第4話 身の程を知るじゃんね

「さて、思いもよらないところで臨時収入が降ってきたでオークね」


 オークは倒れているペン太を値踏みする。


「鶏肉は久しく食ってないでオーク。決めた。貴様を今日の晩御飯にしてやるでオークよ」


「ペンが晩御飯!? 嫌でペン! 絶対こっちの女騎士の方が美味しいペンよ! なんかほら、脂肪分とか多そうだペンし!」


「おいこら鳥ィ! てめさっきから舐めた口聞いとんちゃうぞオラァ!」


 2人(1人と1匹)が言い合いをしていると、オークはどこからともなくルーレットを取り出した。


「今から貴様をどのように料理するか決めるでオーク」


「ルーレットで!?」


「スタートでオーク」


 オークがその腕でルーレットを回すと、カラカラと音をたててそれは『ステーキ』の名前を指した。


「決めたでオーク。貴様はステーキだオーク」


「なんて卑劣な! ミディアムでお願いします!」


「お前も乗るなペン! 捕まってるってこと忘れてないかペン!?」


 とはいえペン太もこのままでは食べられてしまう。それはまずい。よし、こうなった以上は仕方がないぞ。ペン太は奥の手を使うことにした。


「今から自爆するペン!」


「「ま、待て!」」


「いいや、待たないペン!」


 ドカ~ン!


「や、やったペンか!?」


 ペン太は自爆に巻き込まれたオークの生死を確認しようと、その翼で土煙を払った。だがそこに立っていたのは……!


「やってないでオークよ……!」


「くっ……強いペンね!」


 奥の手を切ってもオークは倒せなかった。もはやペン太では力不足だ。こうなったらもうヒラタを呼ぶしかない。ペン太は声を張り上げた。


「ヒラタ~、早く助けに来るペンよ~!」


 一方その頃、ヒラタは……。


「に~らめっこしましょ!」


「笑うと切腹!」


「「あっぷっぷ~!」」


 オークは自慢の鼻を思いっきり広げ、舌を出しておどけてみせた。


 そしてヒラタは受話器になった。


「とぅーるるるるるるるる」


 受話器なったヒラタは裏声で叫んだ。それを受けてオークは破顔する。


「オ、オークックックックックー! 人間が受話器になったでオーク~!」


「はい笑ったお前の負け~、早く切腹しろ。それがにらめっこのルールだぞ」


「は? するわけないでオーク。命は大切にするでオークよ」


「騙したな! おのれ卑怯な!」


「卑怯? 卑怯なのは、亜人戦争で負けた我々オークを無理矢理モンスターに認定したお前ら人間の方ではないでオークか!」


「うるせ~! 知らね~! 俺地球人だも~ん! この世界の歴史とか知りませ~んべろべろばぁ~」


 オークは侮辱されたことで怒りを覚えた。


「……多くのオークが貴様ら人間によって殺されたでオーク」


「え? が? がぁぁぁぁぁ~~~? ぶひゃ~っひゃっひゃっひゃっひゃっひゃあ~!」


「……! 貴様ら人間はいつの世もふざけた態度を取る! そうやって他人を蔑ろにし、支配してきたその傲慢さ! それが俺達オークは、最も! 憎たらしいんでオークよォーッ!」


 そう言ってオークは巨大な拳を振り下ろしてきた。ヒラタはそれを木刀でいなしながら回避する。


「危ない危ない。当たったらどうすんのさ。もっとお話しようぜ~。亜人戦争ってなんなのよ。俺知りたいな~」


「人間と話すことなどないでオーク!」


 会話を試みるヒラタに対し、オークは粗暴な拳を振り回す。その態度に対し何かを感じたのか、ヒラタの目からヘラヘラしたおふざけの感情が消え失せた。


「え、何? もうおちゃらけタイム終了? 真面目に殺し合う感じ?」


「はっ! 何を言うかと思えば、殺し合うだと? そのちんけな木刀で何が出来るというでオークか。斬れないばかりか、オークの分厚い脂肪を前に、打撃も効果を成さないでオークよ」


 そう言ってオークは距離を取り、その拳に何やら光を纏い始めた。何らかのスキルであろう。


「……あ、そう」


「貴様ら人間はいつもそうやって他人を舐めて蔑ろに……」


「他人を蔑ろにしてるのはお前らオークも同じだろ。村やら行商人やらを積極的に襲っておいてよく言うぜ。お前らがモンスター認定されたのは暴力的で協調性がないからだろ?」


「ッ!? 人間風情が、抜かすなでオーク!」


 ズンズンと大地を揺らして、オークがヒラタに殴り掛かる。ヒラタはその場でスッと腰を落とし、右手で木刀の柄を握った。


「〈グッさん流剣技――〉」


「オークは偉大なる種族でオーク! 真に世界を支配下に置くのは、このオー……」


 オークの目の前からヒラタの姿が消えた。瞬間移動か? ならばどこに? 首を振って辺りの様子を確認しようとしたオークは、違和感に気づく。首を振っても振っても光景が変わらないのだ。まるでそれは、首だけが動いていないような……。


「あ……?」


 ふと、倒れるような感覚を覚えた。体の制御が効かない。オークはそねのまま地面に倒れ、やけに低い位置から、自分の体を見た。


 自分の体だ。だがそこには首だけがない。首はどこに? オークは目を限界まで下に向け、そして気づいた。


「あ……ああああああああ!?」


 オークは、生首になっていたのだ。それを自覚した瞬間、残された体の切り口から鮮血が迸る。そしてその体の奥に、忌まわしき赤髪の男が見えた。


「〈――居合〉」


 木刀に付着した血を、一振で飛ばすと、小さくこう呟いた。


「少しでも長生きしたいとか思わないのかな。モンスターだしそんなことを考える知能もないか」


 オークの体は倒れ、それが生首を潰した。そしてヒラタは興味なさげにその死体から離れていくのだった。


「おーいペン太~、生きてるか~?」


 オークを片付けたヒラタは、もう1体のオークと戦っているであろうペン太の元に向かった。するとそこには……。


「ひえええ~! もうやめるでオーク……」


「うるさい! 私が受けた辱しめをそっくりそのまま返してやる! えい! えい!」


 奪い返した剣でオークをペチペチと殴っている女騎士がいた。ペン太はそのそばで現場監督面している。


「あ、ヒラタ。遅かったペンね。こっちは片付いたペンよ。ペンが華麗なるクチバシ捌きで縄をほどいたら、後はこの人が勝手にやってくれたペン」


「つうか私最初に言ったよな縄ほどけって! オークなんて雑魚相手に私が負けるわけないだろがい!」


「でも捕まってたし……」


「あれは寝てる隙にやられたの!」


 女騎士は怒りの形相でオークに八つ当たり。それをヒラタが宥めることで、なんとか収めることができた。


「えーというわけで改めまして。俺はテイマーのヒラタ イヨウ。でこっちが……」


「テイムモンスターのペン太だペン!」


「へぇ~、あなたテイマーなのね。テイマーが自分で戦うって珍しくない?」


「あはは、やっぱそうなんだ。異世界来てからずっとこうだったからなぁ。グッさんにもそうしろって言われてたし」


 ヒラタは異世界に来たばかりの時のことと、今は遠く離れている師のことを思い出した。


「それで、女騎士さんのお名前は?」


「あぁ。私の名前はメアリー・サム。こう見えて冒険者なんだ」


「へぇ~、冒険者。ベテランさんですか?」


「Eランクだ」


「見習いじゃねぇか!」


 ペン太がオークを氷で拘束している間に、2人は話を進める。どうやらメアリーは王都の貴族の娘だそうで、鎧やら剣やらが豪華なのはそのためらしい。装備は一級品だからモンスターが出る森にもばしばし入っては戦果を挙げてきたそうだ。


「Eランクだから高ランク依頼は受けられないが、モンスターの素材を買い取りに出すことは出来るからな。これでお金を稼いでるんだ」


「うん……それはいいけどちゃんと依頼をこなさないとEランクからは上がれないよ」


「なに!? そうなのか!?」


「うん……Eランクは見習い冒険者クラスだから、1週間くらい指定の依頼をこなせばDランクに上がることが出来るよ。ちゃんと説明聞いてた……?」


「知らん! 初耳だ!」


 ヒラタはため息をついた。ヒラタにも貴族の友人はいるが、その人とは偉い違いだ。そもそも王都の貴族は選挙で選ばれて政治を行う、品行方正な人のことを指すはずなのだが、メアリーからはその様子は感じられなかった。


「とりあえず、俺オークの巣穴攻略しないといけないからさ……。ここで待っててくれない……? 終わったら一緒に帰ってあげるから……」


「オークの巣穴!? そんなのがあるのか!? ぜひ行きたい。私も連れていってくれ!」


「ふええ……Eランク冒険者をBランクの依頼に同行させたら怒られちゃうよぉ……」


 とはいえ頼まれたことを断れないのがヒラタの性分だ。そのまま押しきられ、オークの巣穴の攻略を手伝わせてしまった。Eランク冒険者にしては強かったのでよかったが、王都に連れ帰った際に冒険者ギルドでしこたま怒られるはめになってしまった……!

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