第四章:光の勇者と囚われの姫君と/02

 疲れから眠ってしまったエリシアを抱えたまま、鬱蒼うっそうとした森を抜け……どうにかシンは彼女と一緒にクスィ村まで戻ってくることが出来ていた。

「やっと到着か……」

 戻ってきた村の見知った景色を眺めながら、ホッと一息ついたシンがひとりごちる。

 とりあえず、今はエリシアを宿に連れて行くのが先決だろう。色々と話したいこともあるが、今はゆっくり休息を取らせてやるのが一番だ。折角こうして不自由な牢獄から解放されたのだから、温かいご飯と風呂にベッドでリフレッシュさせてやりたい。

 そう思い、エリシアを抱えたシンはひとまず宿に戻ろうとしたのだが――――。

「――――そこで止まれ、痴れ者がっ!」

 しかし、背後から突如としてそんな鋭い女の声が呼び止めてきて。何事かとシンが振り返ろうとした矢先……どこからか現れた騎士たちに、周りをぐるりと取り囲まれてしまった。

「……なんだ?」

 困惑するシンの周り、三六〇度の全方位を取り囲むのは……物々しい甲冑で身を固めた騎士たちだ。

 しかも、囲んでいる全員がシンに各々の剣を向けている。全方位から切っ先を向けられた今のシンは、まさに針のむしろといった状況だった。

(コイツら……エクスフィーアの王国騎士団か?)

 突然そんな絶体絶命の状況に放り込まれたシンだったが、しかし彼は顔色ひとつ変えぬまま、ジッと周りの騎士たちの様子を窺っていた。

 見ると……周りを取り囲む騎士たちの甲冑には、例外なくエクスフィーア王国の国章が刻まれている。立ち振る舞いも訓練された正規軍人のものである以上、導き出される結論はひとつだけだった。

 ――――この騎士たちは、れっきとした王国の正規軍だ。

 一体どうして、こんな連中に敵意を向けられねばならないのか。

 その理由は定かではないが……少なくとも彼らがシンのことを敵として認識しているのは、この状況を見れば明らかだった。

「勘弁してくれよ、一体何の冗談だ?」

 状況が掴めない以上、ひとまず現状を把握せねば。

 そう思いながら、シンは戸惑い半分、皮肉半分な調子でそう言ってみせた。

「――――冗談だと? 馬鹿は休み休みに言うがいい」

 すると背後から返ってくるのは、凛とした女の声だ。

 さっきシンに呼びかけたのと同じ声。少し低めのトーンの、まるで研ぎ澄まされた刃のように凛とした……鋼のような印象を抱かせる、そんな女の声だ。

「…………君は」

 そんな声に反応して、シンが背後に振り向いてみる。

 振り返ってみれば、彼の目に映ったのは……周囲を取り囲む騎士たちの間から割って入ってくる、一人の女騎士の姿だった。

 真っ青な長いポニーテールの尾を揺らし、スラリとした長身の身体に纏う騎士甲冑をカチャカチャと鳴らしながら、こちらに向かって歩いてくる女騎士。怒りに燃えた瞳でキッと睨み付けてくる、そんな彼女がシンの前に現れていた。

「遂に見つけたぞ、姫様を攫った大罪人が……! 誉れ高き我が近衛騎士団の名に懸けて、この私……フィーリス・レイ・ヴィルシーナが成敗してくれる!」

 怒りに震えた声で叫びながら、彼女はシンの前に立ち……その左腰の鞘から抜いたロングソードの切っ先を、彼に向かってバッと突き付けた。





(第四章『光の勇者と囚われの姫君と』了)

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