第24話 パーティーはまさにもつ鍋
ボス部屋を突破したヒラタはその後、順調にダンジョンを進んでいった。罠を回避し、モンスターを倒し、謎を解く。ダンジョンの難易度は低めに設定されていたようで、ヒラタは1人でも特に苦戦することなくゴールまでたどり着いた。
「あれがゴールか。試験も意外と簡単だったな」
『ゴール』と書かれた扉を前にして、ヒラタは思わずそう零した。最初のクイズが一番難しかったくらいだ。
「まぁ、仕方ないよなぁ。俺って結構強いし。このままBランク推薦もゲットしてやるかぁ」
ヒラタは扉を開けた。眩しい光が入り込んできて、思わず目が眩む。次に感じたのは、声。たくさんの人の大歓声。ヒラタはゆっくりと目を開いた。
「コ、コロシアム……?」
そこは円形闘技場であった。この施設自体はヒラタも知っている。よく冒険者同士の練習試合なんかに使われているからだ。だが、まさかダンジョンからこんなところに繋がるとは思わなかった。
「おおっとー、今しがた最後のクリア者が現れたザンスー!」
再び会場がワッと沸く。響いた声はセザンスのもの。ヒラタが目を白黒させていると、コクザン達が声を掛けてきた。
「ヒラタ、遅かったな。脱落したのかと思ったぞ」
「そうでごわすよ。ヒヤヒヤしながら待ってたでごわす」
「この試験、クリアできる人間の数が最初から決まっていて、遅い人は脱落になる仕組みらしいわ。あなたギリギリだったわよ」
なんということだ。ヒラタは随分なノロマだったらしい。一番最後のクリア者になってしまうとは情けない。後少し遅れていたら、彼は脱落になっていたことだろう。
「マジか。間に合ってよかったー」
「というわけで、今回のCランク冒険者選抜試験は終了! 合格者は現在この場にいる全員ザンス!」
辺りを見渡すと、冒険者の数は最初の半分くらいしかいないように見える。皆嬉しそうな表情をしているが、中には目をギラつかせて歯をむき出しにしている者もいる。
「さて、さてさて。ここまではまぁちょっとした余興ザンスよ。皆さんのお待ちかねはこちら! Bランク推薦を賭けたトーナメントザンス!」
円形闘技場の客席にはたくさんの観客がいた。そのほとんどは冒険者で、中には商人や貴族。その他役員だったり教会関係者もいる。
「このトーナメントはBランク推薦を奪い合うと同時に、期待のルーキー誕生を祝福する目的もあるザンス。上位に行けば行くほど優秀な冒険者パーティーから声が掛かったり、仕事が貰えたりするザンスよ」
「なるほど。そういうのもあるのか」
「というわけでさっそく、期待のルーキー達は即席のパーティーを組むザンス。4人1組ザンスよ。あ、もしコミュ力が皆無で誰にも話しかけられずパーティーを組めなかった場合、その時点でトーナメントには出れず失格扱いになるザンス」
異世界でもコミュ力は求められるようだ。なんと世知辛い。だが今回、ヒラタには愉快な仲間達がいる。
「よし、コクザン! パーティー組もうぜ。お前の剣技と遠距離攻撃も可能なスキルがあれば敵ナシだ!」
「あぁ。よろしく頼むぜ、ヒラタ」
まずヒラタはコクザンを仲間に引き入れた。テイマーであり、剣士であり、スキルの性質もよく似ている彼らは随分仲がいい。すぐにパーティー結成となった。
「次にオオヤマ! お前のガードスキルは正直厄介で、他パーティーに持ってかれたら面倒だ。パーティー組もうぜ!」
「もちろんでごわすよ。ここまで来た仲でごわす」
次にオオヤマも引き入れた。彼は力が強く、それでいてガードスキルも使える。動きは鈍重だが、ヒラタとコクザンならその弱点も補えるだろう。
「そして最後に……カレキ!」
「何かしら?」
「お前はなんかよく分からんけど強い! パーティーに入ってくれ」
ヒラタの熱烈なアプローチに、カレキは口元を歪ませた。もちろん承諾してくれるだろう。ヒラタはそう思っていたのだが、その希望は打ち砕かれた。
「悪いわね。もうパーティーは組んでしまったの」
「何ィ!?」
カレキはパンパンと手を打ち鳴らす。すると横から3人の男達がシュバッと現れ、彼女に片膝を着いて頭を垂れた。
「紹介するわ。試験の最中に見つけた、私の夫1号2号3号よ。名前は忘れたわ」
「マジかよこいつ! 試験中に男引っ掛けてやがった!」
外面だけ見ればカレキは美少女。そんな彼女に言い寄られたら、並の男はコロッといってしまうだろう。事実、彼女に頭を下げる男達もどこか熱に浮かされたような表情をしていた。
「「「我々はカレキ様に忠誠を誓います!」」」
「そういうことだから。あなた達はあなた達で頑張って。じゃ」
そう言うとカレキ達は行ってしまった。血も涙もない奴である。同じ日本人としての絆はないのか。
「クッソー、アイツ調子乗ってやがる。人を奴隷みたいに扱いやがって」
「とはいえ厄介だな。カレキは意外と強いぞ。Aランクモンスター相手に関節技を繰り出せるくらいだからな」
「で、でもどうするでごわす? 4人いないと失格になっちゃうでごわすよ」
周りではもう粗方パーティーが出来上がっている様子。早く最後の1人を見つけないと、ヒラタ達は人数不足で失格になってしまう。
「誰か、誰か声を掛けられそうな奴は……あっ!」
ヒラタは辺りを見渡し、見知った人物を発見する。そういえば、彼女もDランク冒険者になっていたのだ。試験に参加していてもおかしくはない。ヒラタは未だパーティーが組めずオロオロしているその人に、声を掛けに行った。
「よっ、メアリー。元気?」
「あら! ヒラタじゃない! あんたも参加してたのね」
金髪の女騎士風の少女、メアリーはヒラタを発見した途端に顔を輝かせた。ちょうど彼女もパーティーメンバーを探していたのだ。
「お前、今1人だったりする?」
「え、えぇ……ちょうどたまたま偶然、まだパーティーは組んでないわ。本当よ」
嘘である。メアリーはコミュ障ではないのだが、彼女が貴族の娘であることは皆知っているため、誰も彼女とパーティーを組もうとしないのだ。メアリーが1人なのはちょうどでもたまたまでも、偶然でもない。このままヒラタが声を掛けなければ彼女は失格になっていただろう。
「そいつは運がいい。実は俺達のパーティーに1人足りなくてさ。よかったら入ってくんない? お前わりと戦える方だろ」
「……! し、仕方ないわね! そんなに私の力が必要なら、パーティーに入ってあげてもいいわよ!」
メアリーはCランクモンスターのオークと対等に戦えるくらいの実力を持つ。ヒラタにとってはそこら辺の野良冒険者よりよっぽど信頼できる相手だ。また、メアリーもヒラタに対しては一応恩があるため、信頼できる。つまりこれはWin-Winの関係というヤツだ。
「やったぜ! これでパーティーが4人揃った!」
「時間切れザンス~! メンバーが集まったパーティーは受付の方にて手続きをしてほしいザンス。メンバーを集められなかった人達は回れ右して帰るザンス。Cランクライセンス発行は後日になるザンスよ~」
こうして、ヒラタ、コクザン、オオヤマ、メアリーのパーティーが完成した。一行は受付にて手続きを済ませ、指定された控え室に向かい、しばしの休憩を取る。だが真の戦いはここから始まるのだ。裏切ったカレキを始め、強力な冒険者達がたくさんいることだろう。
「でもまぁ、あんまり気張らず行こうぜ。お前らの実力をちゃんと発揮できれば勝てるはずだ」
「フッ、そうだな。よろしく頼むぞ」
「そうでごわすねー。ところで、この金髪の女性もひょっとして日本人でごわすか?」
「いんや、メアリーは違うんだ。まぁなんやかんやあって知り合ったんだが……その話はまたいつかしてやるよ」
そんな話をしていると、いよいよBランク推薦争奪トーナメントが開始されたようだ。1回戦目の戦いを見に行くために、一行は控え室から出ていったのだった。
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