが都市だったのだから仕方がないのかもしれないが。諸説あり。
法国に近くなると戦争の気配が減り、田園地帯になる。主食が畑作ではなく水田だったのには驚きだった。米ではなさそうだ。生身の身体を得られないと食べられない俺としては気になるが、考えても仕方のないことである。
うん。米。食いたい。
予定通り3日後に法国の城壁内に入ったのだが、その頃にはけっこう寂しくなっていた。
「なんだ? エリカがいないのが寂しいのか?」
『ええっ! わかっちゃいますか?』
マリーさんがぼーっとトレーラーの荷台から空を眺めている俺に聞き、俺は思わず感嘆符付きで答えてしまった。
「エリカは元気だからな。私達も元気を貰っていたから、そうなるのも分かる」
ビルス姉さんが俺に同調してくれる。
『エリカ嬢が俺のことを好きでいてくれたことが、けっこうエネルギーになっていたんだなあと思います。離れて分かります』
こんな身体なのにエリカ嬢はグイグイきていた。俺を気遣ってというよりも仲間だからという意味合いが強かっただろう。あと独占欲もあったのかもしれない。嬉しい。
「そうだな。好きをぶつけられると戸惑うこともあるが、嬉しいよな」
ビルス姉さんが遠い目をする。そうだった。ビルス姉さんは恋人に会いに行くのだ。もう会えないはずだった恋人に。今も思いはあるのだろう。
『でもさ、エリザベス卿から事情は教えて貰ったんだけど、マリーさんとエリカ嬢、よくビルス姉さんが同行させたね』
「ああ。エリカの隠蔽魔法があったから、2人だけなら余裕で逃げられたはずだからな。以前もエリカは威力偵察をマリーと2人でやっているんだ」
『なるほど』
「さすがに3人で隠蔽魔法は難しかったし、今回はお前の身体に魂を入れる召喚の儀をやったから。敵地でそれはさすがに無謀すぎた」
『結果オーライってことで。お陰で俺、ここにいるし』
「お陰って言ってくれるのか。何の縁も理由もなく、召喚されたのに」
ビルス姉さんが意外そうな顔をする。
『俺、結構、楽しくやってますよ――ああ、エリカ嬢に会いたくなったな』
「そこに戻るか。私もいるのに」
マリーさんが意地悪そうな顔をする。
「あとで抜いてやろうか?」
『それは楽しみですね』
「エリカには内緒にしておいてやろう」
マリーさんが抜いてくれるのは嬉しい。パイズリでもしてもらおう。フェラでもしたら顎が外れそうな大きさだからそれは諦めよう。
城壁の中に入って、トレーラーを置き、複雑に建設された石造りの建物が林立する中を俺と謁見団は歩いて進む。
時折、広い公園と噴水があるのがデフォルトのようで、なんとなくバチカン市国もこんな感じなのかなあと思う。ろくに調べた記憶もないからよくわからんが。
そして中心部までいくと広い通りを歩いて行く。軍隊が行進して謁見式を行えるような広い通りで、それが今までで1番広い広場に至り、いかにも神殿という建物の中に入っていく。天井が高く、柱が林立しているが、人間サイズを遙かに超えている従神のボディでも中に入れる大きさの建物だった。
30メートルほども進むと、祭壇があり、巨大な女神像が祀られていた。
うん。この顔、知ってる。俺が知ってるわけじゃないけど。自律機構が知っているって言ってる。そうか、お前、さすがに従神だなと声をかけると自律機構がうんうんと感慨深げに頷いた。自律機構、お前、俺の影響を受けすぎだと思うぞ。すると日々学習しているんだから当然だ、と返ってきた。うーん。俺もお前だし、お前も俺だ。仲良くやりたいものである。
女神像の前に、
彼女はなにやら短い時間でもできる儀礼を行っているようで、それが終わると俺達に目を向けた。
エリザベス卿が簡単に挨拶をし、近況を説明した後、ビルス枢機卿が挨拶をした。
アニス神聖王は美しい女性だった。薄紫色の長い髪に、白磁のような肌。手脚は長く、ただ、必要な筋肉はついている。この身体とビルス姉さんが交わったかと思うとそれだけで興奮してしまうのだが、自分でも下衆だなあと思う。
「ご苦労でした。申し訳ありませんが、ビルス枢機卿から報告を直接受けたいので、皆は下がっていただけますか」
声も美しい。CVは藩惠子さんに違いないといったところだ。
無理もないのだが、エリザベス卿はとても苦い顔をする。こんなに露骨に思慕の表情を浮かべる神聖王を見るのはさぞ胃が痛いだろう。お気の毒すぎる。この先どうもっていくか先が見えないにもほどがある。
俺たちは神殿から出て、2人の話が終わるのを待つことになった。
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