第4話 美人は敵に回さない主義です
そして魔法戦士は俺の方に目を向けた。
分かっていたことだが、かなりの美人だった。いや、美人というだけであれば俺を召喚した神聖魔法戦士の3人もかなりのものだ。記憶が無いのにそんなことを考えるのもおかしな話だが、美的感覚は残っているのだろう。
しかしそれにしても魔法戦士は俺の好みど真ん中だ。ちょっと吊り目気味ですっとした頬、ほっそりとした顎、形のいい唇。
あれ、俺、絶対この顔知っているぞ。
そう思った途端、瞬時に魔法戦士が俺の間合いに入ってきて、剣を突き刺してきた。突き刺してきただけではない。切っ先から魔力が流れてきて、射程がぐんと伸びた。ヒップからしか魔力を出せないハンデがある分、デーモン族は己の身体を媒体にした魔法に特化しているのだろうか。
この間、瞬き1回分くらいの時間。
俺はその魔力の切っ先をもろに胸の装甲で受け、よろめいた。そして自動的に俺の身体は応戦モードに入ったのか、両の籠手から長くて鋭い刃が突き出し、腕を前に向け、それをクロスさせて防御姿勢を取った。
「コール! 応戦しろ!!」
背後からマリーさんが叫び、魔法弾を撃って魔法戦士を牽制してくれる。しかし俺の心は決まっていた。
「コール、命令だ! お前も援護しろ!」
ビルス姉さんが俺の背後から魔法戦士に斬りかかろうとするが、俺は足を伸ばして彼女を転ばせる。
魔法戦士はあっけにとられて言った。
「なんだ、この従神。魔力で起動しなかったのに、神聖力で起動したらしたで、術士に従わないだと?」
『知るか。俺は女に手を出さない主義なんだ。時代錯誤と言われようと、俺は俺の男の道を貫く!!』
そう言い放つと、女魔法戦士も神聖魔法戦士の3人も凍り付いた。
「お前、男なのか!?」
ビルスがようやく立ち上がり、俺を見上げた。
『男だ。いや、そう言うからにはそういうことらしい! 記憶は無いが!!』
俺は胸を張る。
「男の魂の召喚に成功しただと!」
女魔法戦士は驚愕し、身構えながらビルスが応える。
「異界の魂を召喚したらしいのでな。なるほど。僥倖。これはこの従神を持ち帰らねばならん! 戦争の趨勢を左右するかもしれん!」
「させるか!! そもそも我らの領土に埋もれていた従神ぞ!」
魔法戦士は後方の様子を窺う。どうやら残る2人のスリーマンセルのメンバーも近くまで来ているようだ。
「コール、お前が男ならおっぱいは大好きだよな!!」
ビルス姉さんはコールの腕に抱きつき、大きな胸を押しつけ、神聖力を直接伝える。それは力になるのが分かっているが、そのエネルギーのやり場に困ることになることも俺は理解しつつある。
「従神、お前が男ならお尻が大好きだよな!」
そして背後から仲間が近くまで来ていることを確認したからか、女魔法戦士は背を向け、尻を俺に見せた。Tバックスタイルの素晴らしい尻だ。敢えて言うなら寺沢武一のヒロイン級の尻である。
なんだ、俺、どうしてそんな名前を知っててしかも喩えているんだ?
よく分からないが、それは真実だと思う。
「そんなん両方好きに決まっとるだろうが!」
俺が叫んでいる最中に後方から声が響いてきた。
「ユーレン! 無事か!」
「ああ!」
ついに女魔法戦士の仲間が到着した。やはり重装備の剣士なのは、身体強化系の魔法が主だからなのだろう。そして魔法戦士の名前が分かった。ユーレンというのか。聞き慣れないが、良い名前のような気がする。
「エリカ! ルートは?!」
「把握しました! 姉様!」
ちっぱいエリカ嬢がおっぱいの前に二次元映像のMAPを出す。
「コール、無理に戦わなくてもいい。脱出に手を貸してはくれまいか?」
ビルス姉さんが上目遣いで言った。
男は美人の上目遣いに弱い。それは古今東西変わらない、異世界に行ったとしても変わらない多重世界における真理に違いない。
俺は瞬時に半スクーターモードに変形して、ビルスを背に座らせ、腕を出したままマリーさんとエリカ嬢を右と左の手で抱え、脚で床にジェット噴射してホバーリングしながら離脱に入る。
「逃がすか!」
ユーレンの僚友2人がユーレンを腕力で放り投げ、ユーレンもまた自らの魔力で加速し、俺を追ってきた。
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