第19話 ドカ食い

「というわけで、まずはランニングだ!」


「ペ、ペンは飛んだ方が速いペンよ!?」


「つべこべ言わない! スタミナこそ冒険者の基本だよ!」


 ペン太はまん丸体型を揺らしながらヨチヨチ走る。だが遅い。圧倒的に。ペン太は鳥なのだ。しかも飛べるタイプの鳥だ。なのになぜ走るのか。ペン太には一切理解できなかった。理解できなかったが言われるがままに王都をランニングした。


「よし、次は正拳突きだ」


「ペンは鳥だペンよ!? どうやってやるペン!?」


「飛びながら、足の方を使ってやってごらん。そうそう。それを極めればいつか人並みのパンチくらいなら打てるように……」


「それあんまり強くないペンよ! というかペンはスキルで遠距離からチクチク攻撃するタイプのモンスターだペン。もっとこう、ペンに合った練習メニューはないのかペン?」


「つべこべ言わない!」


「スパルタだペンー!」


 こうして正拳突きをやらされ、ペン太はすっかりヘトヘト。だがリヴァイアの猛攻は終わらない。


「次はバーベルだよ」


「バ、バーベルだペン?」


 リヴァイアは水の魔法で棒と重りを生成してみせた。


「デ、デカいペンね。何キロくらいあるペン?」


「500キロだよ」


「500!?」


「今から君にはこれを持ち上げてもらう」


「ムリムリムリムリ絶対無理だペンよ! ペンのあんよが折れちゃうペン!」


「つべこべ言わない!」


「ぎゃあああ! 暴力反対! スパルタ反対だペンー!」


 わーきゃー騒ぎながらも、一応ペン太はバーベルを持ち上げようとしてみた。当然上がらない。だがそれを見て、リヴァイアは的確にアドバイスを行う。まぁアドバイスごときで500キロのバーベルが持ち上がるわけはないのだが。


「も、もう無理だペンー!」


「ふむ。まぁやった方か。次に行くよ」


「ま、まだ次があるペンか!?」


 今度はどんな恐ろしいトレーニングが待ち受けているのかと怯えるペン太。だがリヴァイアはそんな彼を、王都にある高級レストランに連れていった。


「シェフ。アレを頼めるかい?」


「おぉ、リヴァイア様。ようこそお越しくださいました。すぐに持って参ります」


 席に着いてすぐにシェフを呼んだリヴァイアは、何か指示を出したようだった。数分もしないうちに、シェフは何かを持ってきた。


「こちらになります」


「こ、これはペン……?」


「えぇ、こちらはドラゴンの卵焼きでございます」


「ドラゴンの卵焼き!?」


 ドラゴンの卵焼き。相場にして1つ金貨50枚は下らないドラゴンのタマゴを料理に使った贅沢な逸品。普通の者はまずお目にかかれない代物だ。


「お次はランハンゴスタの角をすりおろした香辛料を使用した、シーサペントのステーキです」


「えっ、えっ……? もうなんか意味が分からないペン」


 ランハンゴスタの角。この世界の胡椒的な存在。高騰時は小瓶1つで金貨10枚。


 シーサペントの肉。この世界では西の方にしか存在しない、海に生息するモンスターの肉。大変高価であり、100グラムで一般人のボーナスが飛ぶ。


「ペン太くん」


「ペ、ペン?」


「食べるんだ」


「ペンンンン!?」


「高級食材が高級食材たる所以は希少性だけじゃあないよ。そう、こういった食材には栄養素が多く含まれているんだ。昔から裕福な人の方が肉つきがいいのはこのためだよ」


「だ、だからといってどうして……?」


「どうして……って、強くなりたいんだろう? ならば食べないと。食べない者は決して強くなれないよ」


 リヴァイアはそう言ってペン太に肉を押しつけてくる。


「え、ええいままよペン! こうなったら食らいつくしてやるペン!」


「そうするといい。心配しなくても、この程度なら僕にとってははした金だからね」


 ペン太、本日2度目の暴飲暴食。ヒラタより何倍も贅沢な食事を堪能した彼は、丸々太った鳥になってしまった!


「もう食べれないペン……」


「ふふ。それでいい。鍛えて食べるを繰り返せば、それはいつか必ず肉になる。君は今よりずっと強くなれるよ。それは僕が保証しよう」


 こうして、圧倒的な量を食べたペン太はリヴァイアによってヒラタの元まで送り届けられたのだという……。


 □■□■


 翌日。


「ふわああ、よく寝たペン。久しぶりに夢を見なかったペンよ」


「おーうペン太おはよう」


「おはようペン。今日はどこに行くペンか? 討伐だペン?」


「いんや、薬草採取だ。日銭稼いでくるよ。じゃ」


 ヒラタは朝早くから薬草採取に行ってしまう。薬草は自生地域が限られているため、探すのに手間が掛かるのだ。だから早く行かないと、日が暮れるまで帰ってこれないということもあり得る。


「今日もペンか……」


 ペン太は悲しげにふよふよ飛びながら、王都を散策することにした。代わり映えのない王都。もうこの風景にも飽きてしまった。今日もいつもの日常が始まるのか、と思っていたその時。


「む、あれは……?」


 冒険者ギルドの中に入っていく小さな影を見つけた。銀髪の少女……間違いない。昨日のマリアーヌちゃんだ。彼女が不安そうな顔をしていたのを、ペン太は見逃さなかった。しかも年端も行かない少女が冒険者ギルドに入るとなれば、何かしらの事情があるのだと察することができる。ペン太も冒険者ギルドの中へ入ることにした。


「えっと、それで私の友達が……」


「うーん、困ったなぁ。そういうのは警察に言ってもらえると助かるんだけど……」


 中に入ると、人はわりと少なかった。朝方だからだろうか。そしてそこに、受付嬢に何かを訴えかけるマリアーヌちゃんの姿があった。


「どうしたんだペン?」


「あっ、ペン太さん。今日はヒラタさんと一緒じゃないんですね」


「あはは、実はちょっと……。それで、何かあったペン?」


「はい。実はこの子のお友達が、消えてしまったみたいで」


「消えたペン?」


 ペン太はマリアーヌちゃんから詳しく話を聞くことにした。


「消えたっていうのは……」


「えっと、ついさっきまで一緒に遊んでたんだけど、振り返ったらいつの間にかいなくなってたの」


「なるほどだペン。場所はどこだったペン?」


「中央広場の近く……」


 ペン太は顎に翼をやった。昨日のゴブリンの件もある。これはいち早く捜索を開始した方がいいかもしれない。警察に行ったのでは手遅れになるかもしれない。そもそも、彼女が冒険者ギルドに来たということは警察には頼れなかったということだろう。


「……分かったペン。消えた子の名前と見た目を教えてほしいペンよ。ペンが探してきてあげるペン」


「ほ、ほんと!?」


「本当ペンよ。なぁにお金はいらないペン。ペンは冒険者じゃなくてただのテイム済モンスターだペンからね」


 ペン太はマリアーヌちゃんの友達を探すことにした。リヴァイアを呼ぶことも考えたが、そもそも彼は貴族と冒険者の二足のわらじ。めちゃくちゃ忙しいのだ。気軽には呼べない。ここはペン太の力だけで解決しなくては。


「いっちょやってやるペン。修行の成果を見せてやるペンよ」

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