第23話 ボス部屋
一行はダンジョンの中を進んでいた……のだが。
「ぬわあああああ!? 落とし穴だあああああ!」
「コクザーン!」
「ぎゃあああああ!? ミミックでごわすうう!」
「オオヤマー!」
「あっ、あっちにイケメンがいるわ」
「カレキー!」
というわけで皆とはぐれてしまった!
「うへぇ、ダンジョンで1人とか泣いちゃうよ……。これ誰かが裏で操作とかしてないだろうな……」
ヒラタはとぼとぼ歩きながら泣き言を言う。前方にはただただ廊下が続くばかりで、後方にもただただ廊下が続く。はぐれてからは部屋や分かれ道すら見つけられず、一直線に歩くばかりだった。
だが、そんなヒラタの前に突如として謎の扉が現れる。
「これは……?」
それは木製ではなく、なんだかよく分からない材質でできた赤茶色の扉であった。豪華な装飾が施されており、いかにも入れと言わんばかりの雰囲気だった。
「仕方ない。入るか」
ヒラタは扉を開ける。すると中はホテルのエントランスホールのように広く、そして天井が高い空間であった。照明が煌々と部屋を照らしている。そしてその中央には、2つの足で立ち、6つの腕を持った巨大なライオンがいた。
「むっはっは! ようやく挑戦者のおでましか」
「……」
そのライオンはヒラタを見つけると破顔する。なんとも嬉しそうに言ったのだ。そして次に、ヒラタが1人であることに気づく。
「む、お主、仲間はいないのか?」
「えっ、あっ、うん。途中ではぐれて……」
「む、そうか。それは困ったな……」
ライオンは懐から何やら端末を取り出して操作し始めた。
「うーむ、やはり他のボス部屋は基本パーティーで攻略されているな。試験内容的にもソロでの挑戦は想定されていない……」
何かをブツブツと呟くライオン。見た感じモンスターだが、かなり高い知能を持っている。
「まぁ、これも運命の導きということにするか。可哀想だが、冒険者には運も必要なのだ」
「えっと、それで俺は何をすれば?」
「む、説明がまだだったか」
ライオンは優雅にお辞儀をする。そして改めてこの部屋のルールを説明し始めた。
「俺の名前はキングライオン。このボス部屋を任されたテイム済モンスターだ。この部屋は複数人の冒険者でパーティーを組み、ボスとして配置されたモンスターと戦うというコンセプトで作られているぞ」
「えっ、じゃあ俺は他の冒険者達を待たないといけないってこと?」
「いや、残念だが既にお主以外の者は皆、別のボス部屋に到達している。つまりいくら待ってもこの部屋にはもう他の冒険者は来ぬのよ」
なんということだ。ヒラタは自分の不運を呪った。
「お主には同情するが、運がないと冒険者をやっていけないのも事実。悪いが来年また挑戦するか――」
「いいや待て! 俺は諦めないぞ。お前を倒してこの部屋を突破してやる」
「ほう。このSランクモンスターである俺を倒す……か」
Sランクモンスター。それはAランクモンスターとは一線を画す存在。まさに食物連鎖の頂点であり、基本的には最大のランクである。とはいえ魔王はこれより上のSSランクであるし、さらにその上にはEXランクというのも存在している。ただそれらはイレギュラーな存在であるため、そう滅多に遭遇するものではない。
だがSランクモンスターは違う。Sランクモンスターは、普通に冒険者をやっていても遭遇することがある。ヒラタもかつて、スケルトンというSランクモンスターと戦ったことがあるくらいだ。一部の地域ではバーゲンセールの如く出現することもある彼らは、Aランク冒険者の上位層やSランク冒険者でないと勝つことはできないとされている。
「だが、その必要はないぞ」
「えっ……?」
「Dランク冒険者にSランクモンスターを倒せと言うのも酷な話だ。このボス部屋では、ボスに一撃でも攻撃できたらその時点で勝利となる」
「一撃でも攻撃できたら……?」
「さよう。とはいえお主らDランク冒険者は、パーティーを組んでもそれができない場合が多い。実際、既に複数のパーティーがボス部屋で脱落している」
ライオンは端末を見ながらそう言った。あの端末には他の部屋の様子でも映っているのだろうか。
「ここが試験の最難関ということだ」
「ここが、最難関……」
「Sランクモンスターと一度でも対峙しておけば、今後強いモンスターと出会っても怯むことなく行動できるようになる……。そういう意図を込められての試験でもあるのだ。強者の放つオーラに呑まれず、普段通りの行動ができるか。それを試されているのだと思うがいい」
「深いなぁ。やっぱり試験は色々考えられて作ってんだ。てことはさっきのクイズのヤツも?」
「あれはギルドマスターが酒場で飲みながら考えた」
「🖕」
キングライオンにも思うところがあるのか、ばつが悪そうに頬を掻いた。
「う、うむ! とりあえず説明は以上だ! ここを通りたくば俺に攻撃を当ててみせよ! だがそう易々と突破できると思うなよ? 俺は隻腕の剣士相手でも容赦しない!」
「〈グッさん流剣技・居合〉」
「うぐあーッ!?」
一閃。ヒラタは音速の剣を放つ。木刀によるその一撃はキングライオンの土手っ腹に吸い込まれていき、その体を殴打した。衝撃でキングライオンは思わずよろめく。
「は、速い! お主本当にDランクか!?」
「とりあえず攻撃当てたけど、これでもうボス部屋は突破ってことでいいの?」
「う、うむ。それはよいが……。まさか俺が一瞬でやられるとは。最近トレーニングサボりがちだったからなぁ……」
キングライオンはどこか肩を落とした様子で、ヒラタの背中を見守る。ヒラタはキングライオンの背後にあった扉に向かっていき、それを開け放った。
「そうだ。お主、名前はなんと言う?」
「あぁ、俺の名前はヒラタ イヨウだ」
「ヒラタ イヨウ……そうか、お主がか。我が主から度々話は聞いていたが、うむ、確かに。非常に好青年だな!」
「えっ? 今なんて……?」
「いや、何でもない。ひょっとしたら近いうちにまた会えるやもしれぬな。その時はまた手合わせしたいものだ」
「はは、考えとくよ」
次第に空間は歪み、ヒラタの意識は暗黒に沈む。次の瞬間、ハッと目を覚ますと、そこはダンジョンの中。試験もいよいよ終わりに近づいている。ヒラタは今一度気合いを入れ直し、歩みを進めた。
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