第二章:囚われの姫君/02

 表の警備を容易く突破し、見つけた通気口から潜り込み。狭いダクトを這いつくばりながら進んでいけば、シンはトンネルの先に……古い坑道を改造したと思しき、広大な地下区画に難なく潜入できていた。

「この辺り、か……っと」

 そうしてダクトを這って無事に潜り込んだシンは、そのまま更に這って進み……そして、ある場所でやっとダクトから出た。

 天井を伝うダクト、その通気用の金網をバンッと外し、空いた隙間からサッと地面に飛び降りる。

 静かに、音もなく着地したシンは右腰の剣に手を掛けながら、周囲を油断なく見渡す。

 ――――牢獄。

 彼が侵入ポイントに選んだ場所は、端的に言えば牢獄だった。

 鉄格子で区切られた粗末な牢が幾つも並んだそこに、人気ひとけはまるで無い。見える範囲の牢屋は全て空だし、居るべきはずの看守の姿もどこにも見当たらなかった。

 少しばかり不審にも思えたが、しかし好都合だ。教団のあれこれを探るに当たって、騒ぎは起こさないに越したことはない。

「さてと、都合良くお姫様が居てくれれば恩の字なんだがな――――」

 ひとまず誰にも見られていないことを確認すると、シンは膝立ちの着地姿勢からスッと立ち上がり、辺りを見回す。

 ――――シンは何の理由もなく、ここを侵入ポイントに選んだわけじゃない。

 彼がこの牢獄を侵入ポイントに選んだ目的はただひとつ、救出対象のエクスフィーア第一王女、エリシア・フォン・ツヴァイク・エクスフィーアを助け出す為だった。

 無論、エリシアが都合よくこの謎の地下施設に囚われているという確証はどこにもない。

 ただ……限りなく有力な場所であることは事実だ。

 可能性がゼロではない以上、まずはこの場所を見ておく必要がある。もしも彼女が本当に囚われているのなら救出するし、居なければひとまず探索に専念すればいい。そういう意図があって、シンはこの牢獄を侵入ポイントに選んだのだった。

「とはいえ……人っ子一人居やしないな」

 そうしてシンはエリシアが居るかどうかを確かめるべく、警戒しつつ牢獄の中をあちこち探し回っていたのだが……しかし牢獄には彼女どころか、囚人ひとり居やしなかった。

 見える牢屋は全て空、空、空。牢獄の全部を見て回ったが、全ての牢屋が空だった。

 そんな状況なものだから、当然看守の姿もどこにもない。

「ま、そう上手くいくはずもない、か」

 牢獄が完全な無人だったのは流石に拍子抜けだったが、しかしエリシアが居ないなら居ないで、次の目的は定まった。

 そうしてシンが頭をエリシア捜索から次の目的に切り替えた、その時だった。

「――――きゃぁっ!?」

「ん……!?」

 遠くから、甲高い少女の悲鳴が木霊してきたのは。

 それを聞きつけたシンはまさかと思い、悲鳴のした方に向かって走り……物陰に身を隠しながら、そっと顔を出して様子を窺う。

 すると、そこでシンが目の当たりにしたのは――――。

「……案外、都合良く回ってくれるモンだな」

 五人ばかしの武装した教団信者に取り囲まれている、くだんのお姫様――――エリシアの姿だった。

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