第6話 いいなハク様フランス革命
「い、いきなりなんなんだお前!」
「うるさい! 怪人め! 命で償え!」
ヒラタは木刀を妙に整った筋で打ちつけていく。黒髪の青少年は堪らず腰に下げた銀色の剣を抜いてガードした。高い音が響き、つばぜり合いが始まる。ヒラタは右足をグイと前に出して力で押しきろうとしたが、黒髪の青少年は反対に飛び退くことでそれをいなした。
「おのれ怪人め! 許さん!」
「ちょちょ、待ってくれ。俺は怪人なんかじゃない!」
「なんて白々しい。こうなったらこっちも考えがあるぞ! エンブレム!」
ヒラタは空高くエンブレムを掲げた。眩しい光が解き放たれ、ペン太が転送されてくる。
「ペン太! 怪人を見つけたぜ!」
「ようやくだペンか。よーし、やってやるペン」
「テイマーだと!?」
黒髪の青少年はじりじりと後退り。ヒラタとペン太は囲むようにして追い詰めていく。
「こうなったら……こっちもこうだ! エンブレム!」
「な、なんだと!?」
黒髪の青少年は唐突にエンブレムを掲げた。赤と緑色のエンブレムを。そこからまばゆい光が溢れ、出てきたのは……。
「え、鉛筆?」
鉛筆だった。
「富士山だピツ」
富士山を自称する鉛筆だった。
「ピツ山! 説明は後だ! なんか襲ってきた!」
「しょうがないでピツねぇ。ピツの力を貸してやるでピツ」
ピツ山、と呼ばれた緑色の細長い物質には、白い手足が生えている。大きさは人より少し小さいくらい。だが鉛筆にしては異常な大きさだ。そしてそれが喋っている。
「こ、こいつはひょっとして、モンスターテイマーか!?」
「ふっ……ようやく気づいたようだな。俺とお前と奇しくも同じ、モンスターテイマーだったようだ」
怪人でなければ友人になれたかもしれない。ヒラタはそう思った。また、彼自身モンスターテイマーの厄介さは知っているため、いっそう気を引き締めることにした。
「ビビってるでピツねぇ。突然ピツが出てきたことに驚きを隠せてないでピツよ」
「いや、それは別に驚いてないんだけどさ。なんで鉛筆?」
「鉛筆じゃなくで富士山だピツ!」
「富士山要素どこ……?」
どこからどう見ても鉛筆である。
「ペン……ヒラタ、鉛筆の相手はペンに任せるペン」
「大丈夫か? ペン太あんまり強くないだろ」
「大丈夫だペン! アイツは……ペンと同じくらいの強さと見たペン」
ペン太はだいたいDランクモンスター程度の強さである。つまりあの鉛筆もそのくらいだということ。
「よし分かった。だが何かあったら必ず知らせるんだぞ」
ヒラタは鉛筆をペン太に任せると、改めて黒髪の青少年に向き合った。
「さて、これで2対2だ。正々堂々、勝負!」
「来い!」
ヒラタと黒髪の青少年は互いに走り出し、肉薄し、そして――。
「「漢気じゃんけんじゃんけんぽん!」」
じゃんけんをした!
「俺はパーを出したぞ」
「俺もパーを出したぞ」
「右手はパーで?」
「左手もパーで?」
「「ちょうちょ~!」」
両手をヒラヒラさせて目一杯はしゃぐ2人。だがすぐにお互いの目的を思い出し……。
「今だ! 三角定規を喰らえ!」
「痛い!」
黒髪の青少年は隠し持っていた三角定規をヒラタに投げつけた。そして額にクリーンヒット!
「まだまだ! さらにコンパスを使用し、円の半径を求めるぜ!」
「バカな、あり得ないぃ……!」
「そしてこの因数分解で俺の必殺技は完成する!」
「数学的帰納法だと!? 正気か!?」
「正気を捨てねば冒険者などやっていけない! 所詮この世は弱肉強食。強い奴しか生き残れない!」
「それは違うぜ! エーミール!」
「『少年の日の』……なんちゃら! 名前忘れたけどそんな名前のアレだと!?」
「国語の教科書の名作だぜ。貴様のポケットを見てみな」
「何ィ!? 1オンス硬貨が3枚……!」
「それが貴様への冥土の土産だ! 喰らえ必殺、
「フランス革命の年を覚えているだとォーッ!?」
地獄の業火が黒髪の青少年を焼く! 大ダメージだ!
「クソ……これではプレパラートは何の役にも立たない」
「勝った! トドメだ喰らえ、日本列島模型アタック!」
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
日本列島の模型が黒髪の青少年へ当たってフィニッシュ! 勝負アリだァーッ!
「俺が負けるとは……」
「ふん……だが怪人。貴様もなかなか強かったぜ」
「ああ、ありがとう。ではここは仲直りの握手を……」
「悪臭!? 貴様、人の体臭をバカにしたな! 許さん!」
ヒラタ、獅子奮迅の木刀攻撃! だが黒髪の青少年も必死で応戦だァーッ! 木刀の連打を銀色の剣で防ぐ、防ぐ、防ぐゥーッ!
「こうなったら俺の武器、シルバーソードの本領を発揮するしかないな!」
「なんだと!?」
「喰らえ必殺、シルバーフラッシュ!」
異世界を照らす太陽の光を、シルバーソードの銀鏡が反射! ヒラタの目に突き刺さる。
「うぎゃあああああああ!」
「よし、今だ! ピツ山!」
一方その頃、ペン太とピツ山はどっちつかずのキャットファイト!
「ふぅー、疲れたペン。一旦ここで休憩にするペンよ」
「そうでピツね。いやーどっこいせ。……最近どうでピツ?」
「どうって言われてもペンねー、毎日毎日残業残業。最近、嫁にも愛想つかされてる気がするペンよ」
「ビジネスマンはそういうものだピツ。受け入れるピツよ」
「ピツ山はすごいでペンね。ペンには到底無理だペンよ……。仕事で浪費していく人生に、何の意味があるってペンか……」
「そう落ち込むなピツ。すみませんマスター、こっちになんか酒とツマミくださーい! まぁまぁ、今日はゆっくり飲んで、嫌なことは忘れようでピツ」
「……何やってんだ?」
2人(2匹)が疲れたビジネスマンのコントをやっていると、ヒラタを黙らせた黒髪の青少年が戻ってきた。
「おっ、コクザン。戻ってきたでピツね」
「いや戻ってきたのはいいけど、何この状況?」
「最近! 嫁がさぁ! 浮気してんじゃないかってさぁ! 思っててペンさぁ!」
ペン太は生ビールを喉にぶちこみながらそう愚痴をぶちまける。ピツ山はそれをウンウンと優しく見守るのだ。
「あー、えと、仲良くしてるとこ悪いんだが……そろそろ行こうと思う。アイツの視力が完全に戻ったらまずいことになるのは確実だしな」
そう言ってコクザンと呼ばれた青少年はヒラタを指さした。
「だそうだピツ。ペン太、また今度話は聞くピツ」
「ぐすっぐすっ……悪かったペン。またよろしく頼むペン」
こうして、戦いは終わった。数分後に視力を取り戻したヒラタが辺りを探すも、黒髪の青少年は既にどこかに行ってしまった後だった。
「クッソー、怪人取り逃がしたー!」
「ヒラタ……多分あの人は怪人じゃなくて普通の冒険者だと思うペン」
「え、マジ?」
こうして、怪人探しはまだまだ続く。
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