第3話 当たり前だが、尻もまた尊し

 ヒト族の神聖魔法戦士のスリーマンセル、ビルス姉さん、マリーさん、エリカ嬢の3人を乗せ、俺はエアスクーターにチェンジし、古代遺跡である女神の神殿の地下通路を疾走する。顔の部分がフロントに向き、目がフロントライトになる辺りはかなりレトロな変形だ。自分を視覚内で俯瞰視もできるのが、面白い。


 正面は突き当たりでT字になっていた。背後から追跡者の気配がする。魔力センサーが視覚内に現れ、6時方向に赤い点が点滅する。敵性体の表示らしい。


「しつこい!」


 マリーさんが俺のハンドルを強く握り、スロットルを空ける。速度は出るが、正面はT字だ。曲がりきれないことは明らかだ。


 しかしビルス姉さんがおっぱいの前に神聖力の固まりを作って正面に投げるとレールのようなモノができ、それに沿って滑るようにして俺は曲がれた。


「姉様、ナイス」


 マリーさんは声を上げるが、追っ手はもう角まで来ている。


「身体強化型か」


 ビルス姉さんが振り返る。後部のカメラで俺も見る。追っ手はやはり女魔法戦士だった。


 黒装束に軽装のチェーンメイルで、ビルス姉さんたちのように胸は大きく開いていない。それどころかチェーンメイルに不釣り合いなほど、明らかに強固な胸当てを装備している。追っ手の女魔法戦士は正面の壁を蹴って方向転換すると爆発的な加速で俺たちに迫ってきた。


「厳しいな」


 こっちには3人乗っている。乗せているのが1人ならともかく重い。追いつかれそうだ。しかしあの加速は魔法的なものだ。再加速するのが確認できた。尻から強力な魔力が放たれ、瞬時に移動しているようだ。


 デーモン族は尻から魔法を放つ。魔力を放つ方向をさほど偏向させずに済むこのような使い方は効率がいいに違いなかった。


「姉様! 正面、断崖です。このモードでは飛べません!!」


 ちっぱいのエリカ嬢がビルス姉さんに警告する。やはり彼女は探査特化型の神聖魔法戦士らしい。


「1人のうちに叩く!」


 ビルス姉さんが飛び降り、剣を抜き、突撃してくるデーモン族の女魔法戦士と剣を交える。


 マリーさんは俺を人型に戻し、エリカ嬢と一緒に俺の背後に隠れた。


『俺に出来ることはあるか?』


「盾になってくれればいい」


『ラーサ』


 マリーさんの指令に俺は足のスタンスを広く取り、両手をハの字に構える。


 ビルス姉さんはデーモン族の女魔法戦士の剣を押し返し、距離を取った。しかし女魔法戦士は刹那でその間を詰める。話に聞く縮地だ。ビルス姉さんはまた女魔法戦士の剣を受ける。


 俺の目には女魔法戦士が尻から噴き出る魔力の放出だけでその俊敏な動きを見せているのだとわかる。普通ならビルス姉さんは受けることができず、後方に吹き飛ばされるほどの突進力がある。しかしビルス姉さんが受けきれるのは巨大なおっぱいから放たれる絶対防衛圏とでもいうべき神聖力の加護によるものだ。


 しかし俺にとってはそんな魔法のやりとりは本当にどうでもいい。


 ただただ、どうやって女魔法戦士が尻から魔力を放出しているのか確かめたかった。もし神聖魔法戦士のおっぱいのように、美しくも柔らかく、かつ、優美に円弧を描いているそれを露わにしているのなら、それを拝みたいのが男というものだ。


『ムン!』


 俺はつばぜり合いをしているビルスと女魔法戦士の後方に飛び出した。


「なんで勝手に出るんだ!」


 マリーが留めようとするが、俺の心は既に尻にある。


 超高速でホバーリングし、回避行動をとり、俺は女魔法戦士の背後に回り込めた。


「小癪な!」


 女魔法戦士が美しい顔を俺に向けるが、尻はこっちを向いたままだ。


 正面から見ると強固な部分鎧とチェーンメイルの屈強な戦士なのに、背後は――正確には尻周りは――肌を露わにしていた。


 形のいい尻である。


 筋肉質なのは戦士故に当然だが、女性らしい脂肪が豊かに乗り、それでありながら張りがあり、ぷっくりと上を向いている美しい尻だ。こんな美しい尻を俺は今までの人生で見たことがないと断言できる。記憶はないのだが、断言していいだろう。うん。


『う、美しい!! 世紀の尻だ! 国宝級のヒップだ!』


 俺が思わずそう口走ると、女魔法戦士は頬を赤く染めた。


「お、お前、何を言い出すんだ!」


「隙あり!!」


 ビルスが剣を横薙ぎにし、打撃を与えた。しかし神聖力が乗らないそれはタダの打撃で、ダメージは鎧に吸収され、女魔法戦士は大きく尻ぞいた。いや、退いた。

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