第3話誤解と言葉越しの真意

「はぁ〜やっと意味が伝わりましたか。先輩、その答えを聞かせてくれませんか?」

シリアスな表情のまま、彼女が俺の答えを待ち望むかの様に俺の目を注視した。


「ああ、それは…漫画を今度貸してくれって意味だろう?」

俺も真面目に陽菜に返答した。それでも、答えが合っているかは、不安だった。まだ別の意味もあるかも知れない。そう考えた。



「先輩! そんな真剣な表情で言われても、全然合ってません。なんでそっちに行っちゃたんですか? 一回漫画から離れましょう。」


彼女は半ば笑いながら、俺の考えが間違いであると指摘した。


「違ったか。漫画ではないのか。降参だ。答えを教えてくれない?」

両手を挙げて参りましたという、ジェスチャーをした。


「あの…つまりその…先輩は…バカっ。」

彼女は照れ笑いを浮かべた様に言う。


むむ、はっきり言うなぁ。


「バカって意味だったのか! ショック。確かにバカかもしれん。」

俺は落胆して、彼女の様子を伺った。

きっと言い過ぎたって、フォローしてくれるかもと期待してだ。


「あーつい。先輩はバカみたいに優しいですから。さ…ご飯食べに行きましょ。」


なんかはぐらかされた気がするが…まぁ良いか。


「分かった。行こう。」

少し歩くと、陽菜が手を握って来た。


「先輩、手を繋いで良いですか?」


「もう繋いでるじゃん。」

俺は笑いながら答えた。


「拒否られたらこの世の終わりみたいになるので、既成事実を作っとこうかと。」

彼女は、どこか真剣な雰囲気を漂わせていた。



「大袈裟だなー。そんな拒否しないって。」


「はい。」

彼女は満足そうに微笑んだ。


「ん? なんでそんなに嬉しそうなの?」


「逆になんでだと思います?」

陽菜の逆質問とクイズがまた始まったなと思った。


…やっぱりアレだろ?


「ご飯奢って貰えるからかな。正解?」



「クスッ。先輩らしい答えですね。だと思いました。そうですねぇ、ま…そう言う事にしておきますか。」



「何か含みがある言い方だね? 俺らしいか。そっか…褒められたのかな?」

顎に手をやり答えを考えた。


「褒められた? ぷぷ、先輩って天然ですか?」


「なんだよ? 天然って良く言われるけどさ。」

頬を掻きながら、彼女に指摘され恥ずかしさを感じた。



「あー照れてる。先輩可愛くて、揶揄いたくなっちゃう。」

人差し指を指しながら、笑顔で言う。それでも右手は、俺の手を繋いでいた。

右手を繋いでるって甘えてるんだよな?


「あのー、陽菜甘えるか弄るか、どっちかにして貰えません?」


「あーやっぱり先輩、デレて欲しいんだね? 甘える方取るね。」



「はいはい、着いたよ、ファミレス。」

俺が扉を開け、陽菜を先に入れた。



「温度差感じるんですけど〜もっと喜びに溢れて下さい先輩。可愛い後輩と、ご飯一緒に食べるんですから。」

陽菜が揶揄う様に、俺を見つめる。


「あー俺前に冷めた男ねって言われたことあるな。」

テーブルに座りながら、昔の事を思い出した。


「えっ? 先輩誰に言われたんですか? そんな…先輩冗談ですよね? そんな…私の知ってるひとですか!」


陽菜が驚きの表情を浮かべた。テーブルに手をついて聞く。



「いや、親戚の叔母さん。そんな動揺すること? 

今日の陽菜は変だぞ? まぁいつもか。」


俺は軽く笑いながら、陽菜を揶揄う。


「…なんだ。いつも変って先輩ですよ! 変わってるのは! 私は至って普通の子ですよ?」

陽菜が少し拗ねる様に言う。


「はは、陽菜が普通の人。」

俺は笑いながら、陽菜の言葉に首を振る。

テーブル越しに彼女の目を見つめた。

陽菜は、不満そうな表情をしていた。



「む〜でも…確かに、先輩に罵られるのも悪くないって思う自分は、変なところあるかも。」

彼女は、ゆっくりとコップを手に取り、一口飲みながら、俺の反応を伺う。


「罵ってないよ。変なところも可愛いって言うか…陽菜の良いところだよね。」

陽菜に微笑みながら伝えた。


「か…かわ…先輩に…ありがとう先輩。嬉しいです。」

陽菜が恥じらう様にテーブルに置いてある、コップを見つめた。


「うん。どういたしまして。」


「やっぱり先輩はカッコよくて優しくて、いつも私の事をいつも大切に想ってくれてるんだなって。」


「褒め過ぎだって、そう言うのは彼氏に言うもんだよ。」

少し照れ臭いな。そう思い、頭を掻く。


「先輩に言っちゃ駄目なんですか?」


「駄目って事はないけどさ。」


「ちなみに彼氏いませんよ、先輩みたいな彼氏欲しい〜。」

何やら期待を込めた目で俺を見つめる。


「俺みたいな彼氏は辞めとこう。もっとなんて言うか、温かみのある人にしな。」



「…先輩ほど温かみのある人なんていませんよ?」

陽菜が真剣な表情で言う。


「は…恥ずかしいよ、そんな。煽てても何も出ないよ?」



「先輩煽ててもないし、私の本音です。なので何も要らないです。

ただ先輩の側にこれからも居たいです。」



「あー、心配しなくても、俺は陽菜の味方だよ?

高校生活心配なんだね?」


「…ちょっと…むー。先輩の答えが嬉しいですけど、期待した答えとまるで違うんですけどー。」


「期待したって何を? 陽菜は主語がないんじゃないか? それじゃ分からないって。」


「なるほど。それで先輩に伝わらなかったんですねー。でも〜普通分かる気もしますけどね? どっちもどっちって事で。」



「俺を巻き込むなよ。陽菜の伝え方が下手くそって事で良いだろ。」


「じゃあ〜先輩が教え方が上手くなる様に、教えて下さい。」


「いや、教え方じゃなくて伝え方な? 感情的に喋ってるからじゃない? あと主語抜いてるからだな。」



「そりゃ〜先輩には感情的になりますよ。主語が抜けてるのは、先輩と喋ってる時だけです。」



「それだよ! それ! まず、何故俺にだけ感情的になるのか、俺と喋ってる時理性的になれないのは何故か? 主語が抜けてますよー陽菜。」



「…なるほど。抜けてますねー。でもそれを考えて欲しいのが、乙女心なんですよ? 分かります?」



「自覚してるのか…やれやれだな。これは、無限ループじゃね?」



「先輩が私の事を真剣になって考えれば、自ずと答えは導き出されるはずです。と言うか、普通の男子なら、それで言ったのか〜って気がつきます。



「先輩が分からない振りをしてるのか、鈍ちんの人か、察しの悪い人かって話です。ここまで言って分かりません?」



「ちょっと待って、酷い言われ様だけど、なんの話?」



「ひぇ〜先輩もしかして人に興味ないとか?」



「うん、興味ないね。よく分かったね。」


「そんなはず…だって先輩中学の頃面倒見が良かったじゃないですか〜。そんな先輩が…もしかして何かあったんですか?」



「まぁ…勉強で大変だったのと、人に優しくするのがバカバカしくなって、興味がなくなった。」


「詳しく聞きたいです。先輩何か辛い目にあったんですね? でも…言いたくなければ無理には聞きませんけど、愚痴ならどんどん言ってください。少しでも楽になるなら、いつでも聞くので。」



「ありがとう。けど、陽菜とはそんな重い話したくない。楽しく話そうよ。陽菜の笑顔で気分が楽になるし。」


少し複雑な表情をしていた。そんな顔すんなよな。言って欲しいって顔に書いてあるぞ。やれやれ。



「はぁ〜話すとな、風邪引いてた男子女子にお見舞いしてたけど、女子から彼氏と思われて迷惑したとか言われたりして、まぁそういうのは、一例挙げただけだけど、積み重なって行ったんだよ。」



「なるほど。先輩が優し過ぎてそれが原因で傷ついたと、言う事ですね? なら、先輩は私にだけ優しくしてください。」


「なんだよ、ってか距離近いし、照れるだろうが。」


「へへへ、照れろ照れろ。」


「ありがとな。少し話せて気分良くなった。」


「私で良ければいつでも聞きます、先輩。」

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