第二章:囚われの姫君/03

「やっと捕まえましたよ……お姫様」

「この……っ! 放してっ、放しなさいっ!」

「逃げ出すなんて酷いじゃないですか。さあ、早く牢に戻ってください」

 周りを取り囲む、黒いローブを着た怪しげな教団の信者たちに手首を掴まれながら、それでも気丈に立ち向かおうとする少女は――――間違いなくくだんのお姫様、シンが救出すべき対象であるこの国の第一王女、エリシア・フォン・ツヴァイク・エクスフィーア本人だった。

 背丈は一五六センチと、取り囲む教団信者の男たちよりずっと小柄だ。スラリとした華奢な体格で、顔立ちも気品あふれる美人さんといった雰囲気。それこそお姫様と呼ぶに相応しい、エリシアは可憐な見た目の少女だった。

 そんな彼女の髪は、腰まであるふわりとしたストレートロングの金髪。ぱっちりとした瞳は綺麗なエメラルドグリーンで、陶磁のように真っ白く透き通った肌を包み込むのは、一目で上等なものだと分かる純白のロングドレスだ。

 とはいえ、そのロングドレスも今は薄汚れてしまい、その本来の仕立ての良さは見る影もないのだが。

 しかしそんなボロボロの状態になりながらも、エリシアは懸命に周りの信者たちに……自分を捕まえ、牢に戻そうとしている彼らに立ち向かおうとしていた。

「あのお姫様……まさか、自力で牢を破ったのか?」

 そんな彼女の様子を、少し離れた場所に身を隠して傍観していたシンは……思わずひとりごちる。

 エリシアのあの切羽詰まった様子と、そして信者たちとの会話から察するに……どうやら、囚われていた牢から自力で脱出したようだ。

 彼女、見かけによらず度胸が据わっているらしい。行動力も一国の王女様とは思えないほどのアグレッシヴさだ。

 これで無事に単独で脱出に成功していれば、言うこと無しだったのだが……まあ、ここまでやっただけでも称賛に値するだろう。

「やれやれ……手間のかかる王女様だ」

 故にシンは呆れ半分、称賛半分といった感じに独り言を呟くと、隠れていた物陰からバッと飛び出し――――右腰の鞘からアストラルキャリバーを抜きながら、絶体絶命のエリシアを救うべく介入行動に入った。

「待ちな! オイタはそこまでだ!!」

 目にも留まらぬ速さで飛び込み、まずはシンに背を向けていた信者を一人、背中からバッサリと斬り伏せる。

「ふっ……!」

 そのまま懐に飛び込めば、返す刃で更にもう一人を斬り捨てて。更にガッと背後に大きく振り返ると、そのままの勢いでアストラルキャリバーを振るい……三人目も叩き斬ってやる。

「な……何者!?」

 そうして瞬く間に三人を斬り捨ててやった頃になって、残った信者二人はやっとこさシンの襲撃に気付く。

 予期せぬ横槍に驚きながらも、二人は彼を始末しようと動いたが――――。

「遅いぜ……!」

 しかし、シンの動きの方が圧倒的に速かった。

 ダンッと地を蹴って踏み込むと、サッと上方へ斜めに斬り上げる逆袈裟斬りを繰り出し、一瞬の内に四人目を仕留めてみせる。

 そうすれば、シンは最後の一人の元へと――エリシアを掴み上げていた奴の懐へと瞬時に潜り込み、ソイツも一刀の下に斬り伏せてしまった。

「全く……レディの扱いがなってないぞ」

 ――――殲滅。

 五人の教団信者を瞬く間に殲滅してしまえば、シンは足元に転がるむくろに……自身が斬り捨てた信者たちにそう呟きながら、バッと刃に空を切らせ。左手に握り締めていたアストラルキャリバーをそっと右腰の鞘に戻した。

「あ、貴方は一体……?」

 何の前触れもなく現れて、瞬く間に全員を斬り捨ててみせたシン。

 エリシアは戸惑いを隠せない顔で彼を見上げながら、恐る恐るといった風に問いかける。

 すると、シンは彼女の方に振り向いて。

「アンタがエリシアか?」

 と、戸惑う彼女に問いかける。

「は、はい……あの、貴方は」

 それにエリシア恐る恐る頷いて肯定の意を返すと、シンはそうか、と安堵の笑みを浮かべて。

「俺はシン――――シン・イカルガ。君を助けに来た」

 と、薄く笑顔を浮かべながら、そっと彼女に名乗り返していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る