第2話 オークを倒しにいこう

「しかし朝からこんな依頼を持ってくるなんて。もしかしてルーンさん、今日の冒険者ギルドの会議に寝坊せず行けたんですか!?」


「ふっふ~ん、実はそうなんだよね。褒めていいよ」


「すっげぇ~! 今日はきっと槍が降るぜ! こりゃ天変地異だな!」


「ああ~ヒラタっちの足下にナイフがぁ~」


 失言をしたヒラタの足下をナイフが強襲! 靴をほんのちょっぴりだけ外して投擲されたソレは、ビヨヨヨーンとバネのような音を出して振動した。


「おぉ、おっかないおっかない。全く、冗談じゃないっすか~。な、ペン太?」


「ペンは朝弱いから話しかけないでほしいペン……」


「そっかぁ。じゃあルーンさん、今日の朝飯は俺の分だけで……」


「それはちょっと違うペン。はき違えてるペンよ。ペンは低血糖状態でも白米を6合食べる大食漢だペン」


 そんなこんなで仲良く朝食を終え、改めてオークの巣穴の攻略依頼について確認することにした。依頼書には巣穴の大体の位置と、オークの危険性についてびっしりと書かれていた。また、特製の地図まで用意されている。


「やっぱりBランクの依頼ともなると違うなぁ。地図ってこの世界だと相当高価だぜ。多分。知らんけど」


「うーん、製紙技術も確立されてるしマッピング系のスキルもあるからそんなに高くはないんじゃないかな……?」


「だってよペン太。適当なこと言うなよ」


「なんでペンが怒られてるペン!? 不当だペン理不尽だペン!」


 オーク。それは屈強な肉体を誇るCランクモンスター。彼らは基本的に群れで行動するため、1匹見たら10匹いるとされている。繁殖能力が高く、巣穴を見つけたらすぐに処理しなければ手遅れになる。過去にオークの巣穴を放置した際には、たった20日で軍隊規模の群れになったという話もあるほどだ。


「ま、俺なら大丈夫だろ」


 そんなオークの情報を眺めながら、ヒラタは鼻をほじりながらそう言った。


「俺ってAランク冒険者くらいの実力はあるしぃ? オークとかいう雑魚モンスターに負けるわけがないしぃ?」


「それはすごいペンね。じゃあペンは宿で待っててあげるからさっさと片付けてくるペンよ」


「宿で待ってても勝手に呼び出すから関係ないけどね」


 そう言ってヒラタが取り出したのは正六角形の板状物体。白と水色に煌めく、手のひらに収まるほどの大きさのソレは、『エンブレム』と呼ばれるアイテムだ。


「エンブレムがある限り、ペン太がどこで何をしてても一瞬で呼び出せるんだぜ」


「ペン~! イマドキどんなブラック企業でもそんな横暴な真似はしないペンよ!」


「そんな横暴かなぁ……?」


 エンブレムはテイマーギルドでのみ発行可能な、異世界技術の詰まったアイテムなのだ。その機能は、登録したモンスターを転移転送させるというもの。つまりワープである。エンブレムを発動すればモンスターは瞬時にエンブレム所有者の元へ転移するし、再び発動すればすぐにテイマーギルドに転送される。


「ペン太がいちいち俺の旅に同行しなくてもいいってのはかなり便利じゃね? しかもいらなくなったらテイマーギルドに戻せるし」


「ペンを物みたいに扱うとはいい度胸だペン! その髪全部つつき抜いてやるペンよォ~ッ!」


 遅い来るペン太を片手でいなし、ヒラタは立て掛けてあった木刀を手に取った。これこそがヒラタの武器なのだ。鉄製の剣は金貨3枚と高額なので、初期装備の木刀しか使えない。もちろん、剣も買えないくらいなので防具などは一切ない。


「んじゃ、言ってくるからルーンさんペン太のことよろしくね~」


「はいよ~。死なないようにね~」


 そう言ってヒラタはテイマーギルドを後にする。木刀1本に、容量がちょっとしかないポーチという貧弱な装備。武器を持っているためかろうじて冒険者であるとは分かるが、それにしてはあまりにも武装が軽薄過ぎる。王都の道行く人々は、彼を奇異の目で見ている。


「はい、次の方……おぉ、ヒラタじゃないか。これから依頼か?」


 王都の入出を管理している四つの門の南側、通称南門の門番に、ヒラタは呼び止められた。本来は身分とか目的とかを色々聞かれるのだが、なにぶんヒラタは冒険者。これでも顔は通っているのだ。


「そそ。ちょっといいヤツが入ったからさぁ~」


 そう言って顔パスで門を通ると、オークの巣穴があるとされている森まで徒歩で向かう。あまりに王都から離れた場所での依頼であれば、馬車が出たりするのだが、今回の依頼は比較的目的地が近かったため、歩いていくことになったのだ。


 こうして、歩くこと約3時間。


「へえ~、ここがオークの巣穴があるって森かぁ~。テンション上がるなぁ~」


 目的地の森は、旧エルフ領跡地にあった。王都を南下すればすぐそばにあるその森には、よく冒険者が薬草や貴重な植物を採取しに来るのだ。だが歩くとかなり時間が掛かるため、新米冒険者は来たがらない場所でもある。基本的にはあまり強いモンスターは出ないとされているが……。


「おや、あんなところに怪しげな洞窟が……。もしかしてさっそく巣穴見つけちゃったか?」


 森を入ってすぐのところに、大口を開けて佇む不気味な洞窟があった。奥には闇があるばかりで、中がどうなっているのかは皆目見当もつかない。ヒラタは地図をひっくり返してみてひたすら眺めてみたが、残念ながら彼に地図を理解する知能はなかった。


「ばなな~。でも多分ここがオークの巣穴だろ! きっと! おそらく! 知らんけど! よーし、そうと決まれば……」


 勇み足で洞窟に入ろうとするヒラタを呼び止める音がした。それは何者かの足音であり、また雑草を掻き分ける音でもあった。誰かがこちらに向かってきている。


「ま、まずいぜ。ひょっとしたらモンスターかもしれない。こうなったら岩に変装するぜ!」


 ヒラタは背中を丸くして地面に横たわり、岩に変装した! そしてじっと息を潜めて待っていると、足音の主が姿を現した。


「いやぁ、疲れたでオークねぇー」

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