第2章 森の怪人編

第5話 怪人を下から読んだら『んじいか』

「うひ~、今日は貴重な休暇だぜペン太ぁ~」


「1日中惰眠を貪るペンよぉ~」


 オークの巣穴攻略を終えたヒラタ達は宿でダラダラしていた。依頼を達成したことで銀貨を10枚も手に入れたのだ。銀貨1枚で宿も食事も確保できるのだから、実質10日も休みを手に入れたということになる。もちろん、ヒラタ達も将来に向けて貯金しないといけないため、そんなに長く休暇を楽しむことはできないが。


「あー気持ちー。布団の中で過ごす日々ー」


「体を休めないと冒険者なんてやってられないペンよー」


 そんなわけで手に入れた大金を元手に休日を寝て過ごしていると、いきなり宿の部屋が開け放たれた!


「邪魔するわ!」


「邪魔するなら帰ってペン」


「嫌よ!」


 入ってきたのは先日助けたメアリーとかいう女騎士だ。今日は鎧や剣といった装備ではなく、ラフな格好をしている。


「ふええ……なんで宿の場所も部屋も教えてないのに入ってきたのぉ……?」


「宿の場所なら昨日あなた達が帰る時に見たわ! 部屋は受付のおばちゃんに聞いたわ!」


「何か用ペンか? ペン達は忙しいペンよ」


「ええ、実は暇そうなあなた達に依頼を持ってきてあげたのよ! 私のお父様直々の依頼よ!」


 そう言ってメアリーが投げてきた羊皮紙には、このような内容の依頼が書いてあった。


「森に出没する怪人……?」


「そう! 実は王都と商業都市ヌァルヘイゲンの間にある森で怪人が出るらしいのよ! 王都の商人が幾度となく被害に遭っていて、放置できないから今回依頼として回されたわ!」


 依頼書には、ヌァルヘイゲンへ続く森にて怪人が現れたという旨の話が書いてあった。曰く、怪人は黒装束の人型で、人を見つけては襲いかかってくるとのこと。動きは素早く、達人級の用心棒ですら歯が立たなかったらしい。そのことからこの依頼の難易度は……。


「Aランク依頼……」


「そうよ! 貴族直々の依頼でそれなりに怪人も強いことが確定してるからそのくらいの難易度に設定されたわ。それで報酬がなんと金貨5枚!」


 金貨5枚というと、王都の平均的な一般男性の月給の半分。日本で言えば10万円、15万円くらいの価値になる。


「これがあれば鉄製の剣くらい買えるんじゃ……」


「どう? かなりわりのいい依頼だと思うんだけど。ちなみにあなたが受けないならこのまま冒険者ギルドに流すわ!」


 ヒラタは考えた。冒険者ギルドを通さなければ、Dランクの俺でもAランク依頼は受けられる。だが反対に依頼で何かやらかしても冒険者ギルドは助けてくれないということだ。


「つうかペン。お前、メアリーだったかペン? なんか昨日とキャラ違うくないかペン? あんまり激しいキャラ変するとイメージが定着しなくてキャラ人気落ちるペンよ」


「んだとこのクソ鳥ィ! ステーキにして食ってやろうかボケェ! こちとら貴族だぞ!」


「ペンン!? ヒラタたすけて~」


 だが、ヒラタはAランク冒険者に匹敵する実力を持つ。そう考えればこれは適正依頼。何より、今は先の報酬があるため資金には余裕がある。ある程度ヘマをしても生きてさえいればリカバーは可能だ。何より王都の貴族に媚を売っておくのは悪いことではない。


「よし、この依頼を受けてやる! ヒラタ イヨウに任せなさい」


「やったー! 実はお父様にさっさと押し付けられそうな冒険者見つけてこいって言われてたのよね」


「え」


「昨日あなたを見た時、このお人好しなら受けてくれるに違いない! って確信したわ! やっぱり思った通り」


「え」


「じゃ、そういうわけだからよろしくね。ちなみに期限は明日までだから。それ過ぎたら依頼破棄と見なして当然報酬も発生しないわ!」


「えちょま」


「じゃね~」


 そう言ってメアリーは去った。まるで嵐のように。


「嵐っていうより荒らしだろ……」


 呆然としていたヒラタだったが、こうしちゃいられないと休日を返上して着替え、装備を整えることにした。


 □■□■


 そして今に至る。


「くっそ~、今日は完璧に休日気分だったから体が素直に動いてくれない」


 歩くこと5時間。目的地の森に着いた。王都と商業都市ヌァルヘイゲンを往復するには必ずこの森を通らねばならない。そのためこの森は通称、アキナイ・フォレストと呼ばれているらしい。


「まるでシルクロードみたいだな」


 その名前を聞いた時、ヒラタはそう思ったものだ。しかしシルクロードとは違いこちらは森。獣道すらない、ひたすら木々が生い茂る森。視界が悪いし、なんか臭いも鼻に突く。


「あーあ、ペン太も話し相手に召喚してやろうかな」


 そう思ったが、多分ペン太怒るのでやめておいた。しかし1人でこの気味悪い森を進むのはかなり精神に来る。しかもいつどこから怪人が襲ってくるか分からないのだ。


「せめて何か目印とか、あるいは開けた場所とかないかな……」


 ヒラタは耳を澄ませた。するとどうだろう。遠くから水の音がするではないか。


「川があるのか!」


 ちょうど喉が渇いていたところだ。ヒラタは川の方に向かった。だが、川の水音が近づくにつれ、なんだか別の音も聞こえてきた。


「人の声?」


 それは人の……男性の声。歌っているようだった。もしや件の怪人か? ヒラタはゆっくり気配を殺して近づくことにした。すると……。


「い……も……お……も……」


「ん?」


「石焼きいも~、おいも~」


 なんと! 聞こえている歌は石焼き芋の歌だった!


「まさか異世界にも石焼き芋があるだと!?」


 ヒラタは声に釣られ、飛び出してしまった。するとそこには、雄大な川とそこで釣りをする青少年……。


「石焼きいも~、おいも~」


「石焼き芋どこ?」


「石焼きいも~、おいも~が食べたいな~」


 思わずずっこけそうになったヒラタ。その時、近くに置いてあった石焼き芋の皮を踏んで転けてしまった。


「む、誰だ?」


 音に気づいた黒髪の青少年。彼は地面に横たわるヒラタを睨みつけた。ヒラタもそれに対して睨み返す。


「黒髪……黒目……」


 例の怪人は黒装束という話だったが……これは……。怪人だろうか。違うかもしれない。だが……。ヒラタは考えた。低めのIQでうんといっぱい考えた。その結果……。


「お前! 怪人だな!?」


「へ? あ? 怪人?」


「しらばっくれやがって! 覚悟しろ!」


 ヒラタは青少年を怪人と決めつけ、木刀を抜いて飛びかかった!

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