邂逅
俺は要塞拠点の扉の隣にある認証装置に親指を押し当て指紋認証を行い、更にカードリーダーにカードキーをスラッシュする。
『認証完了』
モニターに文字が出ると同時に、魔鉄鋼製の分厚い扉が左右に開いていく。俺はカードキーをスキル「
拠点に入ってすぐ左の通路を進みエレベーターに乗ると地下5階のボタンを押す。エレベーターが動き出すと同時に採掘の為の準備を行う。
魔鉱石採掘に必要なツルハシ、魔鉱脈探知機etc…
「大体は大丈夫そうだな。」
そうこうしている間に地下5階に到着した。そこからまた暫く通路を歩き続け、「採掘中」の札が掛けられた通路へと入っていく。
俺はツルハシを構えると壁に力強く打ち付け、採掘を開始する。どうも最近ダンジョンの壁が硬くなってきた気がする。地下深くでは圧力によって土や石が硬くなると聞いたことがあるがダンジョンにも適用されているのだろうか?このツルハシ一応アダマンタイト製なんだがなぁ…
ここは一応階層で言うと深層にあたる領域だ。ダンジョンは外とは完全に隔絶された空間であり、時間の流れが異なる。特に深層以降ともなれば数百日単位の時間差が出てくる。これの所為でつい作業し過ぎてしまうことがよくある。
「ふっ…ふっ…」
俺は一心不乱にツルハシを振るい続ける。開拓職故俺自身のステータスは低いが、俺のスキル「持久力強化(作業)」の効果で数十時間以上に渡り眠ること無く採掘や建築といった作業をし続けることが出来るのだ。
暫く掘り続け、魔鉱脈探知機を取り出すと周辺の地面や壁面へと向ける。すると、普段とは違う妙な波長を示す場所を発見した。
「んん…?」
違和感を覚えた俺はツルハシの反対側を使って壁を何度か軽く叩いてみる。…確かに少し抜けたような音がする。少なくとも魔鉱脈のそれでは無さそうだ。となれば考えられる可能性は1つ。
「隠し部屋ってやつか…?」
ダンジョンには極稀に隠し部屋や隠し通路と呼ばれる物が生成される場合がある。その中には強力な武器防具が入った宝箱やレアモンスターが発生する空間などがあるそうだ。そこで俺は大いに悩んだ。
「アイテム部屋ならいいが…レアモンスター大量発生とかだったら面倒だな…」
そう、ここで俺が非戦闘職だという事実が足を引っ張る。というのも非戦闘職は総じてステータスが非常に低く、戦闘スキルの類も一切覚えられない。なので基本的に単身でモンスターに出会ってしまえば「死」あるのみなのだ。
…まあそもそも深層などという魔境を単身で出歩くなど最上位探索者でも無いと出来ない訳だが。
なら何故開拓職の俺がこんな魔境に単身で潜ることが出来るのかというと…
「幾らスキルで生き返れるとはいえアイテムが消えるのはダルいんだよなぁ…」
そう、俺のユニークスキル「
ただし、それまでに持っていたアイテムからレベルに至るまで全て問答無用で消滅してしまうという代償付きの代物だ。アイテムを失うのは痛いがレベルに関しては全く問題無い。そもそも開拓職はレベル上げをする意味が殆ど無いしな。
「まあ、今失って困る物はそこまで無いし入るだけ入ってみるかぁ…」
ここで悩んでいても仕方ない。死んだら死んだでその時考えればいい。それに本当に大事な物は拠点地下の巨大倉庫に収納してあるので、そこまでの痛手にはならないだろう。
俺はツルハシを力一杯壁に叩きつける。するとガラガラという音を立てて隠された道が露となった。俺は「空間収納《インベントリ》」にツルハシを放り込むと手ぶらでそのまま通路内を歩き始める。
歩きながら周囲を見渡してみると、ダンジョン内だというのに床は勿論壁から天井に至るまで全てが魔鉱結晶で舗装されている。
魔鉱結晶とは、魔鉱脈に流れる高濃度の魔素が長い年月を掛け結晶化した物だ。分かりやすく言えば魔素で出来たクリスタルである。その特性故、地上に出回った際は最低数千万、大きさによっては億に届く程の値段が付けられることさえある程の代物だ。
それがこれだけ使われているというのははっきり言って異常だ。何とか回収出来ないだろうかなどと考えつつも歩き続けていると、やがて巨大な紋章のようなものが刻まれた白い扉の前に辿り着いた。
「これは…」
俺は扉に近づき紋章に触れる。すると紋章が強烈な光を放ち始める。
「やべっ!トラップだったか!?」
俺は「
だが、徐々に扉が開いていき、光が一際強くなると同時に俺は光の中へと飲み込まれた。
――――――――――――――――――――
「うーん…ここは…?」
俺は未だ痛む頭を押さえながらゆっくりと立ち上がり周辺を見渡す。
周辺には小さい島のようなものが無数に浮かび、その中心部には巨大な神殿のような建造物が存在している。俺の立っている場所から光の橋が伸びており、神殿(?)へと直接渡って行けるようになっている。
「強制転移の類か…扉も消えてるしあの神殿っぽい所に行ってみるしか無さそうだな…」
軽くその場でストレッチをして体を解してからゆっくりと歩き出す。俺が神殿に近づく度に橋に備え付けられた燭台に金色に輝く炎が灯されていく。
「なんかゲームの裏ダンジョンみたいだな。」
距離は見た目程長くはなく数分程で着いた。神殿の扉の前には、手形が付いた認証装置のような物が設置されている。
俺は無言で右手を置くと装置が一瞬光り同時に扉が開いていき、俺はそのまま中へと入る。
中は非常にシンプルな造りをしていた。
左右に立ち並ぶ柱、最奥には巨大な女神像のような物が配置され、眩しさすら覚える程の圧倒的な「白」。
―――そして何より、一際存在感を放つ大きなコフィン。中には折り畳まれた3対6枚の翼を背に生やしたこの世のものとは思えない程に美しい女性が目を閉じた状態で入っている。
腰まで伸びる艶のある銀髪。出る所は出て、引っ込む所は引っ込んでいる、その曲線美はまさに黄金比。雪のように白いその身体にはヘソ丸出しで「それ鎧の意味ある?」と聞きたくなるようなデザインのドレス甲冑が纏われている。
「これは…ここのボス、か?」
俺は慎重にコフィンらしきものに近づき、そう呟く。もしそうだった場合、まず俺に勝ち目は無い。何時でも逃げられるように転移不可領域でも使える緊急脱出用のアイテムを取り出しつつ後退りする。
―――直後、横たわっていたコフィンが煙を吐き出しながら立ち上がる。同時にフタが開き、中にいた女性が目を開いた。
「…!?」
俺は驚きのあまり、一瞬硬直する。
その間に女性はコフィンからゆっくりと歩いて此方へ真っ直ぐ向かってくる。そしてその美しい蒼の瞳を向けこう言った。
「――起動完了しました。貴方を私の
開拓者による、戦女神育成日記。 アルテマダッシュモーター @metal_slime
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