第28話 そうしたなら

 という感じで、ヒラタパーティーは決勝戦まで危なげなくコマを進めた。


「なんか……最初のヤツ以外は大したことないな……」


「言うな。オオヤマやメアリーでも平均よりは上なんだ。それに俺達が付いてるんだから、こうなるのも当然だ」


 初戦以降、オオヤマもメアリーも獅子奮迅の活躍を見せている。ヒラタとコクザンが出る幕もなかったほどだ。だが、ヒラタには少し気になることがあった。


「そういや、メアリーってなんでスキル使わないの?」


 トーナメント戦の最中、メアリーは一度もスキルを使っていなかったのだ。この世界の全ての人間にはスキルがある。もちろん全てが戦闘向きのスキルというわけではないから、アタリハズレもあるのだが……。


「私のスキルはあんまり戦闘じゃ使えないのよね」


「使えないって言うと?」


「果物を出せるスキルなの」


 メアリーのスキル、〈果物生成〉は果物を生成するスキルである。日常生活であれば重宝するだろうが、少なくとも戦闘向きではない。


「えっ!? めっちゃ強いじゃん! みかん出してくれよ」


「み……かん……? なにそれ。私、知ってる果物じゃないと出せないのよ」


「なるほど。異世界の果物しか出せないのでごわすね。ちなみにどういう果物なら出せるでごわす?」


「えーと、スーイーカとか?」


「スイカか。スイカもいいな。他には?」


「メーロンとか?」


「メロンか。甘くて美味いよな」


 などと会話していると、コクザンが口を挟んでくる。


「メーロンを出せるのか? とんでもないスキルだな。メーロンと言えば1つ金貨10枚は下らない高級果物じゃないか。確か栽培技術が確立されてないから危険地帯に自生しているものを取りに行くしか、手に入れる方法はないとされていたはずだ」


「まじ!? メアリーお前、商売人になった方がいいぞ!」


「それだけじゃない。メーロンは管理も難しいんだ。メーロンの出す甘い香りはアマトリバエってモンスターを引き寄せてしまうからな。屋外に放置していると5分で食い尽くされる」


「アマトリバエなら俺も知ってるぜ。普通の昆虫なんだけど、人間を噛みちぎるくらいアゴが強いからEランクモンスターに認定される奴だな。普段は温厚なんだが、大好物のメーロンに匂いを嗅ぐと一気に凶暴化するんだぜ」


 メアリーはそれをほへぇ~といった表情で聞いていた。どうやらメーロンについてあまり詳しくなかったようだ。


「つうか、ひょっとしてメアリーのスキルってさ、知識さえあれば見たことないヤツでも出せるんじゃないのか? 試しにパイナップル出してみてよ。黄色くてボコボコしてて、葉っぱがあって、皮は耐熱材にもなるくらい燃えにくいんだ」


 ヒラタはパイナップルの絵を描いてメアリーに見せた。メアリーは1分ほど観察した後、両手を床にかざした。


「〈パイナップル〉」


 するとまるで最初からそこにあったかのように、何の前触れもなくパイナップルが出現する。ただ、大きさが人間と同じくらいある。


「さすがにデカイな。でもこれなら他のも出せそう……。次はイガグリを出してみてくれ」


「イガグリが果物じゃないでごわすが……」


 ヒラタは次にイガグリの絵を描いてメアリーに渡した。


「〈イガグリ〉」


「おお! マジで出た! それ当たったら痛いから戦闘でも使えるぜ」


「なんで果物以外も出せるんでごわすか……」


 メアリーはトゲトゲのイガグリをブンブンと振り回す。どうやら、彼女の〈果物生成〉は、本人が果物だと思っているものなら何でも出せるらしい。


「よし、だったら次は……」


 というところでアナウンスが鳴った。


「続いての試合です。ヒラタさんパーティーとカレキさんパーティーは5分以内にお越しください」


 4人は顔を見合わせた。


「決勝戦、カレキのパーティーとかよ」


「勝ち上がってきたでごわすね」


「アイツも油断ならないからな。気を引き締めていくぞ」


「そういえばこの果物達、どうしよう……」


 などと会話をしながら4人は闘技場へ向かう。一行がその場に着いた時、既に相手のパーティーは準備万端で待ち構えていた。


「決勝戦まで来るとは思わなかったよ、カレキ」


「そう? 私はなんとなくこうなる気がしていたわ」


 カレキは配下の男達に指示を出し、隊列を整えた。ヒラタ達も臨戦態勢に入る。


「いよいよトーナメントも最終試合ザンス! 勝利するのはどちらのパーティーか、目が離せないザンス! さぁいよいよ試合開始のゴングを鳴らすザンスよぉー!」


 こうして最終試合が始まった!


 □■□■


 3分後。


「ぐえー」


「うわー」


「どっひゃあー」


「カレキパーティー3人ダウンザンス!」


「よ、弱えええええ!?」


 カレキの配下の男達はびっくりするほど弱かった!


「カレキ、お前見る目ないよ」


「くっ……、やっぱり顔だけで選んだのがまずかったかしら……?」


 ヒラタパーティーの4人はかすり傷ひとつない。4vs1……これは楽に勝てそうだ。


「〈ガード〉ごわす! このまま場外に押し出してやるでごわすよ!」


「仕方ないから私も戦うわ」


 オオヤマはスキルで半透明の壁を生成。それをじりじりとカレキの方に押しやり、場外に運ぼうとする。対してカレキは小さな拳を大きく振りかぶり……。


「ふっ!」


 防壁に叩きつけた。腰の入っていない、まさに素人の殴り。だがオオヤマの巨大な防壁に一瞬でヒビが入り、かと思うとガラスのように割れてしまった。


「バカな!? おいどんの無敵の防壁が!」


「遅いわ」


 そのままオオヤマの腹に強烈な一撃。オオヤマは衝撃によって一瞬で場外までぶっ飛ばされた。


「ちょっと待て、思ったよりヤバいぞカレキの奴」


「クソッ、3人がかりで止めるぞ!」


 ヒラタ、コクザン、メアリーの3人が飛びかかる。カレキはそれを華麗に回避し、メアリーに目をつけた。


「喰らいなさい。私の53の殺人技の1つ……」


「知らない間にちょっと増えてる!?」


 カレキはメアリーの腕を掴み、そのまま関節技を掛けようと――。


「た、大変だァーッ!」


 したところで、闘技場の中に声が響いた。


「敵襲! 敵襲ー! 王都に敵が攻めてきたぞ!」


「な、なんだ? 何が起きてんだ?」


 ヒラタ達は戦闘をやめ、観客席で騒ぐ男に注目した。


「王都にゴブリンが攻めてきたんだ! 既に東西南北4つの門で、防衛戦が始まっている!」


 どよめきが辺りを包んだ。さらにそこに油を注ぐようにアナウンスが鳴る。セザンスの声だ。


「ただいま冒険者ギルド本部から連絡があったザンス! 現在王都はゴブリンに包囲されているザンスよ!」


 セザンスはいつもより焦りを孕んだ声色で続ける。


「既に王都内に侵入したゴブリンもいるようザンス! トーナメントは中止、この場の全冒険者に通達ザンス。Bランク以上の冒険者は門にて防衛戦に参加、Cランク以下の冒険者は市民の避難誘導及び王都内のゴブリンを掃討するザンス!」


 もはやトーナメントどころの騒ぎではないらしい。王都への敵襲など前代未聞。裏王都の輩でもこんな派手なことはしてこなかった。いったい、どうしてこのタイミングでゴブリンの軍勢が? その答えは幸か不幸か、すぐに明かされることになる。


「ッ! 離れろ!」


 円形闘技場の中心。ヒラタは叫んだ。即座にコクザン、メアリー、カレキが気絶している者達と一緒に飛び退く。するとそこに、次元の穴としか形容できない謎の穴が開き、そこからローブを被った細身の男が姿を現す。灰色がかった髪の毛を長く生やしており、その肌は人間とは思えないほど乾燥しており、まるで老人のよう。だが顔つきは青年といった風で、手足が極端に長く、また肉体のバランスを無視したような痩せ方をしていた。


「こ……こいつはまさか……」


 ヒラタはこの人物に、見覚えがなかった。だが分かる。肌で、空気で、臭いで、気配で、雰囲気で。一度会敵しているからこそ、ヒラタはこの男が何者か分かってしまった。


「魔王……!」


 王都に、魔王が現れた。ゴブリン襲撃と全く同じタイミングに。それが意味することはただ1つ。魔王とゴブリンが手を組んだということだ。


 こうして物語は激化する。王都を懸けた防衛戦が今、火蓋を切られた。

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