第5話彼女の裏の顔

「先輩私のことどう見てます? 良い子だと思いますか?」


レストランを出て、しばらく歩くと彼女が、後ろに手を回して可愛く言った。



「そりゃ、そう思ってるよ。どうした?」


不思議そうに俺は尋ねた。


「私裏の顔があるんです。決して良い子ではありません。先輩にだけ、裏の顔教えます。」



「知ってるよ。ツンデレだろ?」



「ち・が・い・ま・す。そんな生温い事じゃないです。」



「ならなんだ? 厨二病か?」



「それは先輩じゃないですか? 知らないですけど。」


さりげなく酷い。指摘した俺が悪いけど。俺をそういう風に見てたのか。まったく。


「裏の顔か。SNSで悪口書いてるとか? それだと陽菜を見る目が変わっちゃうな…流石に。」



「先輩…それは、確かに裏の顔ですけど…そんな卑怯なことしません。それだったら先輩に言えませんし。」



「そっか〜良かった。他に思いつかないな、裏の顔なんて。」


「私、裏だと口が物凄い悪いんです。表面上は言葉使い気をつけてますけど、先輩にも敬語ですが、1人だと結構悪いです。」



「あー、確かにそれは、あるかも。たまに口の悪さがポロって出てくる時あるね。」


んー、そう言えば陽菜の口の悪さが、揉め事起こした事あったな、懐かしい。




「先輩にもたまに、裏の顔見せても良いですか?」


裏の顔か、言ってもそれ程じゃないだろう。そんなに酷かったら、それは俺に言うかなと、勘繰ったからだ。


「例えば? どう言う感じなの? ちょっとそれで喋ってみて。」

 


彼女が咳払いをして、深呼吸をした。緊張しているのだろう。それがひしひしと硬い表情から察せられた。

 

「疲れたなーめっちゃダルいし、センコーもっと上手く教えろよなー。型通りじゃわかんねーつの。って感じですかね。」


えっ…聞き間違いじゃないよな?


「何それ怖い。いやータメ口はちょっと。ってかやっぱり陽菜…おっさんじゃないかい。音がおっさんなんだよ。」


少し笑って言った。



「先輩〜おっさんって言われると凄い傷つくんですってば。実際には言ってないですよ? 先生の悪口は。本当に言った例だしますね。」



「なら最初からその例出せば良かったんじゃ?」


「何か言いました? えっと〜前私勉強出来なくて、成績上の子がいたんですけど、いつもその子にお釣りを強奪されたんですよ。百円くらいなら良いんですけど、四百円以上だと、腹立ちますよね。」


陽菜の過去のエピソードが語られ始めた。

俺はそれに耳を傾けた。



「いつも4人くらいで行くんですけど、私いつも多めに出してたんですよね。その子に文句言いました。」


「それ私のお釣り…なんて言い返したと思います? 陽菜頭悪くて計算出来ないんだから、細かいこと良いのって、開き直られました。」


俺は眉をひそめて、彼女の話を聞いた。


凄いこと言う女子がいたもんだと思いながらも、陽菜がどれだけ言われて傷ついたか、その時の気持ちを感じ取ろうと思った。


「うん、それで?」


俺は話を続ける様促した。


「先輩に勉強教わって、その子より成績上になって、それでも強奪されたんです。言ってやりました、それ私のお釣りだよね?」



「そうかもね。まぁ良いじゃん。って言われて。そこで口調が悪くなったんですよね〜。もちろん受験のストレスもありましたけど。」



「いや、それ私のお釣りだから、ガメ子返せよって。その後みんなからよく言った! って褒められました。」


勉強して彼女より上になったのに、またされたなんて、ショックだろうな。それでも、勇敢に言い返した彼女を心で称えた。


「ほぇ〜。それ友達? 窃盗犯じゃん。そりゃ陽菜が口悪くても正しいけど、そのガメ子ちゃんとは、結局どうなったの?」



「窃盗犯…先輩のが口悪いんじゃ? ええと、めっちゃ私にビビってました。」



「いや、陽菜には負けるよ。ってかその人、遊びに誘わなければ良かったんじゃない? 何か弱みでも握られてたの?」


窃盗犯って確か以前、陽菜も似たような事言ってたぞ、過去に。


「先輩甘いです。その友達は、誘ってなくても、いつの間にいるんです。だから、私が多めに出さないと違う子のお釣り強奪されると思って、多めに出すしなかったんです。」



「なんだ、結局陽菜は裏の顔も含めて良い子だったって話じゃん。」


「当たり前ですよ。嫌な女でしょ? って話なんて、結婚した後にするものなんですよ。ごめんなさい、結婚したけど、借金あるんだー。とか。」



「それは、怖い。やっぱり女性って怖すぎるね。漫画の女性に比べると、夢がない。」


「おや〜? 先輩女子に興味なかったんじゃ? 漫画の女の子ってそれ、先輩理想高すぎるんじゃないですか?」


「興味はないけどさ、漫画の女性とか見ると、良いなーとかはやっぱり思うよ。」


「ふふ、先輩漫画の様な女性は、この世の中に存在しませんよ? それだと付き合っても、がっかりして別れちゃうパターンです。世の中に欠点のない女性なんていません。」



「そんなの分かんないじゃん。いるかも知れない。まぁいないから漫画のキャラが好きになるのかも。」


「いませんよ。断言出来ます。私の友達みたら、必ず嫌なところはありましたもん。SNSで私の悪口書いてたり、浮気してたり、平気で嘘ついたり。」



「良いですか先輩。欠点も愛してあげて下さい…そうすれば現実の女の子にも、関心が持てます。理想を少し、ほんの少し下げましょう、先輩。」



「…いや、でもさ、現実の子って怖いじゃん? 俺付き合ってないのに、付き合ってる事にされたことがあってさ。それで…恐怖を感じてさ。」



「先輩辛い重いしたんですね。私も男の人怖いですよ? でも怖がってばかりじゃ、余計コミュ取れなくなって、泥沼に入り込んじゃうなって。」



「なので一歩ずつ進んで考えて行って、全員怖い訳じゃないんだって気がつきました。」



「例えば、先輩は全然怖くないです。むしろ安心する。そういった人達を増やして行けば、そのうち怖くなくなりますよ、きっと。」



「確かに…陽菜は怖くない。安心する…って何言ってだろ。釣られちゃったよ。」



「ありがとうございます、先輩。理想下げろなんて偉そうに言った私にも、優しくしてくれて。正直先輩なら選び放題だと思うんですけど…自信は持って下さい。けど…あは、言ってること私、矛盾してるかも。」



「そんな事ないよ。言ってる事分かるよ。俺の方こそありがとう。」



「いえ…先輩が幸せになる事願ってるので…あの…照れて…なんだか上手く言えないです。」



「ありがとう、漫画の理想の子、超える子が目の前に現れた気がする。」


「えっ先輩それって?」


「褒め過ぎたかな? あは。」


「なんだぁ、褒められただけか〜。」


「陽が落ちて来たね。そろそろ帰ろうか?」


「はい、帰りましょう。今日は、先輩といっぱいお喋り出来て楽しかったです。」

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