第26話 さんずい
茶色がかった桃色の天井を見つめ、そこに塗り付けるように浮かぶバラの模様を目にして勇人は落ち着かない様子を示していた。
茶色をした髪がよくうねり心地よく踊っている。茶色の長い髪は女を彩る装飾のひとつになっていた。
「この方が〈東の魔女〉東院 真奈、娘さんは今どうしてるのかしら」
真奈、そう呼ばれた女性は娘には何も任せられない、そう語っていた。熟さない実を他者に御出しすることなど出来ないのだという。
「私は他の可能性から来た女、本来なら今頃この世界では私が高校生やってる頃でしょう」
その女性は本来ならば水色の髪をしていたと語る。
「ってことはこの方もドッペルゲンガーか、それも時空まで超えてきた」
「そうね」
真奈は洋子に向けて手をかざしていた。薄水色の光が注がれて、洋子に安らぎの涼しさを与えていた。それと同時に、大切なものを持っていられるようにと洋子の名前を包んでいるようにも見えた。
「名前、洋子ちゃんから『さんずい』が抜けないように水魔法で固定しといたから。これで魔女の暴走はないはず」
洋子の裏に潜み、夜闇の中、張り裂けるほどに口を大きく広げて嗤いを浮かべるあの魔女、羊子を呼び起こさないための処置なのだそうだ。
洋子は全力で明るい礼を小さな仕草に留めて現わしていた。
「いいのいいの、私なんて女を落としてしまったんだから。苗字も変えたしこの世界の歴史に偽りも埋め込んだし」
やっていることは滅茶苦茶極まりないこと、世を滅してしまいかねない程に苦い茶を注ぐような行ない、並行世界の正常を保ったまま清浄な変化をもたらすことを極めていた。
洋子に魔法をかけ終えたそうで、一度大きな咳払いをする。勇人は目を疑った。
その場所に真奈は既にいなかったのだから。
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