第22話 分かるわけないだろ!
後日。ヒラタとコクザン、カレキ、そしてオオヤマはCランク選抜試験の会場に足を運んでいた。Cランク選抜は年に1回しか行われないため、ここを逃すとまた来年なのだ。参加しない理由はない。
「会場って、ここか?」
一行は冒険者ギルド本部の地下にいた。そこには同じくDランク冒険者と思わしき人物達が、目をギラつかせながら立っている。
「あぁ。チラシにはここって書いてあったし、間違いないだろう」
だが冷静なコクザンにも気になる点があった。それは周囲の、具体的に言えば建物の様子だ。冒険者ギルド本部に地下があるということは、まぁギルドに所属していれば先輩から教わることができる。だが地下にはだだっ広い空間が広がっているだけで、それ以外に何かがある様子はない。壁や天井はコンクリートのように固く、灰色で、僅かに雨のような臭いがした。
「ただ、こんなところでいったいどんな試験をするってんだ?」
「確かに」
そんなことを話しているうちに、時刻は過ぎていき、ついに試験開始の時間が来た。何が起こるのかと身構えていると、突然声がした。
「あーあー、マイクテストザンス。聞こえてるザンスかー」
参加者達は皆、ザワザワし始める。当然だ。この声は冒険者ならば誰もが一度は聞いたことのある声。
「どうもどうも。冒険者ギルド本部最高受付嬢のセザンスザンス。今日は足元の悪い中、ようこそお越しくださったザンス」
セザンスはその特徴的な声で試験に関する説明を始めた。
「知っての通り、この試験は皆さんがCランク冒険者になるにあたって、その資質があるかどうかを調べる試験ザンス。試験の内容は、ダンジョンの踏破ザンスね。指定されたダンジョンに入って、出口から出てこれたらその時点で試験は合格ザンス」
聞いた感じ、参加者同士で蹴落とし合いをするとか、そういう系の試験ではないようだ。何人かはそのことに安堵して息を吐いた。
「しかしザンス。その後にはBランク推薦トーナメントが待っているでザンスよ」
「Bランク……推薦トーナメント? なんだそれ?」
「毎年恒例ザンスね。新しくCランクになった冒険者の中から、優れた人間をBランクに推薦するという行事ザンス。推薦するだけで確実にBランクになれるわけではないザンスが……ここで推薦を獲得した人物はほぼ全員Bランク冒険者になっているザンス」
会場のどよめきが増した。そんな話は聞いていなかったからだ。まさに棚からぼた餅。だが不安要素もあった。
「ト、トーナメントってのは……」
「殺しと過度な暴力は禁止、それ以外はなんでもやっていい試合形式のトーナメントザンス。4人1組でパーティーを組んで、戦ってもらうザンス。見事優勝したパーティーのメンバー達はBランク推薦を受けられるザンス」
Cランク選抜試験自体に、蹴落とし合いの要素はない。だがその先にあるBランク推薦トーナメントはまさに蹴落とし合いだ。
「参加者の皆さんは今のうちに誰をパーティーメンバーにするか、よ~く考えておいた方がいいザンスよ。では、準備ができた人からダンジョンに入場するザンス」
セザンスがそう言うと、コンクリートのような灰色の壁がゴゴゴゴと動いて開き、ダンジョンの入り口が姿を現した。
「ダンジョンはあくまで冒険者ギルドが用意したものザンスから、死ぬことはないザンスよ。頑張ってザンス~」
何人かの冒険者達は意を決した顔つきでダンジョンの中に入っていった。それを追いかける者もいる。
「俺らも行くか」
ヒラタ達もダンジョンの中に入ることにした。先は暗闇で、何も見えない。そこに1歩足を踏み出せば、突如として不思議な感覚に襲われる。そのまま闇の中へ歩いていくと、次第に浮遊感に身を包まれ、そして……。
「ハッ! ここは……?」
「ダンジョンの中でごわすね」
気がつくと一行は全く見覚えのない大部屋に立っていた。ダンジョンの壁は茶色のレンガで作られているようで、扉は奥の方に2つ、木製のものがあった。そしてその木製の扉には大きな文字で、◯と✕が描いてある。
「冒険者ク~イズ」
「!?」
突然響いてきたのは無機質な声。セザンスのものではない。ヒラタ達一行と、周りにいた他の冒険者達は思わず天井を見上げた。
「冒険者は一般人を攻撃してはならない。◯か✕か」
声は冒険者達の様子など気にも止めず、クイズを出す。
「どうやら、出されたクイズに対して◯か✕かで答えるようだが……」
「きっとあの扉に入るんでごわすよ。それが回答になるんでごわす」
オオヤマは奥にある◯と✕が描かれた扉達を指差した。確かに、あの扉に入る以外にクイズに答える方法はなさそうだ。
「だったら話は簡単だな。答えは◯だ!」
ヒラタは意気揚々と◯の扉を開き、中に入る。するとそこは先ほどと同じような部屋であった。また奥に◯と✕が描かれた扉がある。
「どうやら正解――」
「答えは✕。冒険者でなくても一般人を攻撃してはならないから」
「クソ問じゃねぇか!」
次の瞬間、ヒラタの頭にタライが飛んでくる。派手な音を立ててクリーンヒット。ヒラタはその場で悶絶した。
「おっ、ヒラタ何やってんだ?」
「コクザン……頭を守れ……」
続いてコクザンやカレキ、オオヤマがヒラタが入ってきたところと同じところから入ってくる。つまり彼らも◯を選んだということで……。
「答えは✕。冒険者でなくても一般人を攻撃してはならないから」
3人とも頭にタライを受けてしまった。
「なんだこれ……マトモにクリアさせる気あんのかよ……」
悪態を吐きながら一行はなんとか立ち上がる。見ると、周りの冒険者達もそのような様子だった。
「冒険者ク~イズ」
「クソが、次は正解してやる」
「ある男は無人島で遭難した時、ウミガメのスープを食べた。後日、無人島から脱出した彼はレストランで再びウミガメのスープを食べた。すると男はシェフに、これは本当にウミガメのスープかどうかを聞いた。シェフがYESと答えると、男は家に帰って自殺した。いったいなぜ?」
「「「「冒険者要素どこだよ!?」」」」
しかも◯✕で答えられる問題ではない。まったくふざけている。
「こんなん確率50%だ! ◯!」
「正解は、男が無人島で食べたのはウミガメのスープではなく人間のスープだったからです」
「ふざけんな! なんで回答が◯✕しかないのに水平思考クイズ出すんだよ!」
ヒラタはタライを迎撃しようと木刀を抜いた。だが次の瞬間、ヒラタの額にLEG◯ブロックがフライウェイ!
「痛てぇぇぇぇぇぇ!」
そして後続の冒険者達も同じくL◯GOブロックの強襲を受けることになった。
「どこから飛んできてるのかしらこれ……?」
「冒険者ク~イズ」
「クソッ、これひょっとして正解しないと延々とクイズ部屋をループさせられるんじゃないか?」
こうも何度もクイズ部屋が続くのはおかしい。これではダンジョンではなくクイズバラエティである。正解しないと終わらないループという概念は古来から存在しており、古事記にも書いてあるくらいだ。異世界にも当然あるだろう。ヒラタはそう思った。
「次の問題、絶対に正解しないと……!」
「座標空間内の4点O(0, 0, 0) 、A(1, 0, 0) 、B(1, 1, 0)、C(1, 1, 1)を考える。1/2<r<1とする。点Pが線分OA、AB、BC上を動くときに点Pを中心とする半径rの球(内部を含む)が通過する部分を、それぞれV1、V2、V3とする。V1とV3の共通部分がV2に含まれるためのrについての条件を求めよ」
「だあああああ分っかんねぇよ! こちとら最終学歴高卒だぞ!」
「そもそも冒険者クイズって話はどこ行ったのかしら……?」
当たり前だが、この世界にこんな高度な数学的知識を持つ人間はあまりいない。ここにいる他の冒険者達もヒラタ達と同じように首を捻るばかりだ。
「こうなったらまた◯か✕どっちかの扉に突っ込むしか……」
「いや待て」
だが、ヒラタを制したコクザンだけは様子が違った。
「1/2<r<1/√2か?」
「……正解!」
コクザンが呪文のような回答を唱えたかと思うと、天井から響く声は抑揚のない様子で正解を告げた。途端にぐにゃりと空間が歪み、一行とその他の冒険者達は気がつけばダンジョンの廊下に立っていた。
「ハッ! まさか出られたのか! なんで!?」
「そういえば、冒険者クイズとは言っていたけれど、◯✕クイズとは一言も言ってなかったわね。最初から口頭での回答も可能だったということね……」
「なるほど。冒険者は頭を柔らかくしないと生きていけないということを教えているんでごわすね」
「俺にはただの意地悪にしか思えないが……。にしてもコクザンすごいな。俺には何がなんだかちんぷんかんぷんだったよ。あの一瞬で計算したのか?」
「いや、前に大学入試の過去問に似たような問題があったのを思い出してな。確かこんな感じだったよなぁと答えてみたんだ」
「それを覚えてるのも大概でごわすよ……」
こうしてクイズ部屋を出た一行はダンジョンを進んでいく。Cランク選抜試験はまだ始まったばかりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます