第30話 防衛、それはガード
西に向かったコクザンは市民の避難誘導に精を出していた。
「皆さん! 冒険者ギルドの地下に向かってください! 現在王都は危険です!」
などと言っていると、視界の端に映る家が1つ崩落した。巻き込まれた市民はいないようだが……。
「グッヒッヒ、冒険者のガキを見つけたぜ」
「ちょうどいい。無抵抗な市民を痛ぶるのにも飽きてきたところだ……」
そこから現れたのは3体のゴブリン。そのうち1体は非常に筋肉質で体が大きい。
「グレーターゴブリンか……」
コクザンは忌々しげに吐き捨てた。グレーターゴブリンはゴブリンの上位種。ランクこそ普通のゴブリンと同じAランクだが、他のゴブリンを指揮する能力を持っていたりと、厄介だ。
「やっちまえ、お前ら!」
「「けひゃあーッ!」」
などと考えていると、ゴブリンが2体襲いかかってくる。動きは俊敏かつ、小刻みに揺れながら突進してきているため、反撃で致命傷を狙うのは難しい。曲がりなりにも人間と同等の知能を持つモンスターということだろう。だが……。
「〈剣技・居合〉!」
コクザンは目にも止まらぬ抜刀でゴブリンを迎撃した。まさに音速の剣。この技は戦士ギルドで習ったものであった。
「けひゃあ! 軽い軽い!」
「効かないでゴブねぇ」
だが効果は薄いようだ。それもそのはず、〈剣技・居合〉はスピード特化の剣技。スピードは重さ、とはよく言うが、威力より速さを重視した技であるため、あまり破壊力はないのだ。
「しかし妙でゴブね。斬られたというより殴られたような感覚だったでゴブ」
「お前ら! 何を手こずっていやがる! ガキ1人始末できねぇのか!」
背後からグレーターゴブリンの怒号が飛んでくる。ゴブリンどもは思わずビクつき、体を硬直させた。その一瞬の隙を見逃さず、コクザンは動いた。
「エンブレム!」
天高く掲げたエンブレム。それが光を放ち、人ほどの大きさもある鉛筆が姿を現す。
「ピツ山だピツ!」
「ピツ山、戦闘だ!」
「分かったピツ! 〈ブレイズン〉!」
ピツ山は芯の先から地獄の炎を繰り出す。それがゴブリンの1体に命中。だがゴブリンはギリギリ魔術でガードした。
「な、なんだこいつ!?」
「高威力のスキルでゴブね。先にこいつを片付けるゴブ」
だがコクザンがそれを許さない。近づいてきたゴブリンに向かって〈
「ぐっ……! だが我が防護魔術の前には無力ゴブ!」
「ピツ山! そっちのゴブリンは頼む!」
「合点だピツ!」
ピツ山は自分の体を剣のようにして、ゴブリンをなぎ払う。だがゴブリンも数メートル後退しただけで踏みとどまり、反撃の魔術を発動。ピツ山を無属性の追尾弾が襲う。
一方コクザンはもう片方のゴブリンのこん棒を避けつつ、応戦をしていた。だがゴブリンは隙をついてコクザンの腹に蹴りを入れる。強烈な一撃に思わず血反吐を吐いた。だが……!
「〈剣技・待ち伏せ〉!」
コクザンはスッとその場でしゃがみこんだ。それを隙と見たのか、ゴブリンはこん棒を振りかざし、コクザンの頭に振り下ろそうとする。
「待てゴブ郎! その技は!」
グレーターゴブリンの声が届くことはなかった。なぜなら、振り下ろされたこん棒がコクザンの頭部に命中する寸前。ゴブ郎と呼ばれたゴブリンの喉から鮮血が迸ったからだ。
「ゴ……!」
「〈剣技・待ち伏せ〉はカウンター型の剣技だ。冥土の土産に教えてやる」
コクザンは容赦なく、ゴブリンの頭に再度〈
「ゴブ郎ーッ!」
「さて、次は……」
コクザンはグレーターゴブリンのことなど目にもくれず、ピツ山の戦闘に加わる。ピツ山は意外にもゴブリンと善戦していた。だがゴブリンの厄介な防護魔術を破れずにいるようだ。
「ピツ山! 呼吸を合わせろ!」
コクザンはゴブリンの足に斬撃を叩き込む。ゴブリンはそれを回避するが、避けた先にピツ山の炎が待っていた。直撃。だが防護魔術によって効果は半減されているようだ。ならば、とコクザンはゴブリンに掴みかかった。
「ぐっ……!」
「人間ごときがゴブリンに力で勝てるわけないだろ!」
だがコクザンの狙いはゴブリンの拘束ではない。そのまま服を掴み、足を刈った。浮いたゴブリンの体を自身の体で支えるようにし、そのまま背負い投げを繰り出した。
「バカなッ……!?」
「隙ありだ! 〈剣技・居合〉!」
地面に投げ出されたゴブリンの喉元を切り裂く。防護魔術を貫通し、致命傷になった。さらに追い討ちをかけるようにピツ山の炎がゴブリンを焼いた。
「き、貴様らァ! 許さないぞ、よくも仲間達を……!」
「そうかっかするなよ。カルネアデスの板、だろ?」
「ほざけェーッ!」
グレーターゴブリンは怒り狂い、巨大な拳をコクザンに振るう。予想以上の速さ。回避が不可能だと判断したコクザンは咄嗟に剣で防御の姿勢を取る。
「ぐがっ……!?」
だがあまりにも高威力。コクザンはぶっ飛ばされ家屋の壁にのめり込んだ。またその際、肋骨が何本か折れてしまった。
「コクザン!」
「次は貴様だ!」
「くっ……!」
グレーターゴブリンはピツ山に襲いかかる。ピツ山は細い体を活かし回避に専念。だが避けきれない。もうダメかと思われた矢先、突然グレーターゴブリンの拳に亀裂が走った。
「な、なんだと!?」
「お前が殴る直前、〈剣技・待ち伏せ〉を使っておいた。もう少し遅かったらヤバかったな」
コクザンは血の痰を吐き捨てながらそう言った。骨折はしているがまだまだ元気そうだ。
「にしてもヤバいな。俺のシルバーソードじゃ威力不足だ。そもそもこれ木刀に銀箔つけただけだしな」
「ふん、ふざけた小僧だ。せめて鉄剣でもあれば話は別だったかもしれんのになぁ!」
グレーターゴブリンは切り裂かれた拳に気にしながら、コクザンを睨みつけた。対するコクザンは周りにちょうどいい武器が落ちていないか探す。だがそう都合よく武器は落ちていないようだ。
「カアアアッ!」
その一瞬の隙を見て、グレーターゴブリンは再びグーパンをコクザンに振るう。だがそれを遮ったのはピツ山の獄炎。
「貴様!」
「コクザンは殴らせないピツ!」
「ナイスだピツ山。武器がないなら作ればいい」
そう言ってコクザンは無数の〈
「〈
「な、なんだそれは!?」
コクザンが作ったのは魔法でできたガトリングガン。普通、魔法で何かを形作るのは非常に難しく、魔力を大量に消費するのだが、コクザンはそれをいとも容易くやってのけた。
「だがそんなちんけな武器で俺を倒せると思うなよォ――!」
吠えるグレーターゴブリンの攻撃を躱し、コクザンは〈
「発射」
ド派手な音を撒き散らせながらガトリングガンから無数の〈
「ぐっ……があああああ! バカな! こんな小わっぱに俺が、グレーターゴブリンの俺が負けるわけが……!」
「いいや、負けるね。恨むならお前の力不足を恨みな」
グレーターゴブリンも10秒ほど抵抗したが、防護魔術は簡単に砕け散ってしまった。ガラスの割れたような幻想的な音は、ガトリングガンの射撃音にかき消された。
「ふう、勝ったな」
ガトリングガンの音が止まった時、そこにあったのは頭部をハチの巣にされたグレーターゴブリンの死体。返り血を拭いながら、コクザンは周囲を見渡して深呼吸をした。
「うわ、血生臭ッ!」
こうして、西区はコクザンの活躍もあり、住民の避難がいち早く終わった。だが、王都の防衛戦は始まったばかりだ。
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