第14話 コリオン村に行こう

「白米は王都を出て北の方角にあるコリオン村にあるでごわす」


「コリオン村? 聞いたことがないな」


「それも仕方ないでごわすよ。コリオン村は人口数百人ほどの小さな村でごわす。人々はそこで俗世を忘れ、細々と生きているのでごわす。そしてそこに、白米があるのでごわすよ」


「い、いったいなぜ……?」


「理由は分からないでごわすが、おそらく何らかの理由で日本からこの世界に白米が伝来したと考えるのが自然でごわす」


「なるほど。てことはもしかしたら、過去にも日本からこの世界にやってきた人間がいるかもしれないのか」


 白米はどうやって異世界にやってきたのか。非常に興味はあるが、今は白米を食べることが重要。タイムリミットは迫ってきているのだ。早く白米を食べねば体が爆発して死ぬ。


「まぁいい。それよりどうやってコリオン村に行くんだ? 馬車とか?」


「いんや、馬車はかなり高価で、さすがに用意できないでごわすよ。商人の知り合いもいないでごわすし」


「うーむ、それもそうか」


 ヒラタの脳裏には一瞬、先日護衛した商人の顔が浮かんだが、よく考えたら連絡先を交換していない。力を借りるのは難しそうだ。


「こうなったら徒歩で行くしか……」


「それがいいでごわすよ。幸いコリオン村はそこまで遠くないでごわす」


「そうか。それなら安心だ」


 こうしてヒラタとオオヤマは話し合いを進めた。コリオン村で白米がどのように扱われているかは分からないため、できるだけたくさんのお金を持っていくことにした。貧乏なヒラタと違ってオオヤマは相撲大会でそれなりに稼いでいるため、かなりの大金を持っていくようだ。


「そうだ。せっかくだしオオヤマに紹介したい奴らがいるんだ。そいつらも今ごろ米を食いたがってるだろうし、連れていきたいんだけどいいかな?」


「ほう。ということは日本人でごわすか? それならもちろん大歓迎でごわす。ぜひ連れてきてほしいでごわすよ」


 約束を取り付けたヒラタ達は、一旦解散とすることにして、また明日集まることにした。体力もだいぶ回復したヒラタは医務室を後にし、明日連れていく仲間に声を掛けに行ったのだった……。


 □■□■


 翌日。


「イカれたメンバーを紹介するぜ!」


 王都。北門。そこにヒラタの姿はあった。だがそこにいるのはヒラタだけではない。オオヤマはもちろんのこと、その他にもメンバーがいるのだ。


「アキナイ・フォレストで拾った女の子! カレキ サクラちゃん!」


「あなた、顔がいいわね。結婚しなさい」


「同じくアキナイ・フォレストにて呑気に釣りをしていたクールガイ! コクザン ムカイ!」


「無表情系貧乳女子か。俺は巨乳も貧乳も等しく愛すぞ」


「そして心優しきお相撲さん! オオヤマ テツロウ!」


「……だ、大丈夫でごわすか? この……人達は……?」


 オオヤマは困惑していた。ヒラタが連れてきた2人は互いの顔を見るなりなんだかおかしな会話をし始めたのだ。


「貴様の性癖を答えろ」


「婚姻届は用意してあるわ」


 しかも会話が噛み合っていない! オオヤマは頭を抱えた。だが真に頭を抱えたいのはヒラタの方だった。確かにコクザンもカレキも癖のある人物だが、まさか変な風に化学反応を起こすとは……。普通に人選ミスったかもしれない。


「あのー、お2人さん。えーと、今日呼んだ理由って覚えてらっしゃいます?」


「フッ、当然だ。異世界に白米があると言ったのはヒラタだろう。まさか今さら撤回はしないだろうな」


「そうよ。私との結婚も撤回しないでちょうだい」


「前者は撤回しないし後者はそもそも何の話だよ!」


 とはいえ、ヒラタの知っている日本人はこの2人しかいなかったのだ。日本人以外ならまだ協力してくれそうな人はいるが、彼ら彼女らは白米に魅力を感じないだろう。善意で協力させてしまうのは申し訳ない。だがこの2人なら罪悪感は微塵も湧かない。なぜなら……。


「どうして誰も私のハーレムに入ってくれないのかしら? 私可愛いのに」


「おい、あそこで歩いてる女性、足長くないか? 踏まれたい」


 こういう人達だからだ。


「と、とにかく、おいどん達は今から白米のあるコリオン村に向かうでごわすよ。そのために朝早くから北門に集まったのでごわす」


「そうだそうだ。早く白米を食わせろよ」


「そうよそうよ。早く結婚しなさいよ」


「お前らが話を脱線させてんだろ! クッソ、こいつらボケパワーが高すぎる」


 カレキは見境なく求婚してくる。理由は分からないし、聞こうとも思わない。だが今の行動を続けていれば間違いなく何かのトラブルに巻き込まれるだろう。彼女はルーンさんに見繕ってもらったのであろう服を身に纏い、喋らなければ普通の美少女のように見える。だからこそ危うい。ヒラタの勘はそう言っている。


「えーと、まずカレキ。誰彼構わず求婚するのはやめなさい」


「誰彼構わずはしてないわ。顔のいい男だけよ」


「そういう話じゃなくてね、求婚するならもっと知り合いとか友達とかの仲のいい人だけにしようねって話で……」


「知り……合い? 友……達?」


「あ、これあんまり突っ込んだらいけないヤツだ。というわけでコクザン!」


「なんだ?」


「あんまり性癖とかそういうエッチなワード使うの禁止! そもそも女の子のいる場所でそういうこと言ったらいけないんだぜ」


「ヒラタ殿の言うとおりでごわす。ところでコクザン殿はどのような性癖をお持ちでごわす?」


「俺の持つ性癖は……全てだ」


「す、全て?」


「全て、そう全てだ。俺はありとあらゆる性癖を愛し、どんな性癖も決して否定しない」


「なら[自主規制]とか[自主規制]とかも……?」


「シコればし!」


「ぴええ本物だぁ……」


「友……達……? 友達って……何……?」


 性癖に対してあまりにも寛容すぎるコクザン。もうこれ以上放っておいたらツッコミが追いつかないので、話を切り上げてとっとと行くことにした。北門を出て、オオヤマに案内してもらう。


「友達……友達とは……」


「哲学者になっちゃった……。おーいカレキ、生きてるか?」


「結婚?」


「鳴き声かよ」


 道中、なんだか闇が深そうなカレキに話を聞くことにした。


「カレキ。俺は48歳なんだ。だから人生で何か悩んでることがあるなら相談に乗るぞ」


「俺も29だ。しかも弁護士だぞ。法には詳しい」


「おいどんは28でごわすね。知識では役に立てないかもしれないでこまわすが、心構えなら話せるでごわすよ」


 カレキは3人の顔をぼうっと見て、非常に言いづらそうにか細い声で言った。


「えっと、その……意外とみんな歳行ってるのね……。同年代かと勝手に思ってたわ」


「同年代……そういやカレキは何歳なんだ?」


「14」


「じゅじゅじゅじゅうよん!?!?!?!?」


「お、おいどんの半分でごわすね……」


「はぁーおいおい、児童ポルノは日本じゃ犯罪だぜ」


 衝撃。カレキはまだ中学生! だが肉体は既に高校生くらいに見える。顔のバランスとかが特にそうだ。ということは、日本から異世界に来るに際して、彼女もやはり肉体が少し変化したと見るのが自然だろう。


「異世界に来た奴ってみんな10代後半の肉体になるっぽいってのは予想してたが……」


「若返るだけでなく歳を取るというケースもあるのか……」


 そんなこんなで話をしていると、行く手に村が見えてきた。オオヤマは指を差して皆に言う。


「あれがコリオン村でごわすよ」


 あそこに白米がある。そう思うと生唾を飲まずにはいられない。ヒラタはわき上がる食欲を糧に、よりいっそう気合いを入れて1歩踏み込んだ。

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