第7話氷室小雪

氷室小雪の視点 


「陽菜ちゃん、まだお兄ちゃんと付き合ってないの? 何してるの? アホなのかな? もうこのノロマ。」


本当にも〜私は彼女を焚き付けた。お兄ちゃんと付き合えなかった陽菜ちゃんの悲しむ姿が見たくないから。


「酷っ…もう〜兄妹で毒吐くんだからー。私も口が悪いけど、2人も口悪いよね。」


なぬ? 聞き捨てならん。


「はぁ? お兄ちゃんが口悪い訳ないじゃん。あんたの耳腐ってんじゃ無い?」



「カチーン…腐って無いし、小雪ちゃんの口が腐ってんだよ。」


陽菜ちゃんに言い返された。お兄ちゃんが勉強教える前は、おバカキャラだったのに。

成長したな!


「あー言ったな、もう応援してやらん。」


私は、怒りを表現する様に、腕を組み首を横に向けた。



「ごめん、そんな事言わないで〜小雪ちゃんが頼りなんだから。」


陽菜ちゃんが許しを乞う様に、私の肩を掴んだ。


「もっと謝れし。まっしょうがないねー。奥手の陽菜ちゃん手伝ってやりますか。」


しょうがないにゃ〜この子猫ちゃんは。ってか普通に振られても、何度もアタックすれば良いだけなのに。

でも追ったら逃げるんだっけ? 男ってやつは。

付き合った事ないから知らんが。


「ありがとう。まぁ初めからそう言えば可愛いのに。」

 

彼女が開き直って言う。


「何か言った?」


「ううん、何にも言ってないよ。」


聞こえてますけどね! 

みんなが帰宅した教室で、私たちは恋バナをしていた。ほぼお兄ちゃんと陽菜ちゃんの事だけど。


「まぁ手伝う気ないけど。自分で頑張れし。」


「ふふ、小雪ちゃんはなんだかんだ言って優しいから、手伝ってくれるんだよ。私知ってるから。」


まだ春の明るい午後の教室の窓から、光が差し込み、机を暖めていた。


その机に手を触れ、温かみを感じ彼女の言葉と共に、私の心を温めた。


「はぁ? ほ…褒めるなし。優しくないし。」


彼女から顔を背けた。頬が熱を帯びた。



「あー照れてるぅ。かわゆい。」


彼女が指を指して、片方の手で口を隠した。

目が小悪魔の様に揶揄い私の心を指し貫く。


男子が見たらその仕草で、一瞬に恋に落ちるほどの、魅力があった。


「照れてねーし。煽てる感じがして嫌味に聞こえるな。」


心とは裏腹に、反発する様に言った。


「煽てないよ。もう素直になりなさい。」


「陽菜ちゃんのが可愛いから、嫌味に聞こえるって言ってんの。」

恥ずかしさで、目を閉じて背筋を伸ばして、教室に響くぐらい、力強く言った。


「あ、ありがとう。」

両手を頬に乗せた、その彼女の照れる仕草にキュンとなる。


「素直かよ!」

頬を掻いて、節目がちに言う。


「小雪ちゃんも可愛いよ。」


「も? 自分の可愛いさ自覚してるん? そんな自信あるのに奥手って、笑える。」


私は腹を抱えていう。彼女の恋には臆病なギャップが可笑しかった。


「言い忘れてた。口の悪さ除けば、可愛い。」


…ふん! 一言多いのよ!


「部費を勝手に使ったぐらいで泥棒呼ばわりする、陽菜ちゃんの口の悪さに子豚さんもびっくりよ。ブッヒー。」



「…ブッヒー?」

 

陽菜ちゃんが真剣な表情で、顎に手を当てていた。


「…一応、陽菜ちゃんの為に批判の中に優しくジョークを入れて陽菜ちゃんとの違いを、分かりやすくしたの。分かる?」


あ〜私ってフォローお上手。これがあなたとの違いよね。やっぱり私は頭良い。


「ブッヒーってあだ名で呼んで欲しいのかと思った。」


彼女がクスッと笑って言う。


「はぁ? そんな事いつ言った? 何時何分何10秒?」


地球が何回回った時は、入れなかった。逆に聞くけど戦法を使われない様にだ。

我ながら頭がまわるな〜私って。


「ふるっ、ブッヒーちゃんブヒブヒうるさいね。」


くっ…言い返された。彼女がポンと頭を軽く私の頭を叩いた。


「おい、ぶっ飛ばす。」


彼女の手が離れる直前手を掴んで言う。


「ごめん、ちょっと悪ノリしました。小雪ちゃん怒んないで。」


まるで自然のせせらぎの様に、癒し声を彼女が出す。何よ…その声は、チートよ!


「そんな事で怒る訳ないじゃん。」


クソデカため息を吐いて、私は首を横に振る。


「顔が引きつってるけど?」


それはあんたの声の良さに、嫉妬してるの。なんて事言わないけどね。


「き…気のせい。それよか、何か部活やる?」


私は、別の話題を振った。

むしろ話を逸らしたと言う方が正しいけど。


「部活か〜なんでも良いよ。小雪ちゃんが一緒ならどこでも入るよ。と言うか一緒じゃなきやだ。


私はその言葉に動揺して、転けそうになった。

机に手を乗せてなんとか転ばずに済んだ。


「なっ…急にデレるなし。一緒が良いとか、もう。」


頬が緩む。頭を掻きながら、どうしたものかと、悩んだ。


「なぜ先輩は、あんなに凄い人だったのに…人の気持ちを思いやれる人だったのに、今はちょっと微妙な感じになったなのかな?」


教室の天井を見つめながら、ぽつりと陽菜ちゃんが呟く。


やはり話題はお兄ちゃんか…お兄ちゃんに惚れてる彼女は、微妙な感じと言いつつも、お兄ちゃんの話ばかり聞いてくる。


でも思い当たる節はある。


「確かにあの頃のお兄ちゃんは、あんたが惚れるのも当然なくらいカッコよすだった。」


私は何度も頷き、自分の兄ながら、好意すら抱くほどのカリスマ性があった。

 

故に私の理想は、極限にまで高まった。


「何かあったのかな?」



「何にもなかったから、勉強で忙しいからかも?   

ってあんたさりげなくお兄ちゃん微妙とか、disったな? ぶっ飛ばされたい訳?」


微妙と言うのは悪口ではなく、心配で言ったのだろう。

だけども、もっと言い方を考えろと私は思ったので、彼女の頭を人差し指で小突いた。


「だって〜もちろん今の先輩も大好きだよ? でもあの時の先輩は、私のタイプそのものだったから。」

陽菜ちゃんは、頭をさすって言う。


私もタイプ…っても恋心とは違って尊敬の念だけど、彼女の言う事は分かる。


「でもお兄ちゃんがそんな感じだったら、モテすぎて、彼女作ってたり? だから陽菜ちゃん的には、助かったんじゃない?」


お兄ちゃんの心配より、付き合えない心配しなさいよ? あなたは。


「うーん。小雪ちゃんは何にも見に覚えないんだね?」


私の言ったことを、取り合わずに、お兄ちゃんの事を聞く。


弱いため息を吐いて、首を傾げて考えた。

アレかな。


「…燃え尽き症候群って知ってる? お兄ちゃん多分それ。あまりにも人生頑張り過ぎたんだよ…良い人過ぎたのお兄ちゃん。」


私は深刻に俯いて言った。お兄ちゃんの背中を思い出し、静かな教室で夕日が私の顔を照らした。


陽菜ちゃんも一年は、勉強頑張り過ぎて心配した。2人とも、もう少し肩を軽くすべきだ。



「…そっか。じゃあ私が先輩の側にピッタリ寄り添って、いっぱい楽しい気持ちにさせる!」


陽菜ちゃんは、決意を新たにして、瞳が閃光の様に放って、生き生きとしていた。


「その意気よ! お兄ちゃんの事はあんたに任せる。」


今の陽菜ちゃんなら、お兄ちゃんのヒーラーになれるわ。

私は、なれなかった…それでも、彼女と一緒に頑張ろうと誓った。


「うん! 任された!」

陽菜ちゃんが微笑んで言う。私も笑顔で返した。


しばらく決意を胸に沈黙が続いた。


咳払いをして、その静寂を破った。


「さて部活の話に戻すけど、私アニメ監督になるのが夢なのよね。だからそれを叶えれる様な部活したいのよね。

でも私だけじゃなくて、陽菜ちゃんの夢聞かせて? それを踏まえて部活作りたい。」


私は将来の夢を語って、手を見つめ彼女に視線を戻した。


「小雪ちゃんカッコいい。良い夢だね! 私はねぇ、先輩の〜お嫁さんになるのが…その夢駄目? 別の聞きたい? うーん…なんだろう。」


彼女が深く目を閉じて、首を傾げた。


「まぁ…無理に言わなくて良いわ。ドリハラって奴になるし。」


ドリームハラスメントってやつ。無理に夢を語らせる人が、うざがられていたからね。

夢がない人の方が多いのよね。


だって、今は娯楽ありすぎて、夢が無くても楽しい人生送れるから。


私はあれこれ考え、彼女の返事を待った。


「ふふ、そーだね… 夢か〜、私正義感強いから、声優か、アニメ脚本家目指そうかな。」


教室の机を避けて歩きながら、陽菜ちゃんが、夢を語った。



「ちょっと笑えるんだけど、正義感関係ないじゃん! 正義感出すなら警察か弁護士でしょ?」


正義感強いと自分で言うのと、関連性のない発言に笑いながら、彼女を指差した。


「だってぇ〜小雪ちゃんと一緒に仕事してお手伝いしたいから。正義感関係なかった!」



「もう! 別に陽菜ちゃんの夢だから、私の手伝いが夢って、私のこと好きすぎでしょ。」


第一に陽菜ちゃん声優は向いてそう。脚本家って何か書いたりしてるのだろうか?

してたとしても、最近だろう。

 

昔からしてたのなら、賢いはずで、生徒達も彼女をバカにしなかったはず。

そう考えるとこれから3年…まだ3年ある。


今からでも間に合うか。彼女の成長を見ていた私は、それを実現出来ると思わせる。



「先輩の次にね。だって小雪ちゃんの作品が世に出たら、一生残るんだよ? それの手伝いって素晴らしくない?」



陽菜ちゃんが腕を伸ばして、くるっと回った。天真爛漫なのかな…ほんとその可愛いさに、私は負ける。


まるで舞台に立つ、ミュージカルの女優の様。

彼女なら声優になって舞台に立つのも似合うかも。


教室の床が、その時だけ綺麗なパープル色に光を放ち、陽菜ちゃんがお姫様に見えた。


「ふっ、なら声優、脚本家両方目指しちゃう? そしたらいっぱいこき使ってやるから、覚悟してね。」


私は下手なウインクした。ウインク苦手なのよね。顔がひきつっちゃう。


「監督、ご指導のほどよろしくお願いします。なんてね!」


彼女が微笑み、私も笑顔で返した。

2人でハイタッチして、その場は大いに盛り上がった?



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ラブコメの主人公は俺じゃない? タカユキ @takayuki007

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